ケーキと紅茶と女の子


*レンと翔が♀です。フリリクくださったレン受けに飢えてる人さんに捧げます。













私は友達が少ない。それは私の性格のせいだと言う人がいるけれど、きっともっと大きな理由は私が女子という生き物全般を嫌っているからだと自分では思っている。嫌いな人とわざわざ友達になって、いらない気を使ったりするなんてそんな非生産的なことを私がするわけがないのだ。私が女子を忌み嫌うようになったのは確か中学生の頃で、それはいわゆる思春期という、女子も男子も皆一様に色恋事にうつつをぬかし始める時期だった。私は亡き母親譲りの容姿のおかげで、(いや今は、そのせいでと言うべきだろうか)いつも人から注目される立場にあった。神宮寺財閥の令嬢というファクターも、またその注目を助長させた。小学生の頃は、周りの大人から美人だと褒めそやされたし、中学に入ってからは男の子たちはみんな私を見て息を飲んだ。それでも私は恋愛というものに何の魅力も感じることはなかった。だって、人を好きになるってことがどういうことかなんて誰も教えてくれなかったし、ただ男の子たちはみんな私にすごく優しくて、人の優しさというものに基本的に飢えていた私は、そのことが嬉しかった。でも、その度に女子たちは私を非難した。〜君は〜ちゃんがずっと好きだって言っていたのにどうして一緒に帰ったりしたの、だとか面と向かって言われて、そんなの知らないよ、と思った。申し訳なさそうな態度を取らなかった私をその子たちは許せなかったらしくて、それからは陰で嫌味や妬みを言われるようになった。あなたたちは何を私に期待しているの、私がどうすればあなたたちは満足したの。それと同時に、私が美人なのは私のせいか、と思った。その頃はまだ私も上手い身の振り方とか、自分を守るための術なんかを知らなくて、しつこく男の子に付きまとわれたりだとか、知らない男に連れ去られそうになったりだとか、そういうことがよく起こった。(今はあまりない、しつこい男は見極められるし、自分を守るためにどうすればいいかはもうわかるから)そういうことが起こると、みんながこういう、「神宮寺さんは美人だからね」と。そのたびに、私が美人だから私が悪いと言われているような気がして悲しくなった。私を生んですぐに逝ってしまった母から貰ったこの容貌を、母からの愛情と思って大切にしている私にとって、それはとても辛いことだったのだ。とにかく、私は中学時代の経験のせいですっかり女子、とりわけ自分と近い年代の女子をすっかり嫌いになってしまったのだった。この早乙女学園に通うことが決まった時も、女友達なんてできなくたってかまわないと思っていた。もう中学時代のように、心無い中傷で苦しむこともなくなっていたから。それなのに、そんな私の考えを裏切る人物と、私は出会ったのだった。

「レン!食堂にケーキ食いに行こうぜー」
「行く行く!ちょっと待って」

それがこの子。来栖翔子。何もかもが私と正反対の子。身長が150センチちょっとしかない小さな身体、170センチ以上もある私とは大違い。肌なんて雪のように白くて、髪はふわふわのウエーブがかった金髪。言葉では言い表せられないくらい、本当に本当に可愛い。(なのに男の子みたいに話すの、でも可愛いから不思議)私はよく美人と称されるけれど、翔を見た人は十人が十人可愛いと言うだろう。それくらい可愛らしくて、これこそ女の子ですってなりをしているのに、翔は、私が今まで出会ってきたどんな女子とも違っていた。入学式の日、私が神宮寺の令嬢だと知り、そして周りに男の子を連れている私を少し離れた場所から見るクラスメイトの女子たち、また妬み、そんなもの慣れていると思っていた私に話しかけて来たのが翔。(すぐ後に、寮で同室だと知った)あっけらかんとした、女子にしては珍しい竹を割ったような性格、でも本当はすごく優しくて、自分のことよりも友達のことを一番に考えることのできる子。私が唯一、心を許した子。大好きな、翔。

「あ、今日俺の友達も2人いるから」
「は、何それ聞いてないんだけど」
「まあ、いーからいーから!」

そう言って、渋る私の手を引いて強引に食堂へ連れて行く翔。なんだっていうのよ、急に。辿りついた食堂は、ランチタイムではないから割かし空いていて、こちらに手を振っている2人組の姿はすぐに見つけることができた。桃色の髪を肩のあたりで綺麗に切りそろえている子と、派手な赤髪を大胆に巻いている子、どちらもどこからどう見ても女子で、私は少し身体を硬くしてしまう。翔のやつ、私が女子苦手だって知ってるくせに。すぐにでも翔の手を振りほどいて、食堂の出口を目指したい衝動に駆られたけど、それはもう遅くて、私は2人の女子と対面することとなったのだった。

「これこれ、前言ってた神宮寺レン」

ちょっと、これって何、これって。何て思いながら、とりあえず「こんにちは」と笑顔を浮かべておく。長い間、年の近い女子と話すことを(翔以外)していなかったから、どんな顔をしたらいいかすっかりわからなくなって、とりあえずいつも男の子たちに向ける笑みをしてみた。これは正解だろうか、と思いながら。

「はじめまして、七海春歌です。えっと、神宮寺さん……」
「あー春歌。レンでいいって、神宮寺さんなんて呼んでたら俺がなんかかゆい」
「じゃあ……レンちゃん」
「じゃあ私もー、レン、渋谷友千香だよ、よろしくっ」

そんな風に、私の意志に反して、その場の空気はとてもスムーズに流れていった。私はただ曖昧な笑顔を浮かべて、これまた曖昧な返事を浮かべているだけ。でも、そのおかげでこの2人を観察する余裕が私にはあった。春歌と名乗った子は少し敬語まじりの話し方をする。何だか自分に自身のなさそうな印象を受けるけれど、表情はどこか芯の強そうな、そんな顔をしている。友千香の方は、アイドルコースのAクラスとの合同授業で顔を見たことがあった。中学時代に私によく難癖をつけてきたリーダー格の女に雰囲気が似ている気がする。人の世話を焼くのが好きそうな、そんな感じ。そんなことを考えている内に、また話は進んでいて、一人一つずつ、ケーキと飲み物を頼んで席に戻ってくることになった。私が選んだのはフルーツのたくさんのったタルトと紅茶。この場は何だか落ち着かないけど、ケーキは美味しそうで少し嬉しくなる。

「あ、ねえ春歌、そのプリンケーキ一口ちょうだい!あたしのモンブランもあげるからー」
「うんっ、はい」

お互いでお互いのケーキを食べさせ合う目の前の2人を、私は驚いて見つめてしまった。今まで色々な男性たちとデートをして、様々なお店でいっしょにケーキを食べたりしたけど、こんなことしたことは一度もないから吃驚したのだ。

「なにポカンとしてんの、レン」
「え、っと……少し驚いて、そういうの初めて見たから」
「翔ちゃんとは、普段こういうことはしないんですか?」
「俺はしねーよ、レンにやるなら自分で食う!」
「ほんっと翔ちゃんは食い気ばっかなんだからー。ひとくちちょーだいは女の子同士の醍醐味でしょーが!ほらレン、あたしのあげるよ!」

ほら、と強引に顔の前に差し出されたフォークにのったモンブラン。それについ、条件反射で口を開いてしまう。そのまま私の口の中に運ばれたケーキは何だかすごく美味しく感じた。自分の選んだケーキとは違うから、美味しいのだろうか。それとも、もっと別な何かのおかげでこんなに美味しく感じるのだろうか。

「美味しい……ありがとう」

不意に口をついて、こんな言葉が零れてしまった。ただただ素直に、心の内そのままの言葉で。

「可愛い!」

すると、春歌と友千香が口をそろえてそんなことを口走った。つい私はそれが翔のことなのだろうと思い、隣へ顔を向ける。翔は隣で私の嫌いなチョコレートのケーキを頬張っているだけだった。(かまわず私の嫌いなものを注文してるんだから、そりゃ一口くれる気なんてないよね)口の中のケーキを飲み込んだ翔は、何だか得意げな顔で私のことを見る。何が何だかよくわからない。すると、友千香が恐る恐るといった様子で口を開いた。

「本当はさ、レンのこと、どんな子なんだろって思ってたんだよね。いつも同じ、貼り付けたみたいな笑い方しててさ。でも、こんな笑い方もできるんじゃん!やっぱ、翔ちゃんの言う通りだったんだね」
「はいっ、レンちゃんは、とっても素敵ですっ」

なんて、そんなこと面と向かって言われたことなんて初めてで、戸惑った私は隣の翔をまた見たけれど、やっぱり翔は勝ち誇ったような顔で笑っていた。それから4人でした話は、どれもこれも今まで経験したことのないくらいに楽しくて、素のままで笑っている自分に気が付いて。こういうのって、男の子とデートするよりも楽しいかもしれない、と頭の片隅で思ったけれど、それは恥ずかしかったから言わなかった。



(とりあえず寮の部屋に帰ってから、翔にありがとうって言っといた)
(何がー、なんてとぼけてたけどね)



* * *

久しぶりにスムーズに最後まで書くことができました。書きたいことがどんどん浮かんできて楽しかったです(^^)
レン♀は何かいろいろトラウマとか持ってそうだな、と思ったのですが、翔♀のおかげできっとどんどん素直になっていくことと思います。とりあえず翔ちゃんは♀でも男気全開ww
レン♀と翔♀の身長はそれぞれマイナス10センチくらいのイメージです。翔♀はホントにちび。レン♀はモデル体型。あと、今回はレン♀に「翔」と呼ばせてみましたが、照れた時とか困った時にだけ「オチビちゃん」って言ってたら可愛いと思いますww
20111119

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