密やかな指きり


*トキ→レン←翔で、翔視点です。フリリクくださった菖蒲さんに捧げます。













「こんなに天気のいい休日に、レディと出かけられないだなんて、本当に勿体ないよね」
「しょーがねーだろ、課題なんだから」
「レン、あなたがいないと進まないではないですか」
「はいはい、わかってるよ」

今日は日曜日。休日であるため、普段は人が大勢いる早乙女学園の校舎にも人の影は疎らだ。恐らく練習室にはそれなりの人がいるのだと思うが、俺たち3人がいる教室のたくさん並んでいる方には、他に人の姿は見えなかった。俺、トキヤ、レンが休日にまで教室に集まっているのは課題のための練習をすることが目的で、グループごとに課題曲を自由にアレンジしてレコーディングしたものを期限までに提出するという課題内容だった。授業や課題でグループを組まされることは、そう珍しいことではない。歌のレッスン、演技指導、バラエティ実習など、ペアやグループで行うものはたくさんあった。それはランダムで決められるものも多い、アイドルになった時、どんな人間ともそれなりに上手くやっていくための訓練なのだろうと俺は勝手に解釈している。(あながち間違ってはいないはずだ)でも、自由にグループを決めても良いと言われることも時たまあって、その場合俺たち3人は何だかんだ自然に集まるような仲だった。中学生の女子ではあるまいし、どこにいても何をするのもいっしょなどというわけではないが、気が付いたらいつも3人でいる。俺はトキヤとレンの他にもSクラスで仲のいい奴はけっこういるけど、それでもいつもこのメンバーに収まるのは、やっぱりこの3人でいるのは居心地がいいからなのだと思う。レンが俺に要らんちょっかいを出してきて、それをトキヤが止めにくる。ある時は、俺がレンにおせっかいをして、レンがトキヤに助けを求めてさらにおせっかいされてたり。またある時は、俺とレンが2人でトキヤを構いにいったりもする。俺たちを取り巻く矢印を書くとしたならば、きっとそれはその時々によって色々な方向を向いているのだろうな、と思う。普段は驚くほどてんでバラバラな方向を向いているのだけれど、いざという時にはきっちりとお互いの方向を向いていたりとか、そんな奇妙な関係が俺たち3人なんだ。でもそれは、奇妙でいてまた一方で心地いいものでもあるから不思議だ。



「……こんなものですかね。後は期限までに練習を重ねれば大丈夫でしょう」
「良かったねー、オチビちゃん。イッチーのお許しが出たよ」
「そもそも貴方がやる気を出していれば、もっと早く終わったんですよ、レン」

レンとトキヤがいつものように軽口を叩き合っている。この2人にとっては、この一見仲が悪いかのような雰囲気がデフォルトで、それでもよくよく見るとお互い楽しそうに笑っている。

「さ、せっかく早く終わったんだし、少し羽を伸ばそうか」
「あ、俺カラオケ行きたい!」
「やれやれ……レン、あなたは女性と出かけたいと先程言っていませんでしたか?」

トキヤが少し意地の悪そうな顔でレンにそんなことを尋ねる。さっきの言い合いはどうやらまだ続いているようだ。レンはというと、教室の窓枠に腰掛けて、ほんの一瞬考え込むように視線を外に向ける。モデルのようにスラリと長い足をもつレンのその姿は、まるでファッション雑誌の1ページをそのまま切り抜いてきたかのように様になっていて、何だか眩しく感じる。

「今は、イッチーとオチビちゃんといたい気分。ダメかな?」

考え込む素振りから一転、普段は見せない無邪気な笑顔で俺たちにそう告げるレン。俺はこいつのこの顔に弱い、そしてそれは多分トキヤも同じだ。

「ダメじゃねーよ!行こうぜ!」
「仕方ないですね、今日はあなたたちに付き合いますか」



俺とトキヤは、きっとレンの存在がなければこんなに仲が良くなっていなかったのではないかと思う。俺は人見知りはしないタイプだし、どんな奴とでも付き合うことができると思うけれど、トキヤのように必要以上には自分から他人と関わろうとしない奴とは、多分そこまで親密にはならない。俺たちがここまで関係を深めることができたのは、神宮寺レンという人間の力が大きいと言わざるを得ない。だからと言って、決してレンが俺たち2人の仲を取り持とうとしたわけではない。俺たちは、どちらもレンに惹かれて集まったのだ、と今になって思う。
人当たりは良くて世渡り上手な癖に、どこか影を隠しているレン。その隠している酷く柔らかくて弱い部分をたまに垣間見ることができる。それでいて、さっきみたいに誰にでも見せるわけじゃない笑顔を見せてくれたりだとか。何かいい奴から、気になる奴に変われば、後はレンの持つ華やかな魅力と密やかな儚さであっという間に俺はレンに惹かれていた。そしてそれは、同じことがトキヤにも言えるのだろう。

(だって、レンを見るトキヤの瞳はあんなにも穏やかで優しい)

俺たちは、口に出しては言わないけれど、心の何処かでレンは2人のものだと思っている。必要以上に自分に干渉されることを嫌がるレンだから、その柔らかい部分に踏み込むのには覚悟がいる。その行為は勝手に行ってはいけないことだと、暗黙の了解のようなものが自然と俺とトキヤの間にはできていたのだ。今はこの関係が愛おしいから。もう少しレンをこのまま居心地の良い距離で見つめていたいから。

「よし、俺絶対に日向先生の曲歌う!」
「じゃあ、俺はボスの曲でも歌わせてもらおうかな」
「トキヤは月宮先生のデビュー曲歌えよ!」
「丁重にお断り致します」
「イッチーはノリが悪いよ」
「あなたのは悪ノリというんですよ」



(俺たちはまだ動かない、絶対に勝手な衝動でレンを傷つけたりしない)
(それは、密やかに交わされた、水面下の約束、だって君が好きだから)



* * *

ほのぼのしたバカっぽい話にしようと思っていたのですが、思ったよりジリジリした感じの話になってしまいました←
トキ→レン←翔の場合って、抜け駆けしないように牽制し合ってどっちが上手く出し抜くかっていう感じよりも、レンのためを第一に考えて正々堂々と勝負しそうだなあと思ったのでこんなお話になりました。仲良しこよしなSクラスも可愛くて好きですが、付かず離れずだけど上手く信頼し合ってる感じのSクラスの微妙な感じも大好きです。
20111231

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