傷つかぬ心などいらない


*レン→←翔っぽい。二万打企画小説です。













あなたが今、一番欲しいものは何ですか?
それは明日のバラエティ実習でトークの訓練をする時のために出された課題だった。個々人で違うその課題はくじ引きによって決められたのだが、内容は多岐に渡っていて、「朝食は何でしたか?」なんて、どうやって話を膨らませるべきか頭を抱えてしまうような課題も混じっていた。俺たちが目指すものはお笑い芸人ではない、だからそんなにドッカンドッカンと笑いを取りにいく必要はないのだけれど、やっぱり小粋なトークというのは大切である。聞かれたことだけを馬鹿正直に答えているだけでは勿論減点で、そこからどうやって話を広げていくか、そのなかで如何に自分の魅力を語ることができるかが評価の対象となる。今回はまだ、事前に課題内容がわかっているだけマシといえよう。次回は何の準備もないままトークが始められるらしい。その場合は、質問に合わせて自分のことを話しつつ、自然な感じで話を脚色して面白くするという能力も試される。結局、アイドルといえど求められる能力は芸人に近いのだな、と思う。

「なー、レンが今一番欲しいものってなんだ?」

放課後の教室で、俺の前の席に座って携帯を弄っているレンに何ともなしに話しかけてみた。いつだって俺にちょっかいをかけることを楽しんでいるこいつとは、気付けばかなりの時間を一緒に過ごしているように思う。俺はレンのことを親友だと思っているのだけど、どうもレンは何を考えているのかわからない。「オチビちゃんは俺のハニーだろ?」とか言いながら優しく頭を撫でてくるようになったのはいつ頃からだっただろうか。その科白にわたわたと焦っていた自分なんてもう既に過去の産物となってしまっていて、「そうねダーリン、うれしいわー」と棒読みで返事をするまでが一連の流れとなってしまっていた。こんなやり取りははっきり言ってネタだと思っていたのだが、二人きりになった時にたまにレンが酷く切ないような顔で俺に触れてくることがあった。その顔はいつも冗談を言ってくる神宮寺レンとは違っていて、その度に俺はこいつのことがわからなくなるのだった。

「欲しいもの、ねえ。オチビちゃんの愛かな」
「はいはい、言ってろ言ってろ」
「酷い言い草だね。愛がないよ?ハニー」
「はははー、そういう茶番はそろそろ飽きたぜ、ダーリン?」

俺は結構真面目に悩んでいてレンに相談をしたつもりでいたのだが、繰り広げられたのはいつもの茶番劇で、解決の糸口が見えずに溜め息を吐く。欲しいもの、と言えば細かいものはたくさんあった。マニキュア、新しい帽子、CD、ケン王の新作フィギュア……でもそのどれもが違うような気がして。違う、というのはどうも求められている答えではないような気がして。もっと俺という存在に迫るような、そんな答えを探していたのだった。

「そうだね……俺は、傷つかない心が欲しいな」
「は?心?」
「そう、新しいのに交換可能な心でも可」

レンが言いだした内容は、レンの心に重く巣食っているであろう苦しみがよくわかるようなものだった。詳しいことなんて俺にはわからないのだけれど、それでもふとした瞬間に片鱗を見せるレンの闇。それは正体が見えないために、触れるのを躊躇ってしまいたくなるようなものだった。こんなに一緒に過ごしているのに、まだわからないことがたくさんあるのだと、思い知らされるようだった。傷つかない心が欲しいと、そう願うレン。その横顔は笑顔のままなのが余計に痛かった。傷つかない心を望むお前は、今までどれだけ傷つけられて生きてきたのだろうかと、その想像は漠然とし過ぎていて、ちっとも上手くいかなかった。
でも……俺だって同じだった。レンが俺に何かを隠しているように、俺だってレンに言えない秘密がある。それを、レンが俺に全てを曝け出してくれないから俺も言えない、なんて頭の片隅で思っている矮小な自分が嫌で嫌で堪らなかった。俺は弱かった、レンも弱かった。お互いに惹かれあっているのは気付いている癖に、ダーリンハニーなんていうふざけた言葉でそれを誤魔化していることが全てを物語っているように感じた。お前に好きだと告げる日と、お前に秘密を打ち明ける日、どちらが早く訪れるのだろうと思いながらも、今日も言えない自分が悔しい。言ってくれないレンももどかしい。

「俺は……そんなのいらないから、傷ついてもずっと生きていけるような丈夫な心が欲しいな」

レンがやりきれないというような顔をして、いつものように俺の頭を撫でた。俺という存在をまさに体現するような答えが見つかったと思ったけれど、こんなのはバラエティ実習では言えやしないなと思うと、俺もレンと同じような顔して笑ってしまった。



(傷つかぬ心などいらない、欲しいのは丈夫な心)



* * *

翔レンばかり書いていたせいか、久しぶりのレン翔は酷く難産でした。でも「ダーリン」「ハニー」というネタをやるレン翔が書きたかったので満足です。翔ちゃんは最初は嫌がってても、慣れると割とノリ良くやってくれそうかなあと思ったので(^^)今回は二人とも弱めに書いてみました。本当はせっかくのレン翔なのでアニメ版の格好いい神宮寺を書こうと思っていたのですが、やっぱり神宮寺はゲーム版の方が好きです←
お題はTV様からお借りしました。
20120213

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