恋のスリーカウント


*那月と砂月が双子設定。幼馴染パロ。










「翔!あんた何よ、この点数は!!」

母さんが顔を真っ赤にしている、まるで昔話によくでてくる赤鬼みたいだ。(そんなこと絶っっ対に言わないけれど)まぁ、怒るよな。そりゃあ吃驚しますよね。オレモソウオモイマス。校内で行われた模試の答案を片手に怒りを爆発させる母さんを上目で見やる。数学で1ケタは流石に不味かったよな、まぁ他も割と壊滅的なんだけど。

俺がこんなにも悪い点数を取ったのには、理由がある。その理由はわかりきっている。「無理して進学校に入学したから」それに尽きる。中学の時から、もともと勉強は得意ではなかった。机に向かっているよりも身体を動かすことの方が数倍楽しいと思えたし、小学生から続けていた空手に殆どの時間を割いていたのだ。双子の弟の薫の方はといえば成績優秀で、電車で1時間半もかかる国立の男子校を受験した。翔ちゃんは進路どうするのって薫に問われて、俺が言った高校の名前は市内では1番の進学校の早乙女学園、理由は単純で憧れの先生がいるから。日向龍也というその人は、早乙女学園の教師で空手部の顧問をしている。昔1度だけ教わったことがあって、それからずーっと俺の憧れの人。その人にまた教わりたい一心で、俺は早乙女学園受験を決めた。(まぁ今にして思えばかなり無謀だった)受験までの半年間、薫にほとんど付きっきりで勉強を見てもらい、ギリギリの成績だったけれど見事合格。……したはいいが、そんなギリギリ合格の俺が授業についていくのはかなり辛くて。薫も自分の勉強で手一杯みたいだし、自分ではどうすることもできなくズルズルと……気付けば立派な落ちこぼれ生徒だ。

「まだ高校入学したばっかりだっていうのに……なっちゃんとさっちゃんに教えてもらいなさい!」
「う……」

「なっちゃんとさっちゃん」というのは家の隣の四ノ宮家の双子のことだ。那月と砂月、だから「なっちゃんとさっちゃん」。那月と砂月は俺たちより2つ年上だけど、同じ双子ということもあって仲良くしていた、所謂幼馴染というやつで。2人とも俺と同じ早乙女学園に通っている。早乙女学園でそれなりの成績でいるのだから、もちろん俺を教えることに何の問題もないだろう。親ぐるみで交流のある間柄であるため、俺の家庭教師はすぐに決定したのである。





「わぁ、ばってんがいっぱいですねぇ、翔ちゃん!」
あの、那月サン、そんなに嬉しそうに言わないでいただけますかね。
「こりゃ酷いな。なんでここまで俺らを頼らなかったんだよ、馬鹿かチビが」
いや、俺にも一応プライドというものもありまして、ていうかチビって言うな砂月!

そんなこんなで、今俺は自分の部屋に那月と砂月を招き入れ、2人に挟まれてテーブルに座っている次第である。こうして見るとこいつらは本当にそっくりで、(まぁ俺と薫もよく似ているけど)まるで鏡でも置いているみたいである。違うところと言えば那月の方が眼鏡をかけているくらいで、背格好までもが同じだ。(ちくしょう、俺と薫は薫の方がでかいのに)ただ、2人の性格は正反対で、翔ちゃん翔ちゃんと頭に蝶々を飛ばしているような優男の方が那月で、普通にしているのに怒っているのかと思われるくらいキツく見える方が砂月だ。

「とりあえず数学は壊滅的だな……後は英語、化学、世界史あたりもか」
「あ、でも国語は平均点以上だね。翔ちゃん、えらいえらい!」
「で、チビ、次の定期考査の目標は?」
「……全教科平均点、以上……」
ってやっぱ無理かな?と上目で恐る恐る2人を見る。(こいつらでかいから、どう頑張ってもこうなっちまうのが悔しい)
「無理じゃなくて、頑張ろうね」
「無理じゃなくて、やるんだよ」
……キレーなハモり、いただきました。

とりあえず、文系科目は那月、理系科目は砂月にそれぞれ見てもらうことになった。那月はとにかく優しくて、俺がとんちんかんなことを言っても根気強く教えてくれる。一方砂月はかなりスパルタで、何度も同じところを間違えたりすると容赦なく暴言が飛んでくるけど、結局は最後までしっかりと面倒を見てくれる。2人とも受験生で自分たちの勉強も大変なはずなのに、本当にありがたい。しかし、どうにも苦手な科目が多すぎて、授業のスピードと俺の勉強の進行具合はなかなか一致せず、気付けば定期考査までもう日が無くなり始めていた。

「はー……本当に間に合うのかな……」
砂月が俺のために作ってくれた小テスト、結果は半分ちょいくらいの点数。(あ、ちなみに砂月にはしっかり頬を抓られた)結果がついてこなくて、さらにテストも近くなり、俺はどうにも焦り始める。

「じゃあ、もっと翔ちゃんがやる気になるように、罰ゲームでも設定しましょうか」
笑顔で那月がとんでもないことを言いだす。昔から、那月は突拍子もないことを言いだすのが大得意で、それにいつも振り回されてきた。しかも砂月は何故か那月には甘くて、那月の暴走はあまり止めてくれない。被害を被るのは俺の確率が非常に高いのだ。(薫は何だかんだ言って、いつも上手く逃げる。あいつは要領がいいんだ)いつもは何とか止めようと尽力するのだが、家庭教師を頼んでいる身としてはそれもできない。
「翔ちゃんがもし文系科目で平均点を取れなかったらー、昔みたいに僕をなっちゃんって呼んでください!」
「……や、それは、ちょっと……」
小学生くらいまでは俺も「なっちゃんさっちゃん」と呼んでいたのだが、何となくそれが気恥ずかしくなり、いつの間にか「那月砂月」と呼ぶようになっていた。薫は今でも「なっちゃんさっちゃん」と呼んでいるけど、俺はどうも呼べなくて。というか、一度変えてしまったから元に戻すことに抵抗がある。いつまでも子どものままではいられないような、そんな気がするのだ。小さい時は一緒にお風呂に入ったり、一緒に寝たりしていたけど、それをいつの間にかしなくなったのと同じことなのだ。多分、ずーっと仲のいい幼馴染ではいられなくなる、そんな日が来るような気がして。
「じゃあ、理系科目で平均点割ったら、那月の手料理でも食ってもらおうか」
「砂月、おまっ、俺に死ねって言うのか!?」
「さっちゃん酷い!なんで僕の料理を食べるのが罰ゲームなの!?」
ヤバい、那月の料理を食べるのは本気で遠慮したい。考えただけで腹が痛くなってくるような、幼い頃の記憶の数々……う、なんか吐き気までしてきたかも。と、俺が顔を青くさせている間に、頭の上の2人の口喧嘩がどんどん酷くなっていっているようだ。那月と砂月がこんなに言い争うのも珍しい、と2人の会話に耳を傾けると、話は何だかとんでもない方向へ向かっていたのだった。

「絶対に僕の方が翔ちゃんを好きです!ずーっと、ずーっと可愛がってきたんだから!」
「お前よりも俺の方がチビのことは知ってる。お前が好きになるもっと前から、俺はチビのこと見てたからな」
え、え、ちょっと待てよ、何の話?誰と誰が誰を好きだって?
「ねぇ、翔ちゃん、僕の方がずーっと翔ちゃんに優しかったよね?翔ちゃんが怖いテレビ見て、夜寝るのが怖い時いっしょの布団で寝てあげたもんね?」
「それを言うなら、チビが発作で倒れた時に看病してたのは俺だ。お前はオロオロして何もできなかっただろ」
いや、ほら、そんな昔の話いまさら持ちだされても、てか、それ以前にこれは一体何の勝負をしておいででしょうか。
「じゃあ、テストで翔ちゃんにいい点を取らせられた方が勝ち!これで決めましょう!」
「望むところだな」
わけがわかっていない俺を余所に、話は一応の決着を見せたようだ。なぁ、これ本当にどういう勝負?
「僕を選んでくれるよね?翔ちゃん。文系科目、頑張って勉強しようね」
「おいチビ、今日からもっと厳しくやるからな」

「ずっと我慢してきたんだから、もうどっちか選んでくれてもいいよね、翔ちゃん?」
「わかってるとは思うけど、俺たち本気だからな」

なんて、那月はいつものとびきりの笑顔で、砂月は今まで見たことないようなちょっと照れた顔で言うんだ。2人が俺のこと好き、とか、全然気付かなかったんだけど……え、俺、どうすればいいの?ずーっと仲のいい幼馴染のままではいられなくなる日が来る、その日は俺が思っていたよりも、もう少し早くやってくるのかもしれなかった。



(勉学に励むこと、それは恋へのカウントダウン)





* * *

昨日日記でつぶやいたカテキョネタを書いてみた。
で、これに薫くんも加わって「翔ちゃんは渡さない」みたいになって、四つ巴すればいいと思うんだがどうだろう(^^)←
会話文ばっかりになってしまった……でもまぁ、ギャグ風だからこれもこれでいいか、とあげてしまいます。カテキョパロ龍レンバージョンは、需要もなさそうなのでお蔵入りするかもですー。
20111010

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