Real or Fake?


*付き合っているトキレン。一万打企画小説です。












薄暗い部屋の中で、レンの橙色の髪だけがやけに美しいとぼんやり思った。情事の後、シーツに包まって必ず私に背を向けるレンを横目で見つつ、冷蔵庫へとミネラルウォーターを取りに行くことがこんなに自然なことになってしまった。HAYATOのために借りられたこのマンションの一室は、あまり使われていないせいか少しも生活感がない、とまるで他人事のようにぼんやりと思う。そんな無機質な部屋のベッドに横たわるレンは、やはり何処か、繊細に作られたオブジェのように見えた。レンと付き合うようになってから、こんな気持ちになることが少なからずあった。身体を繋げている間は悪魔のように淫靡で、触れた箇所が焼け爛れてしまうのではないかと錯覚するほど熱く感じられるのに、彼はある時急に作りもののように見える時がある。そんな危うさも、私が彼に惹かれた理由の一つであったのかもしれない。本当に、人を魅了してやまないという点では彼は悪魔のような存在である。
私は、背を向けているレンが本当はまだ起きていることを知っていた。起きているのに、わざわざ背を向けている理由も知っていた。それが、何だか気恥ずかしいからなどという生娘のような理由であることが殊更に可愛くて仕方がなかった。神宮寺レンという人間は、悪戯に私の心を丸裸にする。彼の前で私の心は、いつだって酷く無防備になるのだ。一ノ瀬トキヤが、HAYATOであると彼には気付かれていたように。

「……貴方は、何故私がHAYATOだと気付いたのですか」

気まぐれに発した言葉は、思えばもっと早くに聞いておく必要があったことだった。彼が学園でも私の様子を見て気が付いたのであれば、同じように気が付く人間がいるかもしれない。つまり、その点は早急に改善しなければならなかったのだ。

「ああ、会ったからさ、HAYATOに。大丈夫、イッチーの振る舞いは完璧だったよ」

会った、というのは、恐らく5月のあの時のことを指しているのだろうと予測がついた。HAYATOの番組の中で早乙女学園の紹介をすることになった時、その手伝いを生徒からの代表として選ばれたのがレンと聖川さんだった。確かにあの時HAYATOとしてレンと会ったことになるが、それは聖川さんや大勢のスタッフも同じことで、特別にレンと二人で会話をしたわけではなかったように思う。そもそも、私はそんな危険な場は作らないようにするはずである。では、何故なのだろうか。

「笑顔が本物じゃなかったから」
「笑顔が……?」
「そう。偽物の笑顔はね、わかってしまうんだ。……俺も同じだからだろうね」

そう言ってふっと自嘲気味に笑うレンの笑顔は、確かに心からの笑顔ではなかった。彼は、HAYATOの時の私の笑顔は偽物だという。そして……私と自分は同じだと、言う。

「HAYATOは作りものみたいだ。本当のイッチーじゃない」

その言葉は、私がずっと欲しいと思っていた言葉だった。そう、私は、一ノ瀬トキヤはここにいる。テレビの中のHAYATOは一ノ瀬トキヤではない。そのことをずっと叫びたいのに我慢していた。世間に求められる私でいることに疲れながらも、それを誤魔化して生きてきた。不覚にも涙が溢れてきそうになって、拳を握って顔を少し上に上げてグッと耐えた。先ほどまではつれなく背中を向けていたレンはいつの間にかベッドに腰掛けてこちらを見つめていたから、そんな私の変化には気が付いたかもしれない。いや、きっと気が付いたはずだ。だって、彼はこんなにも聡い人間だから。

「俺は本当のイッチーの方が何倍も好きだよ」

レンはきつく握った私の手を取って、自然な仕草で指に唇をそっと押しつけた。その唇は矢張り焦げ付いてしまいそうな程に熱くて、レンが生きていることを感じさせられた。

「その言葉、そっくりそのまま貴方に返したいですね」

幸いにも後ろはベッドだと、そのまま彼を乱れたままのシーツへと押し倒した。私だって、その他大勢に貴方が見せる仮面のような笑顔よりも、本当の貴方の方がずっとずっと好きなんですよ。薄く開いた唇に自分の唇を押しあてると、愛しい彼と一つになれたように感じられる。「愛しています」と耳元で囁くと、何でもないような素振りを見せながらも目元を紅く染めるのが可愛らしくて、つい何度も愛の言葉を口に出したくなってしまう。作りもののように見えるレンなのに、触れると熱くて熱くて堪らないのは、私がそうさせているのかもしれない、と今更ながらに気が付いた。レンの本当の姿を露わにできるのは私で、私の本当の姿を引き出すことができるのはレンだけだ。今はお互いの前でしか本当の自分でいられない私たちだけれど、それでもこんなに泣きたくなるくらい幸せなのだから、それでいいと思えた。



(偽物同士が紡ぐ、本当の愛だってあっていいはずだ)



* * *

私にしては珍しいことなのですが、今回はまったくのノープランで書き始めてみました。トキレンは似たもの同士の恋だよなあなんて思いつつ。一応対等な感じを目指してみたのですがどうでしょう……。この二人は言いたいことを言いあえてそうでいいカップルですね(^^)
20120130

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