甘い言葉と擦り寄る体温


*那→レン気味。二万打企画小説です。













僕は昔から、小さくて可愛いものが好きだった。ふわふわのぬいぐるみとか、小さな猫さんとか。女の子が着るフリルやレースがたくさん付いた洋服も大好きだった。幼少の頃から続いたその可愛いものに目がないところは今でも変わることはなくて、早乙女学園の生徒になった現在のお気に入りは、専ら翔ちゃんと春ちゃんだった。寮で同室の翔ちゃんと、僕のパートナーの春ちゃんは、二人とも小さいのに頑張り屋さんで一生懸命で、見ているだけで思わず笑顔になってしまうほど。小さい身体でヒョコヒョコパタパタと走り回っている姿を見つけると思わずギューッと腕の中に閉じ込めてしまいたくなる。僕の腕の中でジタバタ暴れる翔ちゃんも、真っ赤になって固まってしまう春ちゃんも、本当に大切な僕のお友達。でも、今の僕にはもう一人だけどうしても気になっている人がいる。その人は、はっきり言ってしまえば小さくもないし可愛いともあまり言えないような人。それなのに、どうしても気になってしまう人。
その人の名前は神宮寺レンくん。確かに彼は僕よりもほんの少しだけ小さいのだけれど、きっとその身体全部を僕の腕の中に収めることはできないだろうし、可愛い小動物のような雰囲気でもない。もっと言ってしまえば、今までの自分の友達の中には到底いなかったようなタイプの男の子だった。この学園に来る前に知り合った僕の友達は、翔ちゃんみたいに優しくて面倒見のいい男の子か、春ちゃんみたいにおっとりとした女の子ばかりだったから、レンくんのようにいつでもキラキラしていて女の子にモテモテな子とはあまり仲良くしたことはなかった。そんなレンくんと僕が仲良くなったきっかけは、十中八九僕の料理をレンくんが美味しそうに食べてくれたことだっただろう。僕のタイミングが悪いからなのか、どうしてだかあまりみんなに食べてもらえない料理をいつも嬉しそうにペロリと平らげてくれるレンくん。そのことが最高に幸せだったというのは自覚しているのだけれど、それだけのことでこんなに彼のことが気になるものだろうか?と自分自身に問いかけてみれば、答えはきっとノーに近くて。だから僕は、今もお菓子作りをしながらこうやって悶々と考えを巡らせているのである。

「那月……それ、何?」
「何って、チョコチップクッキーって見ればわかるじゃないですか。まったく、翔ちゃんはお茶目だなあ」
「その物体Xをクッキーと言い張れるお前の方がお茶目だと俺は思う」

僕の大好きな翔ちゃんは、まるで凶暴な肉食獣に怯えている子ウサギさんのように、少し離れた場所から僕の様子を窺っていた。もしかして翔ちゃんも食べたかったのかなあ。

「これはレンくんにあげるけど、後で翔ちゃんにもバレンタインのお菓子を作るからね」
「あ?それレンのかよ。……レンってチョコ嫌いじゃなかったっけ」
「僕の作ったやつは美味しく食べられるって言ってくれました!」
(まあ、まともにチョコの味しねーもんな……那月の作ったやつ……)

口の中だけでモゴモゴと何かを言った翔ちゃんの言葉はよくわからなかった。明日はバレンタインデー、そしてもう一つ僕にとって少し特別な日でもある。それは、神宮寺レンくんという一人の人間がこの世に生まれてきた日。誰もに一年に一回だけ訪れる、生まれてきたことを祝福されて感謝する日。出来上がったクッキーをお気に入りのピヨちゃんがついた紙袋の中に入れながら、また僕は疑問を頭の中で反駁する。どうしてレンくんの誕生日が、僕にとってこんなに大切なのだろうと。



「レンくん、お誕生日おめでとうございます!」
「ありがと、シノミー。毎年この日は憂鬱だけれど、これだけは割と楽しみにしてた」

誕生日当日、夕方くらいに彼の部屋を訪れてみると、同室者である真斗君はいないようだった。僕からのプレゼントに「ありがとう」と言って、少しだけ肩を竦めながらはにかんで見せるレンくんの仕草は矢張り可愛いと言うよりはどことなくセクシーさが感じられた。僕と彼は同い年で、一応僕の方が半年以上も先に生まれているのだけれど、僕にはないセクシュアルな魅力を彼は持っていると思う。早速とばかりに包みを開ける動きも何処か気品に溢れているし、クッキーをつまんで口に運んだ後に少しだけ指先を舐める様はズンと脳髄に響くほど扇情的であった。今までこんな気持ちになったことなんてなかった所為で、僕は自分自身に戸惑ってしまう。脳の芯がじんわりと痺れていくような感覚は、僕には何だか少しだけ怖かった。

「割とって……もっと楽しみにしてもらえてると思ってました」
「ん?俺が野郎からのプレゼントをこんなに楽しみにしてたのは初めてだよ」

自然な仕草で片目を瞑る彼に、誤魔化しようようもないほどに顕著に胸が高鳴ったのがわかった。僕の身体がこんな風になったことなんて、今まで一度だってなかった。翔ちゃんや春ちゃんを抱きしめる時、僕は幸せだったけどただそれだけだった。そして僕は悟るのだった、きっと人を好きになるのに理由なんてあってもなくても良くて、可愛くも小さくもなくても僕はレンくんのことが好きなのだと。

「お誕生日、おめでとうございまいます」
「?……うん、ありが、……と」

僕の渡したピヨちゃんの袋をそっと脇の机に置いた彼の手を、僕は咄嗟に掴んでいた。その手は僕と同じくらいに大きくて冷たい何ら可愛げもない手だったのだけど、僕の身体はその冷たい手に擦り寄ることを求めていた。きっと僕の身体には収まりきらないだろう、でも溜め息が出るくらい細いその身体をどうしてもこの腕に抱きたいという衝動を抑えながら、僕は彼に祝福の言葉を贈ることをやめられなかった。

「おめでとうございます、大好きです」

衝動を抑えていた僕の箍が外れてしまった直前に、視界に入ったレンくんの顔は今まで見たことがないほど赤く染められていて、(あ、レンくんもこんなに可愛い顔をするんだ)と思うと僕は嬉しくて堪らなくなったのだった。



(最高にあたたかい大好きを、贈ります)



* * *

初めてまともに書いた那レンでした。そして神宮寺誕生日おめでとう!「甘い言葉」=「おめでとうと大好き」でした。那レンは那→レン気味の方が好みです。レンくんとその他の友達とが少し違うことに悩む那月ちゃんが書きたかったのでした。次に那レンを書く時は、愛情表現がストレートかつ愛情過多な那月ちゃんに困ってる神宮寺が書きたいです(^^)
お題はTV様からお借りしました。
20120217

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