asymmetrical love


*音翔が付き合っていることがST☆RISH内公認なので注意です。フリリクくださったももんがさんに捧げます。












音也の背が伸びた、と思う。昨日、ふと気になって、そういえばお前身長いくつだっけ?って聞いたら、「んー、175だったかな」という答え。そんなのは知ってるよ、お前事務所の公式ホームページにも175センチで載せてるだろと言おうと思ったけど、何かこいつのことを何でもチェックしているみたいで恥ずかしいから口に出すのは止めておいた。何故俺が急にそんなことを聞いたかと言うと、俺たちが出演したテレビを見ていたらトキヤと音也の身長があまり変わらないように見えたからで。もしかしてこいつ今測ったら180近くあるんじゃないだろうか。すげーむかつく、俺はいつで身長伸びるの止まったと思ってんだよ。中学生だぞ。まだ伸びてるなんて羨ましすぎる。でもそうやって身長のことでキャンキャン喚くのはみっともないってことがもうわかっていたから、俺は何も言わずに隣でテレビを見ている音也の頬を思い切り抓った。「いひゃい!」って間抜けな声を上げる音也をじとりと横目で見やる。俺は大人だからこれくらいで勘弁してやる、と心の中で思いながら。



「不公平だよな、足して2で割ったらちょうど日本人男子の平均に近くなれるじゃねーか!」
「……キャンキャン喚くのはみっともないって気付いたんじゃなかったのかい?」
「今は音也がいないからいいんだよっ!」

今日は新曲のレコーディングのために、メンバー全員がスタジオに集まる日だ。収録にはけっこう時間をかけるから、今俺は待機中。同じ部屋にはレンしかいないから、つい昨日の出来事を話してしまった。レンは学生時代から、俺のことオチビちゃんとかふざけたあだ名で呼んでくるような奴だけど、何故かそれを許してしまっている自分がいる。それは多分レンがある意味潔いからだろうな、と思う。俺が身長のことを気にしているからといってその話題を避けるように、地雷を踏まないように、って腫れものを扱うみたいにされると却ってむかついてしまうもので。レンのようにそれを悪気なく言ってくる奴の方が意外と気にならなかったりする。(真面目な話する時は「翔」って呼ぶしな、こいつ)

「いいじゃない、世間では恋人同士の理想の身長差は20センチだっていうし」
「よくない、俺男だぞ」
「別に恋人が身長高いほうがいいことなんてありゃしないでしょ」
「……身長低くて悪いことはあるのか?」
「身長差あると色々疲れるけど、20センチなら問題なし」
「色々疲れる?」
「疲れるでしょうよ、特に夜は」

レンと話していて、こういう類の話になるのがいちばん苦手だった。女の子じゃあるまいし、下ネタを不潔だとか思ってるわけではない。学生時代はそういう話をよくしていたし、でも今俺たちがそういう話をするということは、俺と音也のことを赤裸々に話していることに等しい。だからつい、下品な話に免疫のない少女のような反応を返してしまう自分が嫌だった。平気なフリをして聞き流してしまうのが正解なんだということは十分わかっているはずなのに、どうも上手くいかない。不自然であることはわかりきっていたけれど、レコーディングの進行を見てくる、と言い置いて俺はその場を後にすることにした。今から音也と顔を合わせるのだから切り替えろ、と自分を叱咤しながら。

「翔、わかってるんじゃないの。自分らしくないって」

自分でもどうするべきかわかりきっていたとして、それでも誰かに愚痴を聞いてほしい時というのがある。それなら、自分の愚痴にただただ頷いて、そうだね辛いねって言ってくれる奴を話し相手に選ぶべきだ。でもレンはそれを許さない。絶対最後にチクリとその物事の本質を刺すことを忘れない。結局、俺はそうやって自分を突いて欲しいからレンを話し相手に選ぶのかもしれない、と思った。どうすべきかなんてわかっているのだ、ただ自分が勝手に苛立っているだけだということも。「サンキュ、頭冷えた」と小さな声を出した。「どういたしまして」というレンの声は、背中で聞いた。



音也が俺の身長のことなんて微塵も気にしていないということなんて、勿論わかっているのだ。気にしているのは俺一人だけ。ただ何となく、同じ男として悔しいってこともあるけど、いちばん思うことは音也と対等でありたいということ。音也はすごく成長が早い人間だと思う。歌うことが楽しい、踊ることが楽しい、楽しいからやる、それだけで音也はすぐに上達していく。でも俺は違って、歌うことも踊ることも大好きだけど、人の何倍も何十倍も努力をしないとできるようにならない。そんな俺を知る人は努力家だ、素晴らしいことだと言ってくれるけれど、単にそれは俺の要領が悪いだけだ。俺はどれだけ頑張ったら音也と対等でいられるんだろうと思うと、いつも少し怖くなる。いつか俺の努力が音也の成長に追い付かなくなる時が来てしまいそうで。そしてその時のことをどうしても想像したくなくて。音也の身長がまだまだ伸びていることも、音也が俺の届かないところにいってしまいそうに思うから、俺はこんなにモヤモヤするのかもしれない。

こんな風に、思ったことを全部伝えようと思った。そうしなければ俺はこれ以上成長できなくなってしまうような気がして。レコーディングが終わって、事務所の寮に帰ることになる。俺と音也はいつも通りどちらかの部屋にいっしょに帰る。今日は俺の部屋で、また2人でソファに並んで座りながら、俺はひとつひとつ話をした。身長のことが悔しいこと、音也とは対等でいたいこと、いつか置いていかれそうで怖いこと。音也は俺の方は見ずに、ずっと静かに話を聞いてくれた。その横顔が何だか急に遠くにあるように見えて、話をしながら少しドキリとする。触れて確かめたくなる手を抑えるために、強く自分の服の裾を握った。

「ねえ翔。俺、どうして翔と付き合ったと思う?」

俺の話が一通り終わった後、しばらく黙っていた音也が急に思い立ったかのように俺に質問を投げかけてきた。俺の方に向けられた顔はいつもの音也の顔で、それがちゃんと近くに感じられてホッと息を吐く。

「えーっと……気が合ったから、とか」

俺のことが好きだからだろ、って言おうと思ったけれど、何だか自意識過剰に聞こえそうで、俺は違う言葉を探した。俺と音也が仲良くなったのはお互いサッカーが好きだったのが始まりで、ケンカの王子様が好きだったりとか趣味も合って、いっしょにいることが楽しかったことが付き合うきっかけだったように思う。

「んー、半分正解で半分間違い」

ニッ、と悪戯の好きな少年のような笑顔で音也が笑う。こうやって音也が白い歯を見せて楽しそうに笑う顔が好きで、俺は音也を好きになったんだっけ、とふと思う。

「俺ね、もちろん好みが合って楽しいからっていうのもあるけど、翔は俺と違うところがたくさんあるから付き合ってるんだ。だって、自分と何もかも同じ人と付き合っても、何も得るものはないでしょ?」

そう言った音也はソファに置いていた俺の手をいきなり引いて、バランスを崩した俺は見事に音也の腕の中にすっぽりと収まってしまった。そっと抱きしめられて、つむじにキスを落とされる。音也が俺に触れる時に、必ずする行為。そしてそのすぐ後に、俺の手を持って指先にキスをする。まるで、頭のてっぺんから爪の先まで、すべて俺のものだとでも言っているみたいだ、といつも思う。

「だからね、俺と翔は、デコボコの方がいいんだってこと!」

そのままもう一度つむじに唇を落とされる。無理に追い付く必要なんてないんだ、俺は俺のままでいいんだと、そう伝えたいかのように何度も何度もキスをされる。つむじ、額、瞼、鼻、少しだけ唇をかすめて、またつむじに戻る。こうやって音也につむじにキスをされるのがすごく好きだから、20センチの身長差も悪くないかもしれない、なんて、愛しそうに俺を見つめる音也の顔を見て少し思ったんだ。



(凸凹だからこそ愛しい)
(違うからこそ、惹かれあう)
(それを俺たちの愛と呼ぼう)



* * *

同じだからこそ惹かれあう恋愛と、違うからこそ惹かれあう恋愛があると思います。音翔は後者かなーと思いながら書いたらこんなお話に。
体格差ネタと聞いた時に真っ先に思い浮かんだのが、つむじちゅーでした。つむじちゅーをさせたいという一心しかありませんでした←
神宮寺さんの出演とか完全に私の趣味です。むしろその件なくても成立したよね、と思います……でも音翔の相談相手は神宮寺さんとトキヤだと思いまして。というかST☆RISHみんなに見守られてたらいいなーと(^^)
20111130

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