Diving the mother sky


*トキレン♀で、アダルティな短めの話。女体化、卑猥が苦手な方はご注意。









「ねえ、蟻がいつまでたっても進化を遂げないのは何故だと思う?」

彼女の発言が突拍子もないのはいつものことだが、今回のそれはいつにも増して奇怪な質問だった。彼女の、指ざわりの良い細い髪がシーツに無造作に散らばるのを見る。これはある種の芸術品のようだな、と見るたびに思う。それは驚くほど細いのに、触れると指先にしっかりとした生命力を感じる。そのくせ、ほとんど重さというものはない。自分の髪と同じ物質で形作られているとは到底思えないのだ。

「ねえ、イッチー。聞いてる?」

いつまで経っても返事を返さない私に焦れた彼女が、下腹部に緩く力を込めたことが感覚でわかる。何故そんなことがわかるかというと、今、私と彼女は紛うことなく「繋がっている」状態であるからに他ならない。彼女が私自身に与えた刺激で、私が眉間のしわを深くするのを見ることが、最近の彼女の気に入りの瞬間らしい。まったく、困った人だと思う。

「蟻ってね、弱い存在でしょ。すぐに人間に踏まれるし、巣だって簡単に壊されちゃうし。それなのに、どうしてあれ以上進化をしようとしないのかな?」

私にとっては、何故彼女がこうもセックスの最中におしゃべりになるのか、ということの方がよっぽど不思議に思う事柄であったが、それは洩れそうになる吐息とともに飲み込む。

「専門家ではないので詳しいことは知りませんが、進化に適していない種族なのかもしれないですね」

「しんかにてきしていないしゅぞく」と私の言葉をなぞる彼女を眺めながら、今までよりも比較的早く腰を打ちつける。彼女からは嬌声も、不意の吐息すらも洩れない。「女性があんなに甲高い声で善がるのは、本当は全部全部嘘なのよ」と、付き合い始めた頃の彼女が言った。自分は今まで男を喜ばせるためにそうしてきたけれど、もう必要はないよねと彼女が私に問うたのが、ひどく嬉しかったのを憶えている。

「じゃあ、進化の得意な人間であるはずの私が、いつまでも不毛なまま変われないのはどうしてなんだろうね?」

私の背に腕をまわして、肩口に顔を埋める彼女が言う。こうやって、不安定になる瞬間すらも彼女はいつでも突拍子がない。上手い返し方などわからない。だから、私は常に思った通りのことを口にするよう心がけている。それは、彼女自身が私に心のままを吐きだしてくれていることに対する敬意でもある。

「人間は進化を重ねてきましたが、それでも変化を恐れる性質は変わることがない」

背中に爪を立てられるのを感じて、行為を終えようと更に腰を進めた。流石にこの瞬間は彼女も無口になる。微かに、彼女の言葉にならない声が耳に届くので、私はそのことにとてつもない充足感を感じて、すぐに達してしまう。そんな私をからかうように、彼女はまた繰り返し下腹部に力をこめるから性質が悪い。そして私の眉間に手をあてて、ケラケラと軽快に笑うのだ。



(人は変化を恐れるものだ)
(この時間が限りなく愛おしく、手放したくないのだから)



* * *

はじめてのトキレン♀でした。情事の最中におしゃべりになるレン♀が書きたくてこんなものに。
これを書いていて、トキヤと聖川はAVとか見なさそうだなと思いました。想像力だけで何とでもなります、というタイプ。
20141218
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