フェイク


*12万打企画のトキ←レンからの嶺レン。レンがぐるぐるしていて、嶺ちゃんが狡賢いです。









こんなことを言うと、なんて哀しい人なんだろうって思われるだろうから、他人には決して言いやしないけれど、この世の中に「真実」とか「本物」なんて何一つ存在しないのだろうと思って今までずっと生きてきた。
誰かにとっての「真実」は、その一方で必ず誰かにとっては「紛い物」で、目にするものも、自分自身さえも、「真実」なんだって信じても、ふとした瞬間に手酷く裏切られたりするものだ。それでも人は、色々なあたたかいものに支えられて、そのたびに立ち上がっていくものなんだろうけど、俺はそうやって生きていくには些かひねくれすぎていた。最初から何も信じずに生きていた方がずっと楽だなと、気が付いてしまってからは、もうそのまま。

そうやって生きてきた俺にも、人生のターニングポイントとも言えるべき時はしっかりと訪れるもので。何となく、彼は自分にとって唯一の本物なんじゃないかって。そう思えたのは、彼があまりにも誠実で、真面目で、まっすぐな道を脇目もふらずに歩いているような人間だったからか?いや、決してそれだけではない。彼は、一ノ瀬トキヤは、いつだって正しい。でも、その正しさを武器にしない。他人に押し付けない。彼にとっての正しさは、どんな時も彼自身を追い詰めるようにしか使われない。その正論で他人を傷つけることはない。そんな彼を見て、初めは「馬鹿な奴」と思った。常にまっすぐ進み続けることが、必ずしも最短距離になるとは限らない。休んだり、迂回したり、時にはズルをすることが近道になることを俺は知っている。でも彼は、その狡さを知らない馬鹿ではなかったのだ。その狡さを知りながらも、どこまでも自分に厳しく、正しく歩く人間だった。そのことに気が付いた時には、もう好きだった。初めての感情だった。柄にもなく、これが初恋なんだと思った。

彼を思慕しつづけてもう5年近くが経った。アイドルとしてデビューして、仕事もそれなりに軌道にのった。それでも家のことは何にも片付けられていないし、相変わらず自分が嫌になるようなことも多いけれど、まだ自分を嫌いになれずにいるみたいだ。こんな上手くいかないことだらけなのに、それでもまだ自分を諦められずにいるのだ。それはきっと、彼のことが好きだからなのだろうと思っている。彼がいつまでだって、俺にとって本物の存在でいてくれるから、そしてそんな彼を好きでいるから、俺は自分を嫌いにならずにいられるんだろうな、と思う。

でもまぁ、いわばこの感情は砂漠に植えた青い薔薇のような、あまりにも不毛で育ちようのないものであって。どうこうするつもりなんて、もちろんなかった。誰にも気づかれるつもりなんてなかった。



「レンレンはさー、いつからトッキーのことが好きなの?」

あまりの自然さに、好きな食べ物の話でもされているのかと思うほどだった。珍しく同じ出演になったバラエティ番組。人懐っこい後輩思いのこの人が、俺の楽屋に顔を出したのも自然なこと。いつも通りの馬鹿みたいなどうしようもない会話の途中。必死に頭を回転させて、トッキーなんて食べ物あったっけ、そういえばこの人はイッチーのことをトッキーなんて呼んでいるっけ、とか色々考えて。最速で導き出した答えがこれ。

「ポッキーは好きだけど、プリッツの方が好きだな」
「わーあ、レンレンはおもしろいなー!もう!」

声を上げて笑うこの人の顔が今は邪気にあふれた悪魔のように見えた。何故ばれたのかとか、そんなことはどうでもいい。彼は聡い。きっとそれだけのこと。呑まれるな。踏み込まれるな。頭の中で繰り返すのは、そんな台詞。

「おもしろいけど、誤魔化し方は案外下手糞だね」

この人は、はっきり言ってよくわからない。ちゃらんぽらんな表面とは裏腹に、頭の中は賢く、どこまでも研ぎ澄まされた感覚の持ち主だということはわかっていた。そうでないと、この業界で何年も上手くやっていけるはずがない。ただ、その鋭さが自分に対して表れることは今まで一度もなかったものだから、少なからず油断していた部分があったというのだろうか?

「……今さらそれをつついてくる理由がわからないな。何が目的?」

俺の気持ちを知っているというのなら、それは昨日や今日のことではないだろう。きっと、ずっと前から気が付いていたはずだ。

「いいねー、いいねー。嶺ちゃん、そういう賢くて打算的な子は大好きだよ。目的ね、まあ強いていうなら、馬鹿な子の目を覚まさせてあげようかなっていう先輩の優しさとー」

俺を正面に挑んでくる眼は、獣のそれと見紛うほど鋭い。

「あわよくば、自分のものにならないかなー……っていう淡いトキメキ?」
「……はあ?」

どう控えめに表現しても、わけがわからない。馬鹿な子というのは俺のことなのだろう。いい歳して、仕事仲間で友人のそれも男に報われぬ思いを抱き続けている俺を揶揄している、そのことはわかる。でもそんなこと、わざわざこの人に言われなくともわかっているつもりだ。だからこそ、尚更この人の真意が掴めなくて揺さぶられる。(本当に、冗談みたいな人だ。良くも悪くも)

「レンレンみたいに賢い子がさ、初心な女の子みたいになってるの、最初は面白いなーって思ってたんだけど、だんだん見てられなくなってきちゃってね」

次々と告げられる言葉は、鋭く尖っているからこそ、鮮烈に俺のなかに入り込んでくる。

「結局、この世は嘘ばっかりだよ。トッキーだって、本物なんかじゃない。本物なんてない。いつかそれに気づいたとき、君は打ちのめされる」

咄嗟に理解した。この人は、彼を「本物」と崇める自分を笑っているのだ。それを第三者からはっきりと告げられたことは、俺にとってあまりに衝撃的だった。この人が言っているのは、決して一ノ瀬トキヤを貶している言葉ではない。ただ、自分の都合のいいように「本物」を作り上げて、それに心酔して、救われたような心地になっている俺を痛烈に批判しているのだ。

「……それでも、俺はこうすることしかできない」
「そんなことはないよ。他にも方法はある。試しに僕のこと、好きになってみない?」

一度は少しだけ理解できたことが、またもやわけがわからなくなってくる。他の方法なんて、他の生き方なんて、そんなもの考えたこともなかった。その他の方法というのが、この人を好きになってみるということなら、尚更わけがわからない。

「あのね、この世に本物なんてないんだよ。僕だって、嘘ばっかりで生きてる。でも、それはレンレンだって同じでしょ?」
「……その通りだね。ずっと嘘ばかり固めて、自分は偽物なんだって思って生きてきた」

もう取り繕うことなんてしなくなっていた。いや、そんなことをしても、この人に対しては無意味だということに気がついていた。

「嘘だっていいんだよ。だって、嘘ごと信じればいい。そうでしょ?僕もレンレンも嘘だらけだけど、信じて疑わなければそれは真実になるんだよ」

その言葉は、俺には稲妻に打たれたかの如く響いた。それくらい強烈な言葉だった。この人は、信じて裏切られることを恐れていた俺の根本を否定したのだ。本物とか偽物とか、そんなこと関係ない。どうでもいい。裏切りを恐れずに信じ続けることができれば、それが自分にとっての真実になるのだと。

「ねえ、ここはひとつ、この嶺二さんを信じてみませんか?」

キザったらしくウインクをするこの人に呆れながら、それでもなぜか自然と笑みがこぼれてきたのは、諦めとか自嘲からのものではないことは、はっきりとわかった。



(世界中にすり込まれている嘘を、信じていく)



* * *

12万打企画リクエストその3でした。大変お待たせしてしまい、申し訳ありませんでした。今回はなかなかの難産で、嶺レン落ちというよりは、嶺→レンで終わってしまったのが反省点です。狡くて聡くて押せ押せな嶺ちゃんが大好きです。
カンナさん、リクエストどうもありがとうございました!
20150817
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