桜色タイムカプセル
*12万打企画のカミュレン。ほぼカミュ←レンですが、心意気としては両方思いです。
神宮寺レンが、ST☆RISHを卒業して、そのまま芸能界から引退する。それは、比較的センセーショナルに世間に伝えられた。卒業・引退の理由は不明と報道されたことが、一層世間の興味関心のタネになったようだ。ワイドショーでは、メンバーとの不仲や事務所との不和、決して公表できないスキャンダルがあったのでは、などと様々な憶測が飛び交ったが、どれもさっぱり根拠のないものだったため、関係各所に迷惑がかからなかったのは幸いだった。どうして引退理由を明かさないのか、と問われても、曖昧に笑って誤魔化すことしかしなかった。否、できなかった。それは、「音楽性の違いで」とか「一般人として生活したい」とか、アイドルによくありがちな引退理由を俺は持ち合わせていなくて、ただどうしようもなくこのままアイドルを続けていくことに空虚さを覚えてしまったというだけに過ぎないからだ。そんな、ある意味ふざけたような理由で引退を決めた俺に、メンバーは誰も冷たい反応をしなかったことが、ただ有難かった。(オチビちゃんとイッチーにはものすごく真剣な顔で止められて、夜通し話し合ったりしたけれど)とにかく、桜の花が散るこの季節、3日後のコンサートを最後に、俺は引退する。それだけが明白な事実だ。
引退の理由は、自分自身で何度も何度も考えた。確かな答えは見つからなかったけれど、何年も歩き続けてきたこの道が、どんどん先が見えなく、短くなっていく感覚に襲われるようになったことが一番大きいのかもしれなかった。だからといって、今までの活動が自分にとってまったくの無意味であったとは思わない。何ごとにも意味を見出すことのできなかった自分が、生きる意味とか頑張るための理由づけなんて求めずに仲間と過ごした日々は、かけがえのないものであったと素直に思える。だからこそ、自分の引退の理由は自分でもうまく言い表すことができなかった。俺はいつだって、自分自身のことだけは上手く処理することができないままだ。
この世界を去ることに、寂しさこそあれど、未練などない。ただ一つ心残りを挙げるとするならば、それは彼のことだなんて、あまりにも馬鹿げていると思った。
「引退のことを聞いた」
「そう。どう、思った?」
「……お前の人生だ。お前の好きなようにすればいい。俺には関係がない」
バロンとは、ST☆RISHの兄貴分として共演することが多かった。俺個人としても、2人でユニットを組んで何曲か曲を出したし、ST☆RISH以外の人と仕事をするのはバロンといっしょのことが圧倒的に多かったように思う。彼とは、比較的良好な関係を築けているように俺としては思っている。氷のように冷たい眼差しがほんの一瞬だけ優しく溶ける場面を何度も見せてくれたし、傍にいることを暗黙のうちに許されている。だから、少しだけ期待していたのだ。彼にとって、もしかしたら自分は少しだけ特別なのかもしれないと。俺がこの世界を去りゆくことを、止めてくれたり、嘆いてくれたり、そういう俺にとって都合のいいことが起こるのではないかと。そんなこと、起こるはずなどないのに。
「今後はどうするつもりでいるんだ」
「兄の仕事を手伝うよ。っていっても、経営なんて齧ったこともないから、最初は足手まといだろうけどね」
「……そうか」
これからどうするのかと、自分のことを気にしてくれたという、たったそれだけの事実が嬉しかった。こういう馬鹿なことを考えるとき、いつだって自問自答した。俺は恋に恋してるだけなんじゃないか?って。誰にも隙を見せない鉄壁の人物が、少し自分に気を許してくれたことが嬉しいだけなんじゃないか?って。そうやって、何千回もこの思いを否定してみたけれど、脳内会議で導き出される答えはいつだって同じだった。
(彼が好きみたいだ)
そんな気持ちを隠し続けて、嘘をつくことばかりが上手い自分に嫌気がさすけれど、これで良かったんだと思う自分もいる。俺がこの世界からいなくなったら、きっと彼は俺のことなど忘れてしまうのだろう。この季節咲き誇る桜が散るように、俺がこの世界にいた記憶は少しずつ色あせて、風化していくのだろう。
「だが、それでも」
「うん?」
「お前とは、必ずもう一度会うような気がするから、不思議なものだな」
ふわり、と彼を纏う氷がまた溶ける。それは、俺だけに向けられる貴重な笑顔だ。今後の俺がどういう人間に変わっていくのか、それとも何一つ変わらないのか、そんなことはまったくわからない。でも1つだけ俺が確信しているのは、彼へのこの気持ちだけは、何年たっても色あせることはないのだろうということだ。この思いだけ、そのまま保存しておこう。いつかもう一度何らかの形で彼と会えたとき、もしかしたら伝えられるかもしれないから。
(何年後かのキミには言えますように)
* * *
12万打企画リクエストその2でした。カミュレンは両片思いが好きなのですが、どうもカミュさんをデレさせるのが難しいです。なかなか甘々になってくれない。いつか甘々なカミュレンを書くのが密かな目標です。
裕紀さん、リクエストどうもありがとうございました!
20150521
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