わかっていたのに虜になった


*龍レンのカテキョパロ。教師リューヤさんと高校生レン。












「勉強なんか詰まらないから、もっと楽しいコト、しようよ」

教師という職業をつづけてきて、こんなに厄介な子どもに出会ったのはこれが初めてだ。心からそう思わせるほど、この子どもは手間がかかる面倒な子どもだった。
早乙女学園という私立高校で教鞭をとるようになってから、もう何年かがたつ。生徒の甘えは許さないのが俺の指導方針であったし、生徒たちからはそれなりに恐れられているらしい。教師に色目を使ってくる奴などいれば、問答無用でその手を振り払って、説教をしていただろう。でもこの子どもは、どう扱ったらいいか本当にわからない。(こんな瞳をした子どもには、始めて出会ったのだ)

事の始まりは、学園長にされた1つの依頼。それは「私の知り合いの息子に、夏休みの間だけ家庭教師をしてほしい」というものだった。そんな無茶な、というのが俺の意見で、教師には夏休みといえどもやるべきことが山ほどある。そんなことをしているヒマはないことなど学園長にもわかるだろうに。しかし、普段は横暴でどうしようもない学園長に頭まで下げられ、部活動の指導やその他の雑事はすべて何とかするとまで言われてしまっては断りきれるはずもなく。俺は頷かされていたのである。そして、その子どもの情報が記された紙を受け取った俺は、その後夏休みまでの間、頭を抱えて過ごすこととなるのだ。
子どもの名前は神宮寺レン。今や日本の未来を背負って立つ神宮寺財閥の三男だが、去年父親を亡くしてからは高校にも通わずに荒れた生活を送っていたという。その様子に見兼ねた、財閥の現トップの長男の手によって邸にほぼ軟禁状態にされ、家庭教師を付けられている。ここまでならばまだいい。俺だって何人か素行の悪い生徒を手懐けてきた過去もある。腕っ節には自信があるし、もしそいつが暴れ出したとしても何とか出来る。それだけならば、家庭教師として俺に白羽の矢が立ったことにも納得で、でも。あ、そういえばと何ともないことのように学園長から付け加えられた情報が、まさに俺の頭痛のタネとなったのである。
(今まで付けられた家庭教師は男女合わせて10人を超えるが、そのすべてを誑かして懇ろになり、とても勉強にならない、だなんて)



そして今、黒いスーツを着た俺の太ももに手を置いて、厭らしくそれを撫でさするこいつに、俺は困り果てているわけである。(どうしたもんか)先ほども言ったように、ふざけるなと一蹴することなら簡単にできる。でも、本当にそれでこの子どもとこれからやっていけるのだろうか。俺は、こいつの瞳がとても気になった。ただ情欲に眩んだ獣の瞳ではない。どこか寂しさを湛えているかのような、深い深い瞳。こいつは何を見ている?俺の、何を見ている?
太ももにあった手が、だんだんと上に上がってくる。脇腹、胸板、鎖骨、首筋、それらを舐めるような手つきで触るこいつの瞳から、俺は目を離すことができない。何が欲しい?俺に何を期待している?きっと、身体ではない。もっと別のものをこいつは求めている。そんな気がした。

「そんなことをしなくても、俺はお前を見てるぞ」

俺の言葉に、ビクリと身を震わせたのが、触れた場所から伝わってくる。瞳も揺れたのが、わかった。もうすぐで、お前の瞳の奥にある何かを垣間見ることができるのか?

「そんなことをしなくても、俺はお前の傍にいてやる。だから、それ以上のことはしなくていい」

自分でも、何故そんなことを言ってしまったのかはよくわからなかった。でも、思ったのだ、この子どもはどこか無理をしていると。そうじゃなければ、こんなに哀しそうな、切ない瞳をするはずがない。どれだけの間、沈黙が続いていたのだろう、わからないけれど、次に口を開いたのはこいつの方だった。

「あんたに、何、がわかる」
「そうだな、わからん。わかってほしいなら話してくれ。それに、俺はわかってやりたいとも思う」

だから、話なら聞くから、受け止めてやるから、頼むからそんな瞳で見つめないでくれ。そんな願いを込めて、俺の胸元をそっと掴んでいた手を、ギュッと握りしめてやった。その手はこんな真夏には驚くほどに冷たくて、離すことなどできなかった。5分ほどその冷えた手を暖めてから、俺は何も言わないそいつの部屋を後にした。「また明日来る」と言い置いて。



「リューヤさん、ねぇ、ぜったいにまた明日も来る?」
「あぁ、明日も明後日も明明後日も来るぞ」

次の日、俺が部屋に入るなりこの子どもが言い放った言葉はこんな言葉だった。昨日とは少しだけ違う、キラキラとした、それでいてまだ寂しさを残したそんな瞳で俺を見る。(なんか小学生のガキみたいだな)

「おら、やるぞ、勉強」
「リューヤさんが、今日ディナーを一緒に食べていってくれるならやるよ」
「夜まで一緒にいれってか……ったく、しゃーねぇなぁ」

どうやら、随分と懐かれてしまったようだ。昨日とは打って変わったこいつの態度に苦笑しながらも、それを嬉しいと思っていた。わかっていた、踏み込んでしまったらそれまでだって。でも、放っておけなかったのだから仕方ないじゃないか。たくさん見せてほしいのだ。お前の過去も心の闇も、全部受け止めるから、だから、少しずつ少しずつ、見せてくれよ。



(わかっていたのに虜になった)
(その、切なすぎる笑顔の罠で)



* * *

「リューヤさん、リューヤさん」って懐くレンちゃんの出来上がりっと。そして、満更でもないリューヤさん。あぁ、楽しいww
この後、リューヤさんはレンちゃんの持つ苦しみをたくさんたくさん見せられるだろうけど、そのたびにレンちゃんを包んであげてほしいなと思う。ただし、プラトニックに、これ超重要。そんな感じで、夏休みが終わって家庭教師の契約が終わる頃に、いろいろと起こって、そこで初めて恋人同士になるといいよ。そんなプランまで頭の中にあるよ(^^)←
レンちゃんの気持ちにけっこう早いうちから気付いているけど、その思いに答えられなくてモヤモヤするリューヤさんとかもいいよね。龍レンはレンちゃんがけっこう素直に甘えてくれるので、すごく好きです。レンちゃんを幸せにしたいときは龍レンがイイネ!
タイトルは、「確かに恋だった」様よりお借りしました。
20111017

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