pierced earrings


*付き合っていないけどマサレン。レンの過去捏造してます。その内容もちょっと酷いので、注意です。













ばれてなどいないと思っていた。俺は自分で言うのも何だが所謂ポーカーフェイスというやつだと思っていたのだ。どんな時でも、自分の感情を押し殺して、何ともないような顔をするのが得意だった。もう一度言うけれど、だからばれてなどいないと思っていたのだ。



「何か不安に思っていることがあるのだろう」

ルームメイトである聖川真斗に、突然そんなことを言われたものだから、俺は酷く驚いた。聖川という男は普段から結構口煩い奴で、(門限を守れだの、しっかり食事を取れだの)でも必要以上には俺に干渉してこない人間だった。だから俺はこいつの定めた最低限の生活のルールを守れば、割かし自由にこの部屋で暮らしていけたし、それなりにこの部屋は居心地の良い場所だと思っていた。少なくとも、無理に笑顔を作る必要もない、愛想を振りまく必要もなければ、気を遣うこともない。それなのに、急に聖川が先程のような言葉を言い出すから、俺は心底吃驚したのだ。

「……なんのことだよ、気のせいだろう」
「誤魔化すな。それくらい、わかる」

お互いのパーソナルスペースからは、いつものように出ることはない。でもこいつは踏み込んできたのだ。俺の心の中に、それもノックもせず土足で。

「お前は何か不安なことがあると、いつもそうやってピアスを弄る」

その指摘に俺はハッとさせられた。何を馬鹿なことを、と取り繕うことも出来ずに。きっと俺は今、感情が手に取るようにわかるほどだだ漏れなのだろうなと思う。それくらい動揺したのだ。自分でも気付いていなかったけれど、心当たりのありすぎる癖を指摘されたことに、俺は動揺していた。

俺が初めて、耳にピアスの穴をあけたのは、ちょうど父が亡くなってすぐの頃だった。父が生きていた頃の自分は、とにかく父に認められたい、自分の存在意義を確かめたいという一心で日々を過ごしていた。(結局、認めてもらえることのないまま、あの人は逝ってしまったのだけれど)父を亡くした俺は絶望した。あんたがいなくなったら、じゃあ俺は誰に認めてもらえばいい?俺を突き放したまま逝ってしまうなんて、無責任にもほどがある。そのまま俺は荒れた。通っていた国立の名のある高校に通うのもやめた。そこに通うことの意味がなくなってしまったのだから。
これからどうやって生きていくか、なんて考えられるほど、その時の俺は前向きではいられなかった。ただ生きている理由が欲しくて、誰かに必要とされてみたくて、俺はその時初めて見知らぬ男と寝た。今思えば、俺は向こうの名前も知らなかった。(否、覚えていないだけだろうか)とにかく、その日俺は男に抱かれたのだった。ただ、愛されてみたくて。次の日、俺は自らの手でピアスの穴を片耳だけあけた。酷く自分を痛めつけたいような、そんな気分だったのを覚えている。これは自分への罰なのだと感じた。きっとその時は、心の何処かで罪悪感を感じていたのだ。でも、ピアッサーで穴をあけたその耳は、ジンジンと痛んで、その痛みにすら安心したのだった。大丈夫、自分は生きている、と。それから、俺の耳に穴は増え続けていった。右耳に2つ、左耳に3つ穴があいたところで、もう俺は穴をあけるのをやめた。見知らぬ誰かに抱かれるのをやめたわけではない、罪悪感を感じなくなったのだ。自分に罰を与えることもやめ、俺はその場限りの愛に溺れていた。
この学園に来て、俺がその行為をやめることができたのは、ひとえに仲間の存在が大きかったのだと思う。アイドルになるという夢を叶えたいと思えるようになったのも、歌うことが楽しいと思えるようになったのも、様々なところで仲間に支えられていたからで。それでも、俺はまだ昔を引きずって生きていたとでもいうのだろうか。不安になると、自分の罪の象徴であるピアスを触る、言われてみるとそれはいつもやっている自分の癖のように思われた。

「何かあるなら、話してくれ」

聖川の声にふと我に返って、俺は部屋の反対側にいる聖川を見つめた。いつものような嫌味やら、やっかみやら、そういう類のものは一切俺の口から出て来てはくれなかった。本当に戸惑っていたのだ、だから素直に答えてしまった。

「父のね……命日なんだ、もうすぐ」
「……そうか」

聖川はそれ以上何も言わない。俺もそれ以上、何も言えなかった。でも、部屋に満ちる沈黙は決して嫌なものではなくて、俺は目を閉じて、意識的にピアスを触ってみた。これは俺の罪の象徴。きっと生涯消えることなどない、消しはしない。そんな俺に、聖川はまたそっと言葉を投げてきたのだった。静かな、今まで聞いたこともないような優しい声で。

「いつか、お前の抱えているすべてを、聞かせてほしいと思う」

そんなの御免だね、と、きっと今までの自分なら答えていたのだろう。ポーカーフェイスを気取って、人に感情を見せないように、自分の弱さや醜さなんてばれないように。でも、

「そうだね……いつか、な」

そう答えてしまっていたのは何故なのだろうか。それはこいつになら、いつかすべて見せてもいいと、心の奥の奥の方で思ったからなのかもしれない。



(この耳にあいた穴は塞がらなくとも)
(心にあいたこの穴は、いつか塞がるのかもしれない)



* * *

神宮寺さんの過去捏造。レンちゃんのピアスにこんな裏話があったらすごいもえる、と思ってずっと書きたかった話でした。
基本的にあまり自分の弱いところに踏み込まれたくない神宮寺さんだけど、この一件で聖川様に少し心を開いたりしたらいいと思います。でもこの後、レンが聖川を好きになったとしても、過去が邪魔してどうにも進めなくなったりなんだりするんだろうなー。聖川様には武士のような男らしさで神宮寺さんを包んでいただきたい。
20111102


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