Hello!Early Summer!


*付き合っている音レンの小話。甘め。音也がアホの子っぽくて、レンがワガママ。









うちの猫は、暑さに弱い。

まるで溶け出してしまったかのように、俺の家のソファで平たくなっている愛しい恋人を見やる。「暑いのと寒いのなら、どっちがいい?」と聞いたら「暑いの」と答えるくせに、グダグダと管を巻き続けている。「暑いの得意なんでしょ」と言っても、「得意ではないよ。寒いのよりはマシなだけ」と返される。本当に我儘だな、とため息をつくけれど、レンがこうやって思うままを口にすることができるのは自分の前だけだと思っているので、なんだかんだと嬉しく思っていたりもする。
今はまだ6月で、初夏と呼ぶに相応しい時期にも関わらず、体に纏わりつく生温い風は俺たちに不快感しか与えない。俺はまた一つ溜め息をつきながら、項垂れる恋人を眺める。暑くてかなわないのだろう、髪を後ろで一つに束ねて、更に前髪をピンでとめている。革製のソファから、だらりと投げ出している手足がはみ出している。レンが「革製のソファは汗をかくとベタベタくっつく」と文句を言ったから、「じゃあ近いうちに布製に変えるよ」と約束をした。

「ねえ、レン、外に行こうよ。そのほうが風があって涼しいかも」
「んー……いやだ」

猫の機嫌をとろうとして躍起になっている俺の気持ちなんて、本人は全然わかってくれない。せっかくの休日なのに。オフの日が重なるなんて、そんなに何度もあることじゃないっていうのに。

「ねぇ、レン、暑いと思うから暑いんだよ!しんとーめっきゃくすれば何たらってやつだよ!」
「……残念。俺はイッキほど単純じゃないから、精神論は効かないんだ」

レンは俺のほうを向いてもくれない。せっかくの2人だけのだというのに。単純ってバカにされたことよりも、何よりも、2人きりの休日を楽しみたいと思っているのが自分だけなのかということがショックでならない。暑くたって何だって、俺はレンにこっちを向いてほしいだけなのに。

「レンの馬鹿。それならもう帰ってよ。もう会いに来なくてもいいから」

本当は思ってもいないことを口走った。怒ってでも何でもいいから構ってほしかっただけなんだ。それなのに、反応がない。猫はピクリとも動かない。もう俺のことなんてどうでもいいの?俺は頭に血がのぼってしまって、どうやってもこちらを向いてくれないレンの手首を思いっきり引っ張った。レンのからだは勢い余ってソファから落ちて、俺のからだの上に転がった。ゴツンと鈍い音がしたのは、レンが頭を床にぶつけちゃった音のようだ。ねえレン、早く俺を叱ってよ。「何するのさ」って怒鳴って、早く俺を見てよ。
そこで俺は、自分がとても酷いことを言ってしまったことに気付いた。だって、俺の上に乗っかったレンが、今にも泣き出してしまいそうな顔をしていたのだから。あぁ、俺はいつでもこうやって、無意識にレンを傷つけてしまうんだ。可愛くて愛しくて、大好きな人形で遊びすぎて壊してしまう子供みたいに。でも、レンは人形じゃないんだから、生きてる人間なんだから、全部が俺の言う通りになんて絶対ならないんだから。だから、もっとずっとずっと、大事にしなくちゃいけないんだ。

俺は下からレンを抱き締めた。そっと、そっと。レンはとっても優しいから、「暑い」なんて言わなかったよ。

「ごめんね、レン、ごめんね」
「もう、絶対、帰れとか、言わないでよ」
「うん、嘘だよ、そんなの思ってない」
「嘘でも、言わないでよ」
「うん、言わないって約束する」

少し汗ばんだ猫のからだに、俺の肌がぴったり吸いついた。あ、何だか、「離れたくない」って言ってるみたいだな、なんて思った。

「ねぇ、レンの好きなところに行こうか」
「……最初に部屋においでって言ったのはイッキだよ」
「言ったけど、俺はレンと2人ならどこでもいいんだ」
「じゃあ、練習室……。涼しいし」
「練習室?せっかくのオフなのに?」

「……俺も、イッキと2人ならどこでもいいかなって思ったから」

猫の発した嬉しい言葉に、俺はすっかり舞い上がってしまった。休日を2人で過ごしたいのは、どちらも同じなんだなって。いつまでたっても俺の上からどこうとしないレンの様子から、それが痛いほど伝わってきたから。



(いつでも、どこでも)
(君がいるならそれだけでいい!)


* * *

季節はずれにも程があるわ!
少々頭の弱い一十木さんと、我儘放題・甘え放題の神宮寺さんでお送りいたしました。たまーに、こういうただただ甘いだけの話を書きたくなります。まさに「やまなし、おちなし、いみなし」みたいな。
20150309
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