本気の恋の説明書


*甘くてベタな龍レン。レンが乙女なので注意。一万打企画小説です。













「リューヤさんって、本当に俺のこと好き?」
「……何を今更」

シングルベッドに男二人で寝るのはどう考えても窮屈なのだけれど、それにも慣れてしまった頃だった。それくらい、休日にリューヤさんの部屋で二人でいるのが当たり前になってしまっていたのだから、今更という言葉が出て来るのも仕方のないことだと思う。彼と人には言えないような関係になってから大分時間が経ったし、(半年くらいになるだろうか)キス以上のことだってしている。(俺だって子どもじゃないからね)でも、どうしても気になってしまうことは、告白らしい告白もないままズルズルと縺れるようにこうなってしまったこと。最初に好きになったのは俺の方で、押し続けたのも俺の方。こんなに周りが見えなくなってしまうほどに好きだと思える人に出会えたのは初めてで、欲しくて欲しくて堪らなくて、手に入った時はリアルに泣くかと思う程嬉しかった。何ものにも執着しないように生きようとするうちに、いつの間にか執着することができなくなっていた俺にとって、リューヤさんの存在は本当に大きかったんだ。何が言いたいかって、まあ詰まる所、俺がリューヤさんを大好きってことなんだけど。
こうやってすぐ近くで見ると、やっぱりリューヤさんは同じ男から見ても格好良かった。射抜かれるとドキドキしてしまう鋭い瞳とか、妙にセクシーな首筋とか、俺を強い力で抱きしめてくれる逞しい腕とか、贔屓目もあるかもしれないけど格好いい。だからこそ、俺でいいのかなあと、柄にもなく思ってしまったりする。自分の容姿に自信はあるけれど、結局のところ俺は男で可愛らしくも柔らかくもない。女に生まれてたら良かったのかも、なんてことまで考えてしまう始末で。(だって俺が女だったら絶対美人だよ)

「ねえ、リューヤさんは俺のどこが好き?」

彼が自分から言ってくれるわけはないから、直接訊ねることにした。物言いがかなり直球なのには少し失敗したかなと自省する。こういうのは雰囲気が大事だ。ムードがないのは宜しくない。リューヤさんは些か困った顔をした……ように見えた。それは眉間の皺が少し増えたからで、でもリューヤさんは困った時も怒った時も嬉しい時だって眉間に皺を寄せるから、最後には勘を働かせる必要があるけど。

「そんなことより、寝ろ。明日撮影で早いんだろ」

俺の質問を「そんなこと」と言う彼は、そのまま俺の頭を二つポンポンと叩くから、何も言えなくなってしまった。リューヤさんは俺をたしなめる時、必ずこうして頭を叩く。彼の大きな手はすごく温かくて安心するのは確かだけれど、子ども扱いされているような誤魔化されているような、そんな気にもなる。結局はぐらかされているわけだし。



それから何日か経ったけれど、一度考え始めてしまったことはなかなか忘れることは難しいもので。一つ溜め息を落とすと、向かいに座っている聖川が視線を俺へと向けてきた。あと数十分で俺とこいつが二人で行っているラジオ番組の収録が始まるところだった。普段ならば必要以上にこいつと話すことなどしないので、聖川が話かけてきたのはほんの気まぐれ程度のものだったのだと思う。

「何か悩み事でもあるのか」
「……俺みたいな色男には悩みが尽きないものなんだよ」

「恋愛沙汰か」と眉根を寄せる聖川の顔が、いつも眉間に皺を刻んでいるリューヤさんの顔に重なって見えて、自分に嫌気が差した。まったく、この前から自分らしくない。

「お前はいいね。恋愛の悩みなんてなさそうで」
「失礼なことを言うな。俺にだってそれくらいある」

学生時代から、口を開けば「節操がない」だの「アイドルたるもの恋愛は禁止だ」などと言ってきた聖川の言葉とは思えなくて、少々面喰ってしまった。純粋に、そんな聖川が好意を寄せる人物に興味があって、「どんなレディなんだ」と尋ねていた。素直に教えてくれるとは思っていなかったのだが、収録までの時間を持て余していたせいか、聖川は淡々と答えてくれた。

「そうだな……。たれ目が印象的だ。笑うととても可愛らしいのだが、意地っ張りだからなかなか俺には微笑んでくれない。自由な振る舞いが似合っているが、誰よりも臆病なところもある」
「ふーん……そのレディのことが好きなんだ」
「……さぁな。まあとにかく、悩んでいるお前など不気味だから、行動してみればいいのではないか」

ふっと笑った聖川の顔は何だか無性に優しくて、それに少し戸惑った。そんな自分は見られたくなくて、「余計なお世話だね」と憎まれ口を叩きながら部屋を出たから、その後の聖川の言葉は聞くことができなかった。

「これでも気付かないとは、お前は案外鈍感だな、神宮寺」



悩んでいる俺などらしくない、聖川に言われて気が付いたというのは癪だが、確かにその通りでもあって。今まで色恋事でこんなに悩んだ経験はない。本気で人を好きになるということは酷く難しくて痛いものなのだな、と感じていた。思わず上の空になってしまうほどに気になるのなら、悩み続けるよりは解決させた方がいいに決まっている。流石にプロとして仕事に支障を出すわけにはいかない。そう思い、リューヤさんがいつも仕事をしている事務所の一室を訪れてみたのだが、彼の姿は見当たらない。多忙な人なのだから仕方のないことではあるのだが、恋人の行動パターンを全くわかっていない自分が少しだけ情けなくなる。それと同時に、恋人の行動を把握していたいと思うなんてか弱いレディのようである自分が嫌だった。この前は自分がレディだったら良かったのにと思っていたこともあったのに、成程本気の恋愛というものは矛盾を生むものでもあるらしい。

「何だ、神宮寺、来てたのか」

ドアを開けて入ってきたのはまさに俺の探していた人物で、一人でグルグルとどうしようもない思考を巡らせていた俺は、驚いて馬鹿なことを言ってしまった。

「リューヤさん?どうかしたの?」
「……お前が俺に用があってここに来たんだろう?」

やってしまった、と内心動揺する。悩む、という行為はつまり自分に余裕のなくなってしまう行為であって、そのせいでこんなにも浅はかなことをしてしまうものなのか。今まで上手く生きてきたつもりだったけれど、どうやらそれは思いあがりだったようである。聖川ではないが、もっと精進する必要がありそうだ。

「ま、大方この前のくだらないことで悩んでんだろ、お前」
「は……?」

くだらないこと。その一言がまるで見えないウイルスのように俺の思考の冷静な部分を蝕んでいった。リューヤさんにとってはやっぱりくだらないこと。俺がこんなにリューヤさんのことが好きで、悩んでいることも全部くだらないこと。そう考えると、悩んでいたせいで熱を持っていた脳のある部分が、急速に冷えていくような、そんな感覚に陥る。ねえ、リューヤさん、あなたにとって俺って何。ただの遊び?他よりも少し都合のいい生徒?それともセックスの道具?俺ね、自分は賢い方だと思っていたけど、本気の恋愛はわからないことだらけで、だから言ってくれないとわからないんだ。

「神宮寺……俺は好きでもない奴とわざわざ一緒にいたりしねえ」
「……?」
「それから、好きでもない奴にこんな事もしない」

そう言って俺に近づいてくるリューヤさんは、何だか少し楽しそうな笑みを浮かべている。リューヤさんの顔が、髪をかけているために露わになっている俺の左耳に迫っていて、驚いて逃げようとしたけれど手首をしっかりと掴まれていて動けない。さらに俺は後退りをしたが、これ幸いと壁に身体を押しつけられる羽目に陥ってしまう。俺を押さえつけるリューヤさんの手は、乱暴なはずなのに何故か安心してしまう。首元に口付けられるとそこがあっという間に熱を持つのがわかった。普段は厳しいことや冷たいことを言うことの方が多い唇とは思えない程に熱い唇が、チリッとした痛みとともに俺の首筋に痕を残す。それだけで俺の身体はふわふわと宙に浮くような心地になってしまうのだから、彼の唇にはきっと特別な魔法をかける力があるのだろうと思う。そのまま一つの体温が俺から離れていって、火照った頬に涼しい風が当たる。何か嫌味の一つでも言ってやりたいような気分だったけれど、口から出たのは荒い息だけだった。

「今回はこれで勘弁してくれ、レン」

そして彼は俺に顔を見られまいという仕草のまま、急いで部屋を出て行ってしまった。残された俺はただ呆然とするしかなくて、先ほどまでの行為のショックもあってズルズルとそのまま壁を支えに床に座り込む。何もかもが反則だ、と膝を抱えた。俺の心をこんなに高鳴らせるようなことをしておいていなくなってしまったことも、余裕な素振りを見せておいていきなりあんなに動揺することも、何もかも。

(好きでもない奴とわざわざ一緒にいたりしねえ)

その一言だけでこんなに嬉しくなって、悩んでいたことなんてどうでもいいと思えてしまう自分は何て滑稽なのだろうと思ったけれど、きっと本気の恋愛とはこういうことなのだろうと、そんな自分を許すことにした。



(本気の恋愛はレディへの接し方よりもずっと難しい)
(でも、こうやって悩む自分もそんなに悪くない)



* * *

これくらいベタで甘い話を一度でいいからutprで、レン受けで、書いてみたかった。そうしたら、やっぱり龍レンかなあと思いました。アダルティな龍レンも大好物なんですが、恋愛に対してこなれてそうな二人がわたわたしている龍レンもすごく好みだと最近気が付きました(^^)聖川の件はどう考えてもなくても成立したと思うのですが、聖川の眉間の皺で龍也さんを想う神宮寺をどうしても書きたかった←
20120122

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