delta


*マサ←レン←トキで、トキヤ視点。年は20代前半くらいのイメージです。









酷い男だ、と思った。それは、どちらか片方だけに対して思ったことではなく、どちらも不器用で、それでいてどちらも馬鹿だと思った。でも、もっと浅ましいのは、その様をこうやって見ていることしかできない自分なのだ。



「……どうしてイッチーは、俺が辛いときに必ず現れてくれるんだろうね」
「……ただの偶然ですよ」
「知ってるよ。でも、それでもなんかヒーローみたいで格好いいなと思っただけ」

まるでらしくない台詞をレンが言う時は、彼の精神状態が危うい時に他ならない。まだ肌寒い春の夜風に吹かれながら、上着も羽織らずに一人でぼんやりと寮の前庭のベンチに腰かけていたレン。そんな彼を見つけて、それを見て見ぬ振りをして放っておけるほど私は彼に無関心ではない。
「食事にでも行きますか?」と誘えば、「……飲んでもいいなら行く」という不貞腐れたような声が返ってきた。いつもならば、「飲みすぎないでくださいよ」と釘を刺すところなのだが、今ここでそんなことを言うほど私は朴念仁ではない。彼が酔いつぶれてしまったとしても、帰る寮は同じなので、タクシーに乗せて連れて帰ってくれば良いだけだ。飲ませる前に、明日の彼のスケジュールだけは確認しておかなければ、と思った。



「大体さ、努力する、って言ったくせに、その努力は3日で限界っていうのがあり得ないんだよ!」
「そうですね」
「俺がどんな気持ちであいつに告白したのかとか、絶対にあいつはわかってなくてさ!」
「そうかもしれませんね」
「しかもこっちは普通にしようと思って頑張ってるっていうのに、あいつは部屋でもなんか気まずそうな雰囲気出してくるし……!」
「それは困りましたね」

まるでマシンガンの如く、愚痴とも叫びともつかぬ言葉を繰り出し続けるレンに、私はただ肯くことしかしない。私の相槌の合間にアルコールを呷る彼のグラスの中身を気にする。次に頼む時は、こっそりと少しアルコールを薄くしてもらった方が良いだろうか、と考える。私が彼の言葉を肯定しかしないのにはしっかりと理由がある。別に、普段から私が彼に対してただのイエスマンなのかというと、それは決して違うのだ。彼が私の率直な意見を聞きたい時は、絶対にアルコールを入れない。すっきりとした頭で、理詰めの多い私の話をしっかりと受け止め、理解してそれを返してくれるのがレンという人間だ。だから、彼がアルコールを欲する時は、私の意見を仰ぎたいのではなく、話を聞いて欲しい時、つまりは甘えてくれている時なのだと、私は認識している。彼にとって、自分が甘えられる対象であるということを、素直に嬉しく思う。そう、私にとって神宮寺レンという存在は、「仲間」という言葉だけではすべてを形容することのできない存在であるのだ。
そんな存在が、何故こんなにも荒れているのか。長い紆余曲折のうちに、彼らの間で起こった出来事の全貌がやっと露わになった。彼ら、というのは、犬猿の仲で有名な聖川真斗と神宮寺レンのことである。レンは、早乙女学園に在籍している時からずっと、聖川さんのことを好いていた。いや、きっとその思いは私の与り知らぬもっと過去から続いているものなのだろうが。しかし、傍から見れば、レンが聖川さんに好意を抱いているとはとてもじゃないが感じることはできず、むしろ心の底から嫌っているようにさえ見えた。神宮寺レンという人物は、「愛の伝道師」などと恥ずかしい名で呼ばれるほどのアイドルであるくせに、本当に好きな人物にはまったく素直になることができない不器用な人物であったのだ。
そうして長いこと恋心を抉らせつづけていたレンが、何を思ったのか、つい最近聖川さんに思いを告げたのだという。どうして今まで頑なに何もできなかったくせに、今さら……という思いは何とか喉を過ぎる前に飲み込んだ。「お前が俺のことを何とも思っていないのは知っている。それでも構わないから、ひとつ自分と付き合ってみないか」とレンが聖川さんに持ちかけたのが3日前。それに対して聖川さんは、散々悩んだ末であったが「努力しよう」という返事をしたらしい。晴れて(と言っていいのかわからないが)、2人は恋人同士になった。しかし、今日、「やはり好きでもない者とは交際することができない」と振られてしまった、という事の顛末である。

「こんなことになるなら、最初から断ってくれれば良かったんだ。あいつが変に期待もたせるようなことするから、だから、あいつが悪い。とにかくあいつが悪い」

私には聖川さんの心のうちも何となく察することができた。彼だって、表面上は憎まれ口を叩くことも多いが、レンのことを憎からず思っていることは明白だ。レンを良きライバル、仲間として大切に思っているのは、ST☆RISH全員なのだ。だから、レンの痛切な告白を無下にできなかったのだろう。でも、あまりに彼は真面目すぎた。本当に好きでもない相手と、明確な名前のついた付き合いをすることに対して、相当の葛藤があったのだろう。まったく、レンも不器用だが、聖川さんもかなりの不器用具合だ。(結局、似た者同士ということなのか)

「変に期待を持たせられるより、きっぱりと断ってくれた方が楽だったんだ。そうすれば、こんなに苦しくなかったよ」

なまじ、3日と言えども付き合っていたという事実が余計にレンを苦しめていることが明白だった。付き合っていなければ、まだ希望がもてる。けれども、付き合ってから振られたということは、自分は今後どう頑張っても相手に好いてはもらえないのだという思いが生まれる。

「本当に、あなたはどうしようもないほど彼のことが好きなんですね」
「……どうせバカだよ。イッチーは知ってるでしょ」
「ええ。馬鹿で、不器用で、どうしようもないです」

どうして今さらになって、こんな青臭い馬鹿げたことを2人してやっているのだろう。こんな、恋愛も碌に知らずに足掻く中学生みたいなことを、成人した男2人がやっているなんて。そう内心で溜息をついてから、もっとどうしようもない事実に気が付く。そんな2人をすぐ近くで見ながらも何も出来ずに、ただただレンに思慕している自分もまた、同じくらい馬鹿でどうしようもない。



(馬鹿で不器用でどうしようもないけれど、そんな貴方が好きですよ)
(今、言えたなら、何か変わるでしょうか)



* * *

昔のネタメモに「聖川に3日で振られた神宮寺が、イッチーに管をまく話」とあったので、つらつらと書き殴ってみました。こういう青臭い話が大好きな私です。イメージとしては神宮寺22歳、聖川とトキヤが21歳くらい。
20150422

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