俺を困らせたいとしか思えない


*付き合っている龍レン。フリリクくださった政木さんに捧げます。












目の中に入れても痛くないほど可愛いとか、そんな感情を自分が持つとは思わなかった。もしそんなことを思うとしても、いつか子どもとか孫ができたときなんかの感情であって、恋人相手に思うことではないと思っていた。ましてや、生徒に思うだなんてとんでもない。さらにさらに、生徒で男に思うだなんて……そんな馬鹿な。



好きだよ、リューヤさん。本当に好き。ねぇ、付き合ってよ。俺ぜったいにいい子にするよ。実は料理とかもするし、尽くすタイプだよ。ねぇ、愛してるんだ。

そんな風に神宮寺レンが俺に熱烈な(むしろ暑苦しいほどの)アプローチをかけてきたのは、あいつが早乙女学園に入学してから少し経った頃からだった。きっかけが何だったかなんて、俺は知らない。その時、神宮寺レンは俺にとってただの生徒の一人だったし、まぁ問題児であったから他の生徒よりも気にかけている節はあったけれど、それだけだった。でも、何故かいつの間にか先程あげたような神宮寺の好き好き攻撃が始まって、それを軽くあしらうことが俺の日課にすらなっていた。しかし、好きと言われると多少はその相手のことが気になってしまうのは当然のことで、俺もいつの間にか神宮寺を目で追うようになっていた。基本的にあまり授業は真面目に受けない。でも、たまに驚くほどに真剣な顔で歌を歌っているときがある。いつも女に囲まれているけれど、一人でいることも割と多くて、その時はひどく寂しそうな表情をしている。友達はあまり多くはないようだが、同じクラスの一ノ瀬と来栖といるときなんかは普段と違う年相応な笑顔を見せたりもする。そこまで観察してから俺はやっと気付く、ただの生徒以上に神宮寺のことを思っていることに。もっといろいろな顔を見てみたい、いつもの余裕の笑みや年相応の無邪気な笑みではない、少し照れたような笑顔が見たいと思ったり。寂しそうな顔を見ていると、俺の腕の中で思う存分泣かせてやりたいとか思ったり。要するに、俺は簡単に奴に惹かれてしまったのだ。何もしなくても人目を惹くオーラを持つ神宮寺に、本気でアタックされて落ちない奴などきっといない。ましてや「こんなに本気になったのはリューヤさんが初めてだよ」とまで言われてみろ。ストイックで有名(といつも林檎に言われる)な俺だって、そりゃあ陥落する。でも俺だって教師であり、いい大人でもある。卒業するまではただの教師と生徒、そう神宮寺に言い聞かせて、自分自身にも言い聞かせて。やっと神宮寺が学園を卒業した。立派に卒業オーディションを優勝して。






「今日は俺がごはん作るよ。だからリューヤさんはテレビ見て待っててね!」

俺の家に急に押しかけて来た神宮寺は何だか大きな買い物袋を両手にぶら下げていた。一体何をそんなに買い込んだのかは、とても聞きたかったがとりあえず我慢して、神宮寺とスーパーの買い物袋という何だかちぐはぐな組み合わせを上から下まで眺めて堪能した。(思ったよりもこのアンバランスさが可愛い)「お邪魔します」と言いながら部屋に上がり込んだ神宮寺はすぐさまキッチンに移動し、買い物袋の中身を俺に自慢しはじめた。「見てよこれ、カレーとシチューがこんなに簡単に作れるんだよ。あとね、これを使うと青椒肉絲がピーマンだけで作れるんだって!」と、庶民御用達のお手軽料理をつくるものを俺に見せつけてくる。こんなに優雅な動きをして、高級そうな成りの青年が、スーパーで目を輝かせながらこれらの食材をカゴに入れる姿を想像したら、それだけでこいつが愛おしくなってしまう。(今度はいっしょに買い物に行こう)次は俺のキッチンの棚からインスタントコーヒーの瓶を見つけて、興味深そうに眺めている。それでよければ淹れてやるから、リビングで待ってろというと、淹れるところを見てたいんだけどいい?なんて、言いやがる。(可愛すぎて困るんだが)あまりにもレンが愛くるしくて、つい頭を撫でてしまう。そうすると嬉しそうに目を細めるのが、また何とも言えず俺の心をくすぐった。

「こうされると思いだすよ」
「何をだ?」
「俺がリューヤさんを好きになった時のこと」

俺が知らない、いや気付いていなかった、神宮寺が俺を好きになったきっかけのことを言っているらしい。そこまで言われても俺は思いだすことができなくて、少し申し訳なく思いながら首を捻った。

「いいんだよ、思い出さなくて。これはね、俺だけの秘密なんだ」

俺だけが知ってればいいんだ、と嬉しそうにはにかむ。きっとこいつはその出来事を、宝物のように大切にしてくれているのだろうな、と思うとこっちまで嬉しくてむず痒くなってくる。神宮寺と付き合うようになってから、俺は度々このようなむず痒い心地に襲われるようになっていた。嬉しいような、恥ずかしいような、それでいて少し切なくて、とても困る。

「きっとこれからも、こうされる度にリューヤさんのことを好きになっていくよ」

そう言って俺を見つめるこいつの顔が、言葉で言い表せられないくらいに綺麗だったから、俺は堪らず抱きしめてしまったのだった。理性なんてとうにどこかに行ってしまっていた。お前の仕草、言葉、そのどれもが、俺を困らせようとしているようにしか思えないんだよ。



(こんなに余裕がないのはお前のせいで)
(ただただ叫び出したいほどお前が愛しい)



* * *

レンにデレているというよりは、レンにキュンとしているリューヤさんになってしまったような気がしますw←
庶民の生活に疎い神宮寺さんを一度書いてみたいと思っていたので、その要素も(勝手に)取り入れてみました。神宮寺さんが買い物袋両手にぶら下げてたら最高に可愛いと思うのは私だけでしょうか!100均とかではしゃいでたら可愛いと思うのも私だけでしょうか!ww
とりあえず、切ない要素のない甘いお話を書くのは珍しいことなので、とても楽しく書けました(^^)
20111026

back
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -