Dear my family


*付き合っているトキレン。フリリクくださったエンジさんに捧げます。












「家族になりたい」、ポツリとそう呟いたあなたの横顔が、私はどうしても忘れられなかった。

卒業オーディションが終わり、早乙女学園の寮からシャイニング事務所の寮に引っ越し、半年ほどが経った。私、レン、翔の3人はそろって事務所入りし、(それぞれの同室者たちもだ)皆少しずつ仕事が軌道に乗ってきた、そんな時期。部屋が隣同士で私の恋人(もちろん周囲には秘密ですが)のレンとは、お互いの仕事の合間を見つけて、僅かな時間を大切にしているようなそんな日々。そんな時のレンの突然の言葉に、私は驚きを隠せなかったのです。

「どうして、男同士は結婚できないんだろうね」

台所で夕食を作る私を待って、ソファに転がるレンが唐突に発したその言葉に、私は本当に驚いて、すぐに返事を返すことができなかった。レンと付き合う前にも、後からも、彼が抱える傷を私は何度も目の当たりにしてきた。その痛みを私が癒してやりたいと思ったし、彼を幸せにしたいと思った。だから、彼が私に他には見せないような笑顔で笑ってくれた時は思わず呆然としてしまうほどに嬉しかったのを覚えている。でも、そんな彼が、また何かを抱えている。それは背中に感じる気配というか、空気だけですぐにわかった。でもその傷の正体がわからず、私は後ろを振り返りながら、慎重に答えを返すことにした。

「……子孫を、残せないから、でしょうね」

私のその答えに彼はとても悲しそうに顔を歪めたあと、両腕でその顔を覆い隠しながら、こう言った。(酷く、悲痛さに満ちた、そんな声で)

「たとえ人類が絶滅してしまうとしても、愛し合いたいと思うことは、間違ってる?」

その問いに、「そんなことはない」と言うことがとても安っぽい言葉のように思えてしまった私は、またすぐに返事を返すことができず、しばらく考えてから、こう言った。

「結婚でなければ、ダメなのですか?」

結婚なんてできなくても、私があなたを愛していて、大切にしたい、共に生きたいと思っている、その事実だけではあなたは安心できないのですか。

「家族、になりたいんだ」

そう言ったきり、彼は何も言わなくなってしまったのだった。





レンが「家族」という存在を他の誰よりも意識しているのだろう、ということは容易に想像することができた。誰かが父や母の話をすると、レンが少しだけ寂しそうな顔をしていることを、私は知っている。レンは「家族」を知らない。家族からの愛情を、知らない。本当の「家族」の愛情をもう自分は手に入れることができないのだと知っているから、だから余計に「家族」を欲しがるのだろうと、私は思った。レンは繊細だ。それでいて、その繊細な自分を知られることをとても怖がる。強がって、平気ぶって、自分はものわかりのいい大人だということを周囲に知らせるために笑う。ずっと他人に興味を持つことができなかった私は、そんなレンに惹かれたのだ。もっと知りたい、彼の気持ちを全部わかってやりたい。でも、やっぱり全部はわかってあげられないのは私たちが「他人」であるからなのだろうか。彼の望んでいることがわからなくて傷つけたりする、しかしそれでも彼のことは絶対に大切にしたいから、だから。あなたの言葉を私なりに懸命に、1週間もかけて考えた結果を実行させてほしいのです。





「どうぞ」
「……何だい、これ」

私がレンに手渡したのは、少し大きめのバスケット。中にいるのは、

「子猫です」

これが、私が仕事の合間をぬいつつ、頭を振りしぼって考え抜いた結末。どう頑張っても、私とレンの2人では家族にはなれない。それは大きな性別という壁があるからで、いくら私たちがそのを乗り越えようとしても、世間も一緒に壁を乗り越えてはくれない。じゃあ、私たちの間に何かを置いてみたらどうだろうか?その何かを通せば、私たちは家族と言えるようになるのではないか?それを考え付いたのは、母が父と離婚する前に言っていた言葉を思い出したからで。2人でいても他人な気しかしないけれど、トキヤがいたら家族って感じがするのよ、と。それならばと貰ってきたのが黄色味がかった毛の色のこの子猫。

「私と、レンの、家族です」

首に紫のリボンと小振りな鈴を付けた小さな猫を抱えたままポカンとしていたレンは、私の言葉を聞いて、そのまま固まってしまった。(実は私は、レンのこのあどけない表情が笑顔の次に好きだ)子猫がレンの腕の中で身じろぎをして、チリンと微かに鈴が鳴る。その音と同じくらい小さな声で、レンが言った。

「……イッチーってバカでしょ」
「失礼な、馬鹿じゃありませんよ」
「いや、も……ホント、バカだよ」

「……あなたのためになら、馬鹿にもなれるんですよ」

そう言ってやると、私の大好きなあの笑顔でレンが笑ったから。心から幸せそうな、そんな顔で笑ったから。私はぽうっと心が温かくなって、ますます彼が愛しくなってしまうのです。
家族になりたいと、彼は言った。それはきっと、何か安心できるものが欲しかったのだろうと私は思う。私が君の笑顔を見て安心するように、私との繋がりを確認できるものを求めていたのでしょう。私はあなたの近くにいて、いつでも見つめていたいと思うし、心のうちをわかってあげたいと努力するけれど、きっとあなたは不安になることばかりなのでしょうね。でも、やっぱりあなたには笑っていてほしいから、何かあったら今回のようにぶつけてください。うまい言葉を返せないかもしれない、甘いセリフで包んでやれないかもしれない、でも私は私なりのやり方であなたを愛したいから、だから。ずっと隣で、笑っていてください。



(小さな小さな私たちの家族が、)
(1つニャアと鳴いた)



* * *

恋愛において、こういうくさい行動を素でできるのがトキヤのいいところだと本気で思っている私です←
初めてのトキレン、とっても楽しく書けました。うちのサイトのレンは、マサレンだと可愛くない子で、龍レンだと甘えたな子で、トキレンだと割と素直な子になる傾向にあるようです。トキヤはベッタベタに好きな子を甘やかしてくれるからいいですね(^^)
20111025


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