刺激的な熱に溺れる


*付き合っていないマサレン。










本当に運が悪い、と冷たいベッドの中で一人思う。風邪をひいたのだ、身体がだるくて起きていられなくなったのなんて一体何年ぶりだろうか。別に風邪をひいたこと自体は仕方のないことだと思う。自分だって普通の人間で、長く生きていれば体調を崩すことがあるのも仕方のないことで。では何故自分が今こんなにも不運であると感じているかというと、親代わりのジョージが傍にいないからである。野暮用でしばらく留守にする、と彼が寮を出て行ったのが2日前。それ自体は珍しいことではなく、そういう時は大体4日〜6日くらいで帰ってくるから……恐らく彼はまだ帰って来ない。(本当に運がないね)ギシギシと音が聞こえてきそうなほどに関節が痛む。計っていないのでわからないが、熱が上がってきたのだろうか。確か、前に風邪をひいて熱を出した時は小学生の頃で、その時はけっこうな高熱だったがこんなに苦しくはなかったと記憶している。そういえば、大人になると途端に風邪が辛くなると聞いたことがある。この痛みもそのせいだろうか、などと、感じたくもないところで自分が大人になったことを思い知らされる。(最悪の気分だ)

そういえば、昔テレビでこんなことを言っていたのを覚えている。人が病気になるのは、周りの人間の温かさ、大切さを知るためだ。家族や友人への感謝を忘れてしまいかけた時に、人の身体は弱るのだ、と。じゃあ俺が今風邪をひいているのは何なのだろうかと思う。生まれてこの方、風邪をひいて家族に優しく温かく看病されたことなどない。あの父親や兄たちがそんなことをしてくれることなんて想像することすらできなかった。ジョージは看病をしてくれたが、あいつの看病は温かいとは決して言えないものだった。「食え」と「寝ろ」しか言わないし。(それでも、俺にとっては十分有り難かったけど)俺が生まれてすぐに死んでしまった母親が生きていれば、俺の看病をしてくれたかもしれない。その光景を想像しようと試みたけれど、そもそも俺は世間一般の温かい看病なんてテレビドラマの中でしか見たことがなかったから、上手く思い描くことができなかった。想像すらもさせてくれないなんて、とぶつける宛てのない怒りをのみ込んだ。

そこまで考えてから、薬とか飲んだ方がいいのだろうかとか、そもそも熱を計るべきだろうかとか、色々なことが頭をよぎった。とりあえず熱を計るのはやめて、(具体的な数字を突きつけられたら余計具合が悪くなりそうだ)ジョージが置いていた救急箱はどこにやったかなどと、熱のせいで大分鈍ってきた思考回路を働かせていた時だった。

「……見事に潰れているな」

部屋のドアを開けて入ってきたのは、俺が弱っているところを最も見せたくない奴だった。

「……だまれ、ひじりかわ」
「悪態にまで勢いがない。これは貴重かもしれないな」

うるさい、ともう一度力ない悪態をついてから、何故俺が風邪をひいていることを知っているのかと聞いてみる。どうやら、イッチーとオチビちゃんが言ったそうだ。あれ、俺教室にいた時はいつも通りに振る舞っていたはずだけどなと思うが、あの2人だったら気付くのかもしれないなとぼんやり考えた。その間に何故か聖川は俺のベッドのすぐ脇にまで移動してきていて、両手にはホカホカと湯気をたてている土鍋。見るからに美味そうな匂いをさせていそうなのに、今まで気付かなかったのは俺の鼻がぐじゅぐじゅだからだろうか。(本当に、色男が台無しだから誰にも会いたくなかったのに)

「……何」
「食べろ。お前のことだから何も腹に入っていないのだろう」
「まさかとは思うけど、わざわざ余所で作ってきた?」
「ここで作ろうとしたらお前がうるさそうだからな、一ノ瀬の部屋の台所を借りた」

ほら、早く食べろと促され、俺は抵抗もせずにそれを食べた。何か嫌味の一つでも言ってやりたかったが、それも面倒なくらいに身体は悲鳴をあげていて。食欲もなかったが、あっさりとした塩味のお粥はとても優しい味だった。しかも、ただのお粥じゃなくて、梅干しだとかおかかだとか、漬物を刻んだものだとかが綺麗に上に乗っかっていて、飽きることなく最後まで美味しく食べることができた。俺は「美味い」なんて一言も言わなかったけれど、聖川は俺が完食したことに満足げな笑みを浮かべていた。

「後は着替えて清潔な格好にしてから、温かくして睡眠を取れ。着替えている間に薬を用意しておいてやるから、それも飲め」

テキパキと指示を出され、俺は大人しくそれに従うことにする。別にこいつに言われたからではなく、ちょうど汗をかいて気持ち悪いと思っていたからだ。断じてこいつに言われたからではない。モゾモゾと着替えながら、薬を探して動き回る聖川を見やる。何だか母親みたいだ、と思ってしまう。男相手に母のようだなど、自分は何を考えているのかと驚いたが、それでも何だか心が温かくなるのを感じてしまったのだ。多分今の俺、相当弱っているんだ。そういうことにしておこう。薬も飲み終え、後は休むだけという俺の額に、聖川がそっと手を伸ばす。熱で火照った額にはひんやりとしたこいつの手が気持ちよくて、つい気を許してしまう。優しく看病されるって、こういうことなんだと、生まれてはじめてわかったような気がした。

「やはり熱いな……今日はもう休んだほうがいい」
「……あぁ」

一瞬、礼を言った方がいいかとも思ったが、それは言うことができなかった。熱にまかせて言ってしまうこともできたのかもしれないけれど、その直後に起こった出来事に俺の思考は支配されてしまうからである。

「おやすみ、神宮寺」

ちゅ、と先ほどまで冷たい手があてられていた俺の額に、聖川がキスなんてしやがるもんだから。そしてまるで何事もなかったかのように自分のパーソナルスペースに戻って行くから。俺は布団を被って、真っ赤になった顔を隠して悶々と考えることしかできなくなってしまったのである。今のは一体何だろう、俺はよくレディの額にキスをするけれど、聖川はそんなこと軽々とする奴じゃないし。いや、じゃあだからといって聖川が俺のことを好きとかそういう結論には決して辿りつかないし。いや、待てよもしかしたらさっきのは看病の一環なのかもしれない。俺は知らないだけで、看病の最後にはあれをやることが一般常識なのかもしれない!



(あー、もう)

(初めて経験した優しい看病は、温かいというよりも刺激的でした)



* * *

Repeatのレンルート3月をやった時から、絶対に書こうと決めていたマサレン風邪ネタ。看病されるのが憧れとレンちゃんが言っていたので、聖川様に看病していただきました。レンちゃんが対聖川さんなのに割と素直なのは熱のせいだと思ってくださいw
聖川さんがレンちゃんにチューしたのは、確信犯でも天然でもどちらでももえると思うのです。皆さまご自由にお考えください。風邪が治ってからも、考えすぎてギクシャクしちゃうレンちゃんとかいいですよね!可愛いですよね!もう早くお前ら付き合っちまえよ、とマサレンに言いたい。今度は付き合ってるマサレン書きたいです(^^)
20111022



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