忘れないで、愛してて


*音翔です。








2人で映画を見た。…っていっても、別にかしこまって見たわけではなく。今日はトキヤがいないから、って音也の部屋に遊びに来て、只、何をするでもなくボーっとしてたらテレビでやっていて。眺めてたら何故か画面に釘付けになってた。俺はソファに座って、音也は俺の膝に寄りかかり床に座って。

その映画はとても悲しい結末だった。救いのない最後の場面。愛してた恋人が、病気ですべての記憶をなくす話。だんだん、だんだん、好きな人が自分自身のことさえも忘れて、恋人を愛していたことだって簡単に忘れて。歩くことも、話すことも出来なくなって。全身衰弱で静かに息をひきとる、そんな話。

俺にとって、その話はとても身近なものに思えた。それは幼い頃から、いつ死ぬかわからない恐怖のなかで生きてきたからなのだろうか。映画を見終わってからも、俺はしばらく動くことができなかった。

どんな気持ちなんだろう、恋人に忘れられてしまうのは。どんな気持ちなんだろう、自分がいずれ恋人のことさえもわからなくなると知るのは。そしてそれが、どうしようもないことだと知るのは。きっと泣くだろう。泣いて、泣いて、運命を呪って、その後どんな感情が残るんだろう。

そんなことばかりをぼんやりと考えていた。不思議と音也もずっと動かなくて、触れあってる足が暖かかった。

「なぁ、俺が、音也のこと忘れたら、どうする?」

無意識に問いかけていた。こんなこと聞いてどうするつもりなのか、とかはまったく考えてなくて、只、自我観念の活動しない状態で話しかけてしまっていた。そんな質問に、音也は身じろぎもせず答えた。それは、まったくの予想外の言葉で。

「んー、忘れないと思うんだよね」

その言葉の意味を俺は飲み込めなくて、少し苦笑しながら音を返した。

「だから、もし忘れたら?」
「だから、忘れないんだよ!絶対。翔は、俺を、絶対忘れない」

そう言って、この男は痛いくらい手を握ってきた。まるでふてくされた子供みたいに。(あ…やっぱ違うな)
ふてくされてんじゃない、おっかないんだ。「忘れない」じゃなくて、まるで「忘れないで」と言ってるみたいだ。その時ふと、そんな音也を愛おしく思いながらよぎった考えは、

もしも、もしも俺がこいつを愛してたことも、こいつの存在自体も忘れてしまっても、この痛いくらいに手を握ってくる感触は、体が覚えてるんじゃね―かなって。心が忘れてしまっても、声とか温もりとかキスの感触とか、体はきっと覚えてる。もう既に条件反射みて―になってるから。だから、こうやってこいつが、「忘れないで」と手を握っていてくれるなら、俺はこいつを「忘れない」と思う。そっと手を握り返しながら、そんなことを考えた。

それからもうひとつ、もしもこいつの方が俺を忘れたら、一通り泣いて、馬鹿野郎って殴ってやる。こいつは単純で、どうしようもない馬鹿だから、俺が泣いてたら、絶対に思い出してくれるはずだ。




* * *

ヤンデレ気味音也が好きだけど、こんな音翔も好きです。アニメの天使音也もいいけど、ゲームの肉食男子っぽい音也が好きなので、それを目指したつもりがよくわからなくなったよwwてか、音也全然しゃべってないねww←
20111007

back
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -