ごめん好きになっちゃったどうしたらいい?
*龍レンのカテキョパロ「わかっていたのに虜になった」の続きです。フリリクくださった瑠奈さんに捧げます。
いつだって俺はこの家で一人ぼっちだった。愛して欲しいと叫んでも、与えられるものといえば俺を苦しめる余計なものばかり。いつからか叫ぶことを止めたけれど、心の内で愛してほしい愛してほしいと強請ったって、やっぱり絶望するほどそれは与えられなくて。それならば、俺には頑張ることしか残されていなかったのに、その努力を見てほしかった人、俺がいちばん愛してほしかった人は、俺に一度たりとも笑いかけることもないまま逝ってしまった。(神様は残酷すぎるね)生きる意味を見失って自暴自棄になって、街の薄暗い場所で喧嘩ばかりの毎日を送ったのは、ある意味で消えてなくなりたいと思っていたから。それでも自ら命を絶つという道を選ばなかったのは、心の何処かで誰かに愛されてみたいと思っていたからなのだろうか。(我ながらなんて浅はかなのだろうか)そんな俺の様子に痺れを切らした兄は、また俺をこの何一つ自由にならない邸に閉じ込めた。まるで軟禁状態じゃないか、と俺の監視をしつづける使用人を眺めながら思っていた。自分は、昔読んだお伽話のビューティアンドビーストの野獣のようだと、窓の外を見つめながら思う。誰からも愛されず、愛し方も知らず、ただ何もすることもできずに閉じ込められているだけ。唯一のまともな話し相手は、兄がよこした家庭教師くらいのもので、そこで俺は自分が微笑むだけで、相手にすり寄るだけで、簡単に愛を貰えることを知った。男も女も、俺が物欲しそうな顔をすれば、愛をくれる。もともと、自分は母親譲りの整った顔立ちをしているのだということには気が付いていたのだ。でも、そんな行為を重ねていくなかで、俺はもう一つ重要なことに行き着いた。この方法で手に入れられる愛は所詮偽物で、その場限りのものでしかないということ。結局、俺は誰からも愛されてなどいないということ。それでも、他に愛され方を知らない俺は、その不毛な行為をつづけていくことしかできなかったんだ。……彼に出会うまでは。
「そんなことをしなくても、俺はお前を見てるぞ」
「俺はお前の傍にいてやる。だから、それ以上のことはしなくていい」
「わかってほしいなら話してくれ。それに、俺はわかってやりたいとも思う」
そのとき、あなたは俺のすべてになったんだよ。ねえ、そんなことを言ったら困るだろうね。それはわかってはいるんだけど、どうしたらいいのかはちっともわからないんだ。
「お前……賢いなあ。高2レベルは教える必要ねぇな。明日から高3の問題持ってくるか」
「もっと誉めてくれてもいいんだよ、リューヤさん」
「調子に乗るな」と、丸めたプリントで叩かれる。(全然痛くないんだけどね)リューヤさんがここに来るようになってから、もうすぐ1週間が経とうとしている。リューヤさんははじめに言った言葉通り、毎日欠かさずにここに来てくれたし、俺が何か特別なことをしなくたって傍にいてくれた。問題が解けたら素直に誉めてくれたし、俺が我儘を言ったらちゃんと目を見て叱ってくれた。(でも最後には少しだけ甘やかしてもくれた)こんなにも親身になって俺の傍に寄り添っていてくれる人は初めてで、誉められたら嬉しいし、叱られたって嬉しい。俺という人間を、見ていてくれることがこんなにも嬉しい。
「しかし、お前しばらく学校行ってなかったくせに何でこんなに出来るんだ?」
俺のために新しい問題を作りながら、もののついで、とでも言うようさり気なくリューヤさんが尋ねてくる。リューヤさんが紙にペンを走らせている時の、眉間に寄った皺と首筋に浮き出た血管を見つめるのが俺は好きだった。それは殊更に彼が大人の男であることを俺に気付かせる。そのセクシュアルな様を眺めると、いつも胸の鼓動が少しだけ早まるのだ。
「……認められたかったから、頑張っただけだよ。もう、意味はないけど」
「……悪い、今の俺の発言は少し短絡的だったな」
「ううん。リューヤさんだから、いい」
ぎゅ、と椅子の上で片足を抱える。今の自分は酷く情けない泣きそうな顔をしていそうで、それを見られたくなくて顔を隠した。この人の前では、どうも感情制限が上手くいかない。嬉しかったり、悲しかったり、感情の振り幅が大きくなりすぎて自分自身戸惑ってしまう。誉められたい、叱られたい、優しくされたい、こんな自分は今まで知らなかった。
「これからは、俺が認めてやる。お前が頑張ってるの、見てるからな」
顔を隠すために俯いた俺の頭に、思わず泣きたくなってしまうほどに温かくて大きな手が乗せられる。ポンポンと2つ叩いてから、優しく俺の髪を梳くその骨ばった大人の男の手は、驚くほど簡単に俺の心を高鳴らせるのだ。きっと今、彼の顔は俺の大好きなあの笑顔になっている。顔を上げてその顔を見たいけれど、泣きそうでしかも赤くなっているだろう、そんな自分の顔は見られたくなくて、心の中でジレンマが巻き起こる。思えば、俺の人生はジレンマばかりだ、認められたいのに認められない、愛されたいのに愛されない。あのね、愛されたいと思ってばかりだった俺だから、こんな気持ち知らなかった。誰も教えてくれなかった。
「ねえ、リューヤさん、」
嗚呼、あなたはきっともの凄く困ったような顔をして、そしてその後どうするのだろうか。
(好きになっちゃった、どうしたらいい?)
* * *
また酷く中途半端な終わり方ですいません……!そして、続きっていうかただのレン視点←
パロなので、このお話のレンは心持ち子ども臭く書いているつもりでいます。ガキっぽいというよりかは、純粋な感じで。レンに「好きになっちゃった、どうしたらいい?」って泣きそうなような照れたようなそんな顔で言われたリューヤさんは、きっともうどうしようもないくらいに困り果てるんだろうな、と思います。男で大人の自分がレンとは付き合えないだとか、そもそも自分がレンにとって初めて心を許せた人間だから好きと錯覚しているだけなんじゃないかとか、それこそ色々なことを考えるんだろうなあ。そしてそんなリューヤさんを見てレンはまた少し傷つくのだと思います。レンの初恋って書いてて楽しい。
タイトルは「確かに恋だった」様からお借りしました。
20111227
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