GREEN


*12万打企画の嶺レン。神宮寺視点で、割と甘めです。










何を伝えればいいだろう。こんな歌ひとつで。とてもじゃないけれど、表しきれない。それは決して俺のボキャブラリーが貧困であるせいではなくて、愛しいという思いを表そうとしたとき、言葉はもどかしくてひどく邪魔な存在になるせいだ。



きっかけは一言、いつも俺がソロで曲を出すときにお世話になっているプロデューサーに、「次の曲は、自由に作詞してごらん」と言われたこと。基本的に、他人の言葉は多少言葉足らずであっても意図を汲み取ることができると自負しているのだが、今回ばかりは本当に意味がわからなくて、頭の上に大きなクエスチョンマークを散らしてしまった。俺は今までだって、ソロ曲は自分1人で作詞してきたし、誰かに何かを強制された覚えはないのだけれど。そこまで考えて、プロデューサーが俺を見て苦笑しているのを見て、ハッと我に返った。

「君はいつも、ファンの子たちに向けて歌うだろう?もちろんそれは大切だけど、たまには神宮寺レンの素顔も見てみたいなと思って」

「だから君の本当に大切な人を思って書いてごらん」と。その場は一も二もなく引き受けたのだが、これがとにかく難しい。本当に大切な人、といわれて思い浮かぶのは、もちろん恋人という存在である寿嶺二のことだ。

でも、彼への思いを言葉にしようとすればするほど、本当に伝えたい言葉は無垢な幼子のように1人で迷子になってしまう。迷子になってしまった「伝えたいこと」は、言葉にしてほしくてさめざめと泣いているような気もするのだが、やっぱりどこにいるのか、どうすればいいのか見当もつかない。そんな心持ちだ。
泣いている幼子を見つけてやろうと思い浮かべてみると、脳裏に浮かぶのは幼い頃の自分の姿だった。孤独に怯え、ままならぬものを抱え、夜の闇の中でただ涙を流す。彼は紛れもなく、眠れないで泣いていた日の自分自身だった。そうか、このどうにも言葉にならない思いは、何も出来ずに泣いていた幼いあの日と同じ感覚なのだと思い当たる。
前までは思い出したくもない記憶だったはずなのに、今は不思議と辛くはない。そう思えるようになったのはいつからだったろうと思いを馳せれば、先ほどまでずっと考えていた恋人がまた思考に登場した。明確な瞬間などわからない。いつからだろう、2人で自然に手をつないで眠るようになったのは。その時から自分は、夜を恐れなくなった。そして、幼い自分を赦したのだ。

そのことを詞にしてみようとも思ったが、彼との最も幸せな瞬間を切り取ろうと思うと、どうしても他愛もない日常のことばかり浮かんでくることに気が付いた。それは客観的に見るとあまりにもくだらなくて、とりとめがなくて、でもそんな瞬間が何よりも自分にとって美しいのだ。



「ねえレンレン、あれやろう。あれ」
「あれ?真ん中連想ゲーム?」
「そう。じゃあ最初のお題はねー」

2人きりでドライブをしながら、最初に夢中になったのは「しりとり」だった。今時小学生でも「しりとり」なんてやらないだろうと思うが、この大人がやると一向に終わりを見せそうもない遊びも、真剣に相手を負かそうと思えば意外にも面白いものだということを知った。「る」で攻めてみたり、「ぷ」で攻めてみたり。はたまたそういう攻撃に備えて対策を練ったり。
散々遊び尽くして「しりとり」にも飽きてきた頃に、嶺二さんがやろうと言い出したのが「真ん中連想ゲーム」だった。ルールは簡単で、まずは1人がお題に対して、連想する言葉を考える。そして、その考えた言葉からさらに連想する言葉を考えて、それを口に出す。もう1人は、明かされなかった真ん中の言葉が何かを当てる、というゲームである。

「旅行。からの禁煙。はい、真ん中なーんだ?」
「……わかった。飛行機」
「せいかーい。単純すぎた?」

くだらない遊びのようでいて、実は楽しい。目の前にいる彼が、どういう思考を辿ったのかを丁寧に予想するという工程が、彼自身の心の中を散歩しているような心地になって、気分がいい。そして、正解するともっと気持ちがいい。彼の心を間違えずになぞってやったぞ、という何とも言えない充足感に満たされる。
何度も何度も同じ遊びを繰り返して、答えが当たるときも、当たらないときもあるけれど、相手の頭の中、心の中を覗くことが、本当に楽しい。

「はい、じゃあ僕のターン。夕焼け、だから……笑顔。真ん中なーんだ?」
「夕焼け……笑顔」

まずは、「夕焼け」というキーワードから連想されるものを片っ端から考えてみる。太陽、砂浜、通学路、カラス……どれもこれも、次のキーワードである「笑顔」に結びつきそうなものはないように思える。これは久しぶりの難問だと考え込むが、一向にこれだ!という答えは見つからない。悔しいがギブアップしようか迷いながら隣にいる人物を見ても、ヒントになりそうなものは何もない。

「答え言っちゃおうか?」
「うーん、そうだね。降参。答えは?」

瞬間、彼はいたって真面目な顔でこんなことを言った。

「レンレン」
「……ん?何?」
「だから、答えはレンレンだよ、って」

彼の言葉を理解するまでには少し時間がかかって、その意味が頭の中に染み込んでくるころには、まるで条件反射のように耳まで赤くなってしまったことが自分自身わかった。この人は、なんて恥ずかしいことを真顔で言うのだろう、と。

「レンレンの髪は綺麗な夕焼け色でしょ。それからさ、僕にとって、レンレンの好きなところは数えきれないほどたくさんあるけど、そのなかでも特に大好きなのは笑顔なんだよ」

「知らなかったでしょ?」と付け加えながら俺を見る。そんな、ますます恥ずかしくなるようなこと、事細かに説明しなくたっていいのにと内心悪態をつきながら、それを口に出さないのは、それを嬉しく思う気持ちが少なからず存在するからだ。でも、こうして彼が自分に対して歯の浮くような台詞を言ってきたときには、そっぽを向いて何も言わないでおこうと決めている。彼はそのことを怒らないし、むしろそんな自分を見て、またさらに楽しそうな顔をするのだ。



くだらなくて、どうしようもない。どうやったって歌詞にはできそうにもない思い出のような気がする。でも、少しわかったのは、自分にとって大切なことは、彼のおかげで過去の自分を赦せたことよりも、何気ない幸せな日常のほうだということだ。俺たちの日々の営みなんて、積み上げては崩されて、そして雨で流されていく、揺らぎつづけるものだけれど、そのなかで2人笑いあっていけるのなら、それで幸せだ。

変わらない俺たちを願って、詞を書こう。思い出すのは、彼のこと。



(覚えていたいんだ)
(ありふれた言葉と今日の日を)



* * *

12万打企画リクエストその5でした。
嶺レンちゃんの何気ない、くだらない会話や日常を書くのが大好きです。嶺ちゃんのくだらなさが好き。それに安堵して、気持ちよくぬるま湯につかってるレンちゃんが好き。
水月水さん、リクエストどうもありがとうございました!
20150901
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