あなたに愛してほしいのです
*マサ→レン気味の付き合う寸前な話。フリリクくださったひよこ豆さんに捧げます。
幼い頃に憧れていた兄のような存在のあいつに、もう一度出逢ったのは運命ではないかと思った。でも、俺はすぐにそんな思いは錯覚だったと思い知ることになる。だってそうだろう?あいつが視界に入るだけで、こんなにも心が乱れて、イライラしてしまうのだから。
神宮寺レンとは、幼かったある一時期によく共に過ごした存在であった。その頃は年が1つ違うだけで身体の大きさも大分変わるし、本当に兄のように思っていた。幼い俺は自分の知らないことをたくさん知っているあいつに尊敬の念まで抱いていた。大財閥の人間や有力者たちの集まるパーティー会場で、見知らぬ大人と異国の言葉を巧みに操って話す神宮寺はとても自分と同じ子どもとは思えなくて、ただただ眩しい思いであいつを見つめていた。だから、話しかけられた時は心底嬉しかったし、「友達」になれたと思い喜んだ。しかし、それから俺たちの間に悠然と横たわった長い年月は、その友情さえも変えてしまったのだと思った。久しぶりに再会した神宮寺は、驚くほど俺に敵意を剥き出しにして噛みついてきて、生来少しだけ負けず嫌いの気がある俺はそのまま嫌味で返事を返してしまって。それから俺たちは、周囲から犬猿の仲と称されるような間柄になってしまっていた。あの時、俺がもっと違う対応を神宮寺にしていれば、まだ俺たちの関係はマシなものになっていたのかもしれない、とあいつといがみ合う度にぼんやりと思う。その時の自分自身を冷静に分析すると、どうやら自分は久しぶりに憧れの存在であった神宮寺に会って、自分を大きく見せたいと思ったのかもしれなかった。自分は成長したのだと、そう思われたかったのかもしれない。とにもかくにも、俺たちの関係は変わってしまった。
人間というのは存外弱い生き物で、認めたくない出来事が起きると自己防衛を始めるようになっているらしい。俺は、神宮寺が憧れの存在であったことを否定しようとしはじめたのだった。あんな女たらし、あの頃のあいつとは違う。あんな適当な人間、憧れていたあいつとは違う。そうすることで、神宮寺に良く思われていないらしいということはショックなことでも何でもないのだと思いこむことにしてみた。その自己防衛の効果はてき面で、噛みついてくるあいつへの上手い返し方も板についてきた。まったく不思議なもので、その内にあいつが女子に囲まれているところや、一ノ瀬や来栖と行動を共にしているところを見るだけで苛ついてしまうようにまでなったのだった。(我ながら凄い防衛機制をもっているものだ)でもだんだん疑問に思って来る、あいつの姿を見て、こんなに心が乱れるのは何故なんだ?噛みつかれると噛みつき返してしまうのに、俺の方を振り向かないお前にイライラするのはなんだ。これは一体何という防衛機制だ。教えてくれ、神宮寺。
「また夜遊びをするつもりか、少しは落ち着いたらどうなんだ、神宮寺」
いつものように綺麗に、それでいて華美にはなりすぎないように着飾り部屋を出て行こうとする神宮寺に俺は声をかけていた。何だか落ち着かないのだ、そんなお前を見送るのは。
「お前に説教をされる覚えはないんだけどね。いつも門限には間に合わせているんだから、問題ないだろう?」
「仮にもアイドルになろうという身なのだから、もう少しマシな節度を持ち合わせたらどうかと言っているんだ」
板についてしまった返しを神宮寺にぶつけると、大して困ってもいなさそうな顔で肩を竦めてみせる姿が目に映る。そんな動作のひとつひとつにまでも俺はどうにも心を乱されるのだ。このイライラは、なんだ。
「前から思ってたんだけどさ……もしかしてお前、俺のこと好きなの?」
俺をからかってやろうという魂胆が見え見えの表情で、神宮寺が近づいてきた。その瞬間にふわり、と香った香水の匂いに思考回路が麻痺したのかもしれない。それとも、綺麗な形をした神宮寺の耳からパサリと落ちた耳元にかけられていた髪に視線を奪われてしまったのかもしれない。どちらにしても、その時俺は神宮寺に心奪われていた。それだけは言える。
「……何を戯けたことを。そんな筈があるか」
「だって、まるで嫉妬しているみたいじゃないか。違うのかい?」
楽しそうに、神宮寺の唇が弧を描くのが、スローモーションのようにゆっくりと見えた。その唇が俺のものになればいいのに、と思ったとき、俺は自分の思いの断片を見つけることに成功したのだった。
「お前に、愛して欲しいのかもしれない」
「……ほら、やっぱり俺のことが好きだ」
少し驚いた顔をしながら、神宮寺がなおも可笑しそうに笑う。
「お前のことは愛してなどいないが、お前に愛されたいんだ」
そうだ、これが俺の思いだ、やっとわかった。女好きで、いい加減で、節操のないお前のことなど愛してなどいないが、俺のことは見てほしいのだ。でないと、俺のこの心の苛々はきっと解消などされないのだ。お前に、愛されたいのだ。
「……あのね、聖川。多分それは……お前は俺のこと好きってことなんだと思う、よ」
「そうなのか」
「あー……うん、多分、そう、だ。えっと、あれ?そういうことだと、思う」
すると、今まで余裕の笑みを浮かべて俺をからかっていた神宮寺の顔が、面白いくらいに赤く染まっていくものだから驚いた。この男でも照れたりなんかするのだな、と思うと少し嬉しくなって、もっと慌てさせたいとまで思ったりして。
「これが恋だというのなら、神宮寺、俺と付き合ってくれないか?」
え、という口の形をしたまま一瞬固まった神宮寺の唇に、我慢できずに噛みついてしまったものだから、俺は自ら返事を聞く機会を逃してしまったのかもしれないな、とこいつの口を貪りながら自省する。それでもいいかと思えたのは、神宮寺が俺の行動に対して抵抗らしい抵抗もろくにしなかったことに気を良くしていたからかもしれない。(恐らくパニックになって固まっていただけなのだろうが)
(お前のことを愛してはいないのに、お前に愛して欲しいと思う)
(それを恋だというのなら、どうか責任をとってくれ)
* * *
マサレンで告白話というリクエストを頂き、とりあえず聖川様視点って書いたことないから書いてみようと思ったのが、この話のスタート地点でした。これくらい自分の恋心を自覚していない聖川様もいいのではないか、それに振り回される神宮寺さんもいいのではないか、そんなことを考えながら書いたらこんなんになっちゃいましたw←
結局御曹司組ってお互いがお互いをすごく意識してたりしたら萌えるよねって話(^^)
20111029
back