女子の本懐


*トキヤ♀とレン♀で幼なじみ設定。中学生くらいのイメージ。百合ではないですが、女体化苦手な方は注意。










「最悪」

ありったけの憎しみをこめた声音でもってそう呟いても、届けられる相手をもたない言葉は虚しく空中で霧散するだけだ。制服のスカートから伸びる足の膝には、無様に擦りむいた傷跡。擦れた皮膚からうっすらと滲んでくる血を拭うことは、しばらく前に諦めた。

(跡、残ったらヤダな)

そう思いながらも、本当に痛いのは擦り傷を負った足よりも、次第に熱をもって痛みはじめた頬の方だ。足の方は隠せても、顔を隠すのは困難だ。そう判断を下せば、足は自然と自宅ではなく、誰よりも親身になって私のことを考えてくれる彼女の元へ向く。

「っ……あなたは本当に、人を心配させるのが得意ですね」

玄関口に立った私を見た彼女は、一瞬怯んだように息を詰まらせたが、すぐにいつもの澄ました顔で憎まれ口をたたく。「とりあえず手当しましょう」と家にあげてくれた彼女は、一ノ瀬トキヤという。幼稚舎から大学までの一貫校である早乙女学園で、かれこれ10年以上も共に学んでいて、なおかつ家もそれなりに近いという、幼なじみである。いつも眉間に皺を寄せて、厳格そうに唇を真一文字に結ぶ彼女が、時に本当に優しそうにほほ笑む瞬間があることを私は知っている(滅多に見せないことがもったいなくてしょうがない)一分の隙もなく結われている地味なおさげだって、私に任せてくれればもっとずっとオシャレにしてあげるのに(何度提案しても素気無く断られるだけだ)
とりあえず、少しひきずって歩いていた足は消毒されて、大きめの絆創膏を貼られた。腫れ上がった頬の方はどうにもならないと溜め息を吐かれ、ぺしんと音を立てて少々手荒に冷えピタがあてがわれた。最初は冷たくて気持ちが良かったが、すぐにその冷たさは頬の熱と溶け合って温くなってしまう。これでどれだけ腫れがひくのかはわからない。家に帰ったらどうやって言い訳しよう、なんてことばかり考えていたら、先程まで無言だった彼女が急に口を開いた。

「で、こんな有様になった原因は何なのですか?」
「大したことじゃないよ。3年の先パイの家でデートしてたら、急に服脱がそうとしてきたから逃げてきただけ」

決して大きな声で言えるような内容ではないが、彼女に対して今さら何かを取り繕おうなどという気持ちは毛頭ない。大胆な私の告白に、彼女は嫌な顔を全く隠そうとしなかった(彼女は普通よりもだいぶん潔癖なのだ)

「そんな恐い顔しないでよ。乱暴だったからちゃんと逃げてきたし。……ちょっとケガはしたけど」
「相手が乱暴でなかったら許していたのですか?その人のことを、あなたはちゃんと……」
「別に好きではないけど」

私が彼女の言葉を途中で遮ってしまったので、彼女はさらに苦い顔をした。普段の彼女曰く、「あなたは私を怒らせる天才ですね」とのこと。

「レン」
「……なあに」
「女が下着を脱いでいいのは、入浴とトイレ以外では本当に好きな人の前だけです」

そう言って私を見つめる目は、厳しいけれども決して私を非難するものではない。それは、私のようないい加減で中途半端でどうしようもない存在に、唯一向けられる真摯な目だ。

「……私、イッチーのそういうところ結構好きだなあ」
「そういうところとはどういうところですか」
「ん?真面目なところ」
「別に真面目ではないですよ。あなたに貞操観念が欠如しているだけです」

そう言い捨てるようにして、彼女は部屋を出て行こうとする。

「どこ行くの」
「氷のうを用意してきます。冷えピタでは埒があかないようですから。その気があるなら鏡を見てみたらいいですよ。かなり笑える顔になってきていますから」

そう言われてみれば、何だか熱と痛みは次第に増していっているような気がする。カバンを引き寄せて、メイクポーチから鏡を取り出してみて、思わず苦笑する。ああ、これは、確かに笑える。



(こんなことがあったとき、こうやって笑っていられるのは、イッチーがいてくれるからなんだよ)



* * *

一ノ瀬中1、神宮寺中2くらいのイメージ。このあと、高校入ったくらいで神宮寺が荒れて、ダブって同じ学年になる感じです。
決して百合ではなく、女の子同士の友情を書きたかったのでこんなものに。幼なじみ設定はやっぱりロマンがあると思うんです。翔ちゃんも入れて仲良し3人組にするか迷った。また色々書きたい。
20151110
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