傍にいたい、それは我儘なんですか


*レン女体化注意。不幸せ注意。春←マサ←レン♀です。レン♀と春ちゃんが同室。













部屋に帰って来た春歌の様子がおかしかったから、すぐに何があったのか気付いた。今しかないと思った。弱っているところにつけ込むなんて狡いと思われるかもしれないけれど、それくらいしたたかだって許されるのではないかと思った。だって、私はこんなにも我慢してきたのだから。



同室の七海春歌のことを、聖川が好いているのはとうに気付いていた。聖川の感情の変化にはすぐ気が付けるくらいに、私は聖川のことをよく見ていると自負している。子どもの頃に初めて顔を合わせたあの日から、私は聖川真斗という人間を恋い慕っていた。それが神宮寺財閥と敵対する聖川財閥の嫡男だったとしても。この早乙女学園に入学して、久しぶりに会った聖川は、やはり私の記憶の中の姿とは変わってしまっていた。(当たり前だ、いつまでも子どものままなはずがない)聖川は素直で可愛かったあの頃と違って、生真面目でストイックな人間になっていた。そんな変わり様にも心がときめいたのは私しか知らない秘密だ。そんな理性的な聖川が好む女のタイプと、私がかけ離れているのだろうということにはすぐに気が付いた。誰からも美しいと称賛されるような外見に自信を持っていたけれど、私は派手好きで、悪く言えばケバいのだ。どうにか聖川に好かれたくてナチュラルメイクを研究してみたり、伸ばした髪を清楚に見せたくてポニーテールにしてみたりと努力はしてみた。それでも、私にはきっちりと制服を着こなすのは似合わなかったし、肌がやや浅黒いせいかフェミニンな服装もなんだかちぐはぐでおかしかった。そもそも、こんなに身長が高いのがいけない。人にはモデル体型、と褒めそやされるが、女子にしては高めなこの身長さえも心底呪った。そんなことをしているうちに、春歌と聖川の仲はどんどん親密になっていって、でも私はどうしても春歌のことを憎めなかった。(だって、すごくいい子なんだもの)もともと私には女子の友達がほとんどいない。それは私の性格のせいなのだろうか、とにかく女子の友達ができないのだから仕方がないと、最近はあまり気にしないようにしている。この学園でも一番仲のいい友達は同じクラスのオチビちゃんこと来栖翔で、オチビちゃんは私に女子の友達ができないのは「いつも周りに男を侍らせてるせいだろ」と言う。別に侍らせているつもりはない、勝手に私の周りに集まってくるのだ。そんな私でも仲良くなれた女の子が同室の七海春歌と、その友人の渋谷友千香だった。この2人は聖川とも同じクラスで、そのことがとても羨ましかった。(でも私が聖川を好きなことは教えていない、だって女同士で恋バナとか、そういうのどうしたらいいかわかんない)

聖川が春歌のことを想っていることに気が付いた時、私だって人並みには悔しいとか、恨めしいと思った。私は幼い頃からずっと聖川のことを好きだったのに、どうして私じゃないのと思った。覚悟だって出来ていた。昔、私が聖川のことを恋い慕っていることが兄にばれた時、絶対に幸せにはなれないから諦めろと諭された。それは、もちろん神宮寺と聖川が敵対していたこともあったし、万が一私とあいつの思いが通じあったとしても、聖川財閥の後継者であるあいつはいつか親が定めた人と結婚するからだ。私はものわかりのいい振りをして、聖川のことを諦めたように装ったけれど、本当はその時に一生ものの決意をしていた。あいつの心がこちらに向いてくれるのならば、愛人だってかまわない、と。一番でなくたってかまわない、ただ傍にいさせてほしかったのだ。
だから、春歌を羨むのはやめた。私はこんなに覚悟ができているのだから、大丈夫。いつか、きっといつか、あいつの隣にいられるようになる。それがどんな形だったとしても。

そんな風に思えるようになっていたある日、寮の部屋に帰って来た春歌の様子があまりにもおかしかったから、(ドアに頭をぶつけたり、空のポットでお湯を注ごうとしたり)すぐに何かあったのではないかと気が付いた。聞くと、聖川に思いを告げられたという。そして、それを断ったという。流石の私でも、少し動揺した。その動揺は春歌が告白を断ったことに対する驚き、だったのだけど。どうやら他に思い人がいるという。聖川の動向だけで頭のいっぱいだった私は、そのことに気が付けなかったようだ。そして私は閃いてしまうのだった。今しかないのではないか。あいつが弱っているところにつけ込むなんて狡いと思われるかもしれないけれど、それくらいしたたかだって許されるのではないかと思った。だって、私はこんなにも我慢してきたのだから。

すぐに、聖川の部屋へ向かった。本来は女子が男子寮に入ることは禁止されていたが、私が男子寮に顔を出せば、誰もが喜んで玄関を通してくれる。実際に何度も男子寮には入ったことがあったし、聖川の部屋に押し掛けるのもはじめてではなかった。ノックをする、返事を待たずに入る、そこに聖川はいた。心なしか沈んでいるように見えた。励まして、そして……あれ、人を励ますってどうすればいいのだろう。私は聖川を励ましたことなどなかった。顔を合わせればいつも軽口の応酬、それがいつもの私たちの会話。たまに私がアピールをしても、それは悉くかわされていた。

「みっともない姿を見に来てやったよ、聖川真斗」
「……本当に悪趣味な女だな、お前は」

あれ、こんなことが言いたかったわけではない。もっと女の子らしく。こいつの好きな春歌ならこんな時なんという?「私で良ければ、話を聞かせてください」とか「辛そうなので、傍にいてもいいですか」とか?

「ねぇ、私で良ければ、話聞くよ」

だから傍にいさせて。お願いだから、私を見て。

「……一人にしてくれないか、神宮寺」
「でも、」
「頼むから!……一人に、してくれ」

聖川は私の目を見なかった。こんなに近くにいるのに、それでも私を映してくれない冷たい目。どうしようもなく泣きたい気分になって、私は何も言わずに部屋を飛び出した。こんなに好きなのに、思っているのに、傍にいることすら許されない私はどうすればいいのだろう。一人にしてくれ、とあいつは言った。そのことに酷く腹が立った。お前は一人じゃないから、そんなことが言えるのだ。私はいつだって孤独で、一人で、誰からも愛されなくて、そんな私はたった一人の思い人の傍にすらいられないのだ。(それでも好きなんて、本当にどうかしてる)



(それでも思う、聖川が本当の意味で一人になどなりませんようにと)
(あいつが本当に一人になる時、私が傍にいてあげられますようにと)



* * *

書きたいことがまとまらなくて迷走した結果がこれだよ!←
聖川様のことが大好きなのに、やること為すことすべて上手くいかないレンちゃんが書きたかった。聖川様はレンちゃんが自分のことを好きだなんて微塵も気付いてない。レン♀は男を手玉にとるのがうまいけど、本当に好きな人には何一つ言いたいことを伝えられないような子だったらいい。可哀想で可愛い。くそっ。
絶対にいつか幸せなレン♀を書いてやる、と決意をしました。
20111108

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