愛なんてきっと、気付けないほどそばにある


*那翔、レン翔要素ありのマサレンです。









「翔ちゃーん!お昼いっしょに食べましょう!」
「わかったから、でかい声だすな!今行くからっ」

シノミーがオチビちゃんに会いにうちのクラスにやって来る。そんな光景はもう日常茶飯事で、Sクラスの誰もが見慣れたものとなってしまっている。俺の視線の先には、ふにゃりと破顔してオチビちゃんを見下ろすシノミーがいて、「いってくる」とばかりに俺に手振り、満更でもなさそうな顔でついていく小さな可愛い子。何気なく眺めるにはどうもダメージが大きすぎると、机に肘を付きながら息を吐いた。人の幸せがこんなにも痛い。そんな自分が嫌すぎて、席を立つ。近づいて来た女の子たちはいつもの笑顔で簡単にあしらって、(ごめんね、ちょっとリューヤさんに呼ばれてて)午後の授業はサボリ、と自室に戻る。あぁ、痛い。どこが痛いのかなんて、とっくの昔にわからなくなっている。もうずっと、俺は何かが痛いままなんだ。

誰にも言えないことだけど、入学したばかりの頃、(5月くらいだったろうか)俺はオチビちゃんを好きになった。理由はわかっている、それは「自分ではない、他の誰かを大事にしていたから」だ。昔から、自分の恋はいつだって上手くいかない。俺は誰からも本当に愛されたことがないから、人を本気に好きになることなんてできないのかもしれない。そのくせ上辺だけの付き合いは得意で、女の子には不自由なんてしたことがないが。(たまに男からも好かれた)そのせいか他人の恋路を観察することには長けているものだから、横から見ていて羨ましくなる。オチビちゃんのこともそうだ。シノミーに大事にされていて、何だかんだシノミーを大事にしていて……あの気持ちが自分に向いたらどんな感じだろうか、なんて。俺が好きになるのはいつも他の誰かを大切にしている人ばかりだ。欲しくなる、その優しさが、その愛が俺に向いたら?どれだけ幸せだろうか?

「ねぇ、オチビちゃん。俺と付き合ってみない?オチビちゃん可愛いから、すごく優しくしてあげる」

放課後の2人きりの教室で俺がそう言った時のオチビちゃんの顔は、多分一生忘れられない。驚いたような、困っているような、それでいて俺を哀れんでいるような、そんな顔だった。

「……大事な奴が、いるから。ごめん」
「……そっか。あーあ、振られたかぁ、こんないい男振るなんて、いい度胸してるよ?オチビちゃん」

多分オチビちゃんは気付いていた、俺の心のうちを。オチビちゃんが手に入らないのなんて最初からわかってる。だって、シノミーのことを好きな君を、俺は好きになったんだよ。冗談めかした告白は自分を守るための盾のようなもので。この思いは実らないとわかっているから、ジョークにしてしまう、それは自分が傷つきたくないからだ。その時、オチビちゃんが俺に言った言葉は、今でも俺の頭の中でグルグル回る。

「お前は、意地さえ張らなきゃ絶対幸せになれる」

そのすぐ後くらいに、オチビちゃんとシノミーは付き合いだした。それを素直に良かったと思える自分がいて、尚更痛かった。
痛い、どこかがとても痛い。もうずっと、自分ではわからない何かが痛いんだ。涙がボロボロと零れ出して、(いたい)(つらい)ベッドの上で膝を抱えたとき、そっと部屋のドアが開いたのがわかった。

「……なんでこんな時間に帰ってくるんだよ」
「俺の部屋だ、帰って来て不都合はないだろう」

そう言って部屋の中に当然のように入って来るのは聖川真斗。同室者なのだから、確かに何も悪いことはない。顔を伏せたまま、無言で肯定した。そういえば、幼い頃から俺が泣きたい気分の時に隣にいるのはいつだってコイツだった。年を経て、家とか立場とか意地とか、いろいろなものが混ざり合って顔を合わせば喧嘩になってしまうようになったけれど、俺が辛いときにいつも無言で側にいるのはコイツだったとことに気づく。(実際に泣き顔を見られたことまではなかったけど)

「辛いなら泣け」

俺にしか聞こえないくらいの声で、でもハッキリと、聖川は言った。泣いているのは隠せていると思った、でもこういう時に優しい言葉をかけられると余計に泣けてしまうのが人間というもので、我慢したかったが俺はえぐえぐと声を出して泣いていた。(普段は絶対こんなことしない、何かが爆発したのはコイツのせいだ)

「……だから、俺にしておけと昔から言っているだろう」
「それは無理だ。俺の意地とかプライドとか、そういうのが許さない。お前なんて、」

好きじゃない、と、そう言うつもりだったのに、その言葉は聖川の声にいとも簡単に遮られた。

「でも、俺は好きだ」

思わず、顔を上げてしまう。そうしたら、思ったよりも近くに聖川の顔があって、(すごく真剣な顔だ)でも触れられるほど近くはなくて、あぁまさに俺達がずっと保ってきた距離みたいだ、なんて思った。誰よりもずっと近くにいたのに、でも恐くて触れなくて、思いはわかっていたけど、ずっと無視しつづけて。

(お前は、意地さえ張らなきゃ絶対幸せになれる)

ねぇオチビちゃん、今度教えて。君は気付いてたのかな。

「好きな奴に、大事にされてみたい」

また涙がにじんだ。みっともないくらい声が震えてて、それでも、馬鹿みたいに見えても、意地は、張らないから。

「大事にしろ!大事にしろ!ぜったい……大事に、しろ、」

俺も、お前を大事にするから、そう言いたかったけど、その前に呆れるくらい優しく頭を撫でられたから。なんかもう何も言わなくていいかと思ってしまった。

誰かに大事にされたかった。誰かを大事にしてみたかった。誰にも愛されたことのない俺が、うまく人を愛せるか不安だけど、うんとうんと大切にしたいと、心から思える人に出会えたんだ。



(愛なんて、きっと気付けないほどそばにある)





* * *

初めて書いた小説だけど、那翔・レン翔・マサレン要素アリってマニアックすぎるだろjk、と思ってきた。これくらい自分に自身がない神宮寺もいいんじゃないかと最近思ってます。でも男前神宮寺も大好きだから困ってます←
20111007

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