Classic


*12万打企画の嶺レン。甘々です。









この世界はきっと、とうの昔におかしくなってしまっていると思っていた。それはわかりやすい逃避だとか、ままならぬ何かへの不満だとかではなくて、純粋に自分は可笑しな世界の中で可笑しくなりながら生きているのだと思っていた。そう思うようになったのは芸能界に入って、今の仕事をするようになってからだ。この世界は歪んでいる。どこか一か所が変なわけではなくて、全体が奇妙に歪んでいる。まっすぐではない世界だから、せめてまっすぐに見えるように振る舞おうと思った。そのまっすぐさが「振る舞い」ではなく「本当」になったのは、君のおかげだ。君が僕を救ってくれた。
そんなことを言ったら、君は丸い目をさせた後にお腹を抱えて笑うかもしれないけど、僕はただ君を笑顔にしたいから、何度だって同じことを言うと思う。君が、僕を救ってくれたんだ。



「……今日は何かの記念日だったかな?」
「いーや、今日は何もない日だよ。もっとも僕にとっては、君に逢える日は毎日が記念日だけどね」

こうやってクサい台詞を言う自分は、すべて演技なのだと認識していた。レンレンに出会って、彼の外側と内側のギャップを知って、どうしようもなく好きになって、付き合うようになって、こういうことを言う自分は、もうすでに素のままの自分になっていることに気が付いた。だって、こんなにも歯の浮くような台詞なのに、こんなにも本心から言うことができるのだから。
僕がレンレンのために部屋に用意しておいた4ダースの薔薇は、ちゃちな蛍光灯のあかりを吸収して淡く輝いていた。本当に美しく高貴なものは、周りのものさえも同じように輝かせる力をもっていると思う。それは、神宮寺レンという人間も然り、だ。

「大体さ、この手法がすでに2番煎じなんだよね。俺も何度もレディたちにプレゼントしたやり方だ」
「時には古典的なやり方が新鮮に見えることもあるもんだよ?」
「はいはい、どうもありがとう」

いかにも呆れました、というように大げさに肩を竦めてみせる君の横顔が、いつもよりも数段ほころんで見えるのは、僕の気のせいではないことを知っている。僕にとっての君はどうしたって可愛くて、いつだって宝石のように輝く、価値ある存在なんだよ。

「さあ、行こう。今日は嶺ちゃんの特別なシークレットデートなのです」
「嶺二さんは毎回スペシャルデートだって言うじゃない」
「ノンノン、今日は違うんだってば。何しろシークレットですから」

訝しむ彼を、半ば無理矢理車に乗せた。ドライブというのはいいものだ。そこはいつも生活している日常的な空間のはずなのに、好きな人と2人きりであるという事実だけで、どこまでもロマンチックな空間へと姿を変えることができる。周りから断絶された密室であると勘違いすることができる。
どこに向かっているかわからないながらに、レンレンはドライブを楽しんでいるようだった。「眠くなってきた」と呟く彼の右手を、左手でギュッと握る。手をギュッギュッと握られると眠気がとんでいくらしいよと教えたのは僕だった。レンレンが、2人でドライブに行くたびに眠気を訴えてくるようになったのも、ちょうどその頃からだ。握られた手から目を逸らすかのように、窓の外の景色を見る君から目を離せなくて困る。(運転中だっていうのに)
シークレットデートなんて銘打っておきながら、行き先は全く決まっていなかった。(そういう意味では、シークレットというよりはミステリーデートだったかもしれない)いつでもスマートにエスコートすることは大切だけど、たまにはこんな行き当たりばったりなデートがあっても楽しいと思う。隣に座るレンレンは窓の外からの夕日に淡く照らされていた。僕が彼を見つめるとき、いつだって彼は光を受けて輝いている。その輝きに何か神々しいものを感じて、このまま教会にでも連れて行ってしまおうか、とふと考えたが、すぐに止めておこうと思い至った。そんなところに連れていったら、わかりやすく、彼の眉間に皺が寄ることが目に浮かぶ。ここで2人だけの結婚式を挙げようとか、神の前で永遠を誓おうとか、そんなことを僕が言い出すのではないかと思っているような顔になるだろう。そういう「ごっこ遊び」は、テレビドラマの中だけで十分だと言っているような顔。きっと彼にとって、形だけの愛情とか、叶うはずもない永遠なんて望むことすら馬鹿らしいものなのだ。

「……何、一人で笑ってるのさ。気味悪いよ、嶺二さん」
「レンレンのこと考えてたんだよ。気味が悪いとは聞き捨てならないなあ」

僕がわかりやすくおどけると、はにかむように笑ったあと、少しだけ恥ずかしそうに目線を泳がせる。ああホントに、君の一挙手一投足が愛しくて仕方がないんだ。この歪んだ、まがいものだらけの世界のなかで、君だけがこんなにも輝いている。



(You're one of a kind living in a world gone plastic.)
(Baby you're so classic.)



* * *

12万打企画リクエストその1でした。とっても甘々で素敵な曲で、龍レンor嶺レンとのこと……どちらも捨てがたかったのですが、曲のイメージには嶺レンちゃんの方がしっくりくるかな?と思い嶺レンでした。キザ男な嶺ちゃんにタジタジになったり、照れたりする神宮寺が大好物です。
夜宵さん、リクエストどうもありがとうございました!
20150518
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