一途


*卒業して何年か後に付き合った那翔。なっちゃんが乙女で弱め。二万打企画小説です。













僕だって、人並に恋愛はしてきた方だと思う。彼女が出来たことは残念ながらなかったけれど、同じ年頃の男の子たちと同様に可愛い女の子に片思いをして。そんな僕だけれど、男の子を好きになったのは翔ちゃんが初めてだった。でも、初めてだからってことを理由にしたとしても……何だか。恋愛って、こんなに醜い自分が出て来るものだっただろうか。僕の思っていた恋愛はもっとずっと楽しくてふわふわして、そんなものだったのに。君はこんな汚い僕を見てしまったら、僕のことを嫌いになってしまうかもしれない。



翔ちゃんとお付き合いを始めて、ようやく一カ月が経った。早乙女学園で同室だった翔ちゃんのことを、多分好きになったのは一瞬だったのだけれど、その想いが実るのにはすごくすごく時間がかかって。翔ちゃんに対する好きは友達の好きじゃないって、僕が自分自身の気持ちを自覚するまでも長かったけど、その後の方が途方に暮れる程長い道のりだった。翔ちゃんは男の僕に好かれることに酷く戸惑っていて、それでも嫌わないで側にいてくれたのは翔ちゃんが本当に優しい人だから。学園を卒業してお互いにシャイニング事務所の所属になってからも、沈み込みやすい僕のことを励ましてくれたのはやっぱり他の誰でもない翔ちゃんで。僕の心の中にいるもう一人の僕、さっちゃんのことも翔ちゃんは受け入れてくれたし、さっちゃんもそんな翔ちゃんのことを認めてくれた。そして一カ月前、もう何度目かわからない僕の真剣な告白に翔ちゃんが頷いてくれた時は、嬉しすぎて抱きしめた翔ちゃんを思いあまって潰してしまったかと思うくらいだった。
翔ちゃんと恋人になるまで本当に紆余曲折ばかりだったけれど、今では仕事じゃない時は毎日のように通い合っているお互いの部屋。翔ちゃんはテレビを見ていたり、ネイルを塗っていたり、でもちゃんと僕の話を聞いてくれる。すごくたまにだけど、翔ちゃんの方から恥ずかしそうにあの真っ白い手で触れてくれるから、小さな身体をギュッと抱きしめる。慌てた翔ちゃんの言葉はそっけないけれど、本当はすごくあったかい素敵な子だって僕は知ってる。僕がごはんを作ろうとすると、慌てた様子でやってきてはお手伝いをしてくれる。いっしょに作った時、翔ちゃんがすごく嬉しそうなのに気が付いたから、それから料理はいつでも二人でするようになった。僕はそんな翔ちゃんとの時間が大好きだ。アイドルの同期として尊敬している部分もあるし、恋人としても勿論大好きな、僕の翔ちゃん。

でも、最近気が付いたのは今まで知らなかった醜い自分。音也君やレン君と仲が良さそうに話している様子を見るだけで、頭の中に渦巻く負の感情。さっちゃんが心配して出て来ようとするのを、懸命に大丈夫だよってはねのける。だって、翔ちゃんには僕以外の人とどうにかなろうなんて気持ちがないことなんてわかっている。僕はたくさんの友達に囲まれて、幸せそうに輝いている翔ちゃんが好き、だからそういうのは割り切らなくちゃならないんだけど……不安とか、嫉妬とか、そういう類のものが頭から離れない。ギュッ、って胸が痛くなってハァッ、って溜め息を吐いたら、ストンッ、って僕の中に汚い思いが溜まる。その繰り返しで。嫌だな、こんな自分知られたくないな、そう思ってずっと溜め込んでいた。水を溜めたら、いつかは溢れる。この思いも、いつか溢れて流れ出てしまうのは予想できたけれど、ただ僕はそんな自分に目を瞑って汚いものを飲み込んだ。溢れるのは、時間の問題だったのに。



ある日、翔ちゃんの部屋で何気なく見つけてしまったのは、女の子と楽しそうに笑っている中学生の頃の翔ちゃんの写真。またモヤモヤ、苦しくて苦しくて。ハァッて息を吐いて、ストンッて……できなかった。ソファに座って雑誌を読んでいる翔ちゃんに向かって、口から溢れ出すのは本当は聞きたくもない汚い自分の言葉だった。

「僕……帰るね。それと、もうここには来ません」

僕は踵を返して玄関へと向かった。翔ちゃんの匂いでいっぱいなこの空間にいることさえもが苦しかった。当然、翔ちゃんは雑誌から顔を上げて僕を追う。

「はあ?那月っ、ちょっと待てって!……いきなりどうしたんだよ」

腕を掴まれる。小さくて可愛らしい見た目に反して、本当はすごく強い力の翔ちゃん。もしかしたら翔ちゃんは、その気になったら僕のことを殴りつけて逃げることだってできるのかもしれない。僕のことが嫌になった、その時には。翔ちゃんに掴まれている場所がジンジンと痛んで、千切れるんじゃないかと思ったけど、それよりも先に僕の心の方が千切れてしまうかもしれない。むしろ、もう既に千切れてしまっていたのかもしれなかった。汚い自分を見せてしまったら、もうここにはいられない気がしていたから。ねえ、いつか翔ちゃんは僕に言ったよね。「お前はずーっと、純粋なままでいろよな」って、僕の大好きな笑顔で。ずっと気になっていた、翔ちゃんがその言葉をどういう意味で言ったのかなんて真実はわからないけれど、僕は翔ちゃんが思ってるほど綺麗じゃない。じゃあ、汚い僕は駄目なの?こんなことで嫉妬して、逃げ出すような僕は、いらないですか?ねえ、翔ちゃん。
思いっきり泣きたいような気持ちだったのに、何故だか涙は出なかった。翔ちゃんの前ではいつでも格好いい僕でいたいっていう自分がまだいたからなのかな。

「ごめんね。僕は、翔ちゃんが思ってるほど純粋で綺麗じゃないです。翔ちゃんを一人占めしたくて、縛りつけたくて、しょうがないんだよ……」

僕は、純粋なんかじゃない。翔ちゃんの前では、綺麗でいられない。翔ちゃんの好きな僕でいられない。

「あのなあ……俺は、綺麗なお前が好きなんじゃないからな。お前だから綺麗だなって思うんだよ」
「え……」
「俺は、お前の素直に思ったこと言えるとことか、自分に正直なとことかがすごい好きなの。そういう意味ではお前は純粋だと思ってるけど……別に汚いとこあってもいいんじゃね?人間なんだし。俺は、その……そんなお前も、好き、だし」

いつも、あまり多くは自分の気持ちを語らない翔ちゃんが、途中から顔を真っ赤にしながら話してくれた気持ちは、僕の汚いものを取り除くには十分すぎるほどの言葉たちだった。そうだ、僕は綺麗なんかじゃない。綺麗なだけの人間なんて、きっといないんだ。翔ちゃんの前だから素直でいられる、翔ちゃんの好きな純粋な僕でいられる。

「僕、翔ちゃんが思ってるよりももっともーっと我儘なのかもしれないです。これからも……ずっと翔ちゃんのこと好きでいていい?」

さっきまで痛んでいた腕は、心地よい疼きに変わっていた。相変わらず触れているのは腕だけのはずなのに、まるで翔ちゃんを後ろから抱きしめているみたいにあったかくて。

「お前が我儘なのなんて、とっくの昔から知ってるっつーの!」

そう言って、照れ隠しにそっぽを向いた翔ちゃんの顔は、今までで一番素敵な僕の宝物になった。



(我儘でもいい、君の前では純粋で、そして一途な僕でいよう)



* * *

このお話の二人を男女で考えると、間違いなく那月ちゃんが女の子になるのだろうと思います。それも、すぐに不安になって暴走しちゃうような、とびきり不安定で女の子らしい女の子でしょう。
でも那月ちゃんと翔ちゃんに当てはめると、精神的には限りなく翔那に近い那翔になります。乙男那月ちゃん×男前翔ちゃん大好きです(^^)
お題はTV様からお借りしました。
20120226

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