act


*10万打リクエスト小説です。龍→レンな感じ。









初めは軽い気持ちだった。
連続ドラマの主演の話が舞い込んできたのは半年ほど前のこと。そして、そのドラマがラブストーリーだったことに対する驚きが少し。別に避けていたわけでもないのだが、俺が出演する映画やドラマはアクションものや青春ものばかりで、恋愛ものをやるのは本当に久しぶりだった。同時にヒロイン役に抜擢された女優は二十代も前半の人気女優で、そのヒロインの職場の上司というのが自分の役どころだ。タイトルは「シンデレラガール」。根拠も何もない偏見ではあるが、少女漫画にありがちなタイトルである。気が強く、意地っ張りで、仕事にも恋にも素直になれず、簡単には幸せになれないヒロインを指して「シンデレラ」というタイトルになっているようだ。
そして、前から世話になっていた旧知の監督に「ヒロインに横恋慕する後輩役を探している」と相談を持ちかけられたのも同じ頃。硬派な上司とは対照的な、わかりやすく軟派な人がいいと言われて、すぐに頭に思い浮かんだのは、元教え子で事務所の後輩である神宮寺レン。学園時代は決して真面目とは言えない困った生徒だったが、芸能界では悪い噂は聞かないので、それなりに頑張ってやっているのだろうと思う。モデルやCMの仕事が多いようで、演技の仕事をしているところはあまり見たことはないが、学園での成績は悪くはなかったはずだ。何よりも、「軟派」と言われて思い浮かぶのが、良く言えばフェミニストであるあいつくらいしか思いつかなかった。
本当に、軽い気持ちだったのだ。

まず驚いたのは、ドラマの関係者たちだった。次に、ドラマの視聴者たち。恐らく数え切れないほどの人たちが神宮寺レンに驚かされた。でも、あいつを前から知っていて、それでいて演じるあいつをすぐそばで見ていた俺が、一番驚いたことは間違いない。そう、あわや俺とヒロイン役の女優を喰ってしまうのではと監督が嬉しい悩みを抱える羽目になるほど、あいつの演技に多くの人間が心を奪われたのだ。
台本を読んだ限りでは、あいつの役は「気が強くて不器用な女を気に入ってしまった軟派な男」であった。それを、あいつが演じてみるともっと深い味が出た。ただのチャラチャラした軽い気持ちでヒロインに近づいたわけではない、「どこまでも純粋で臆病な自分を隠し、軟派なフリをする男」になった。

「彼はとても華があるけれど、演技には陰があるね。それが、どうしようもなく人を惹きつける」

そう言ったのは監督だった。嬉しい誤算だ、彼を紹介してくれてありがとう、と。
俺自身は、ひどく複雑な思いを抱えることになった。俺の演じる役は面倒見はいいが、ぶっきらぼうで優しさがなかなかわかりにくい。しかし、軟派な後輩がヒロインに想いを向けていることをきっかけに、自分もヒロインのことが好きなのだと気が付く。ただの危なっかしい後輩であったヒロインが、守りたい存在へと変わっていく感情の機微を表現しなければならない。それなのに、どうしても神宮寺を目で追ってしまう。撮影の間だけではなく、下手をすれば演技の最中でも。「どうしようもなく惹きつける」という監督の言葉をその度に思い出す。そう、どうしたって惹きつけられるのだ。確かに、どこか危なっかしい部分をもった生徒で、他の生徒よりも余計に目をかけていたという経緯はある。でも、あの頃の神宮寺に向けていた視線と今の視線はきっと同じではない。じゃあこの状態が何なのか、と問われても、明確な答えなど持ち合わせていないのだが。

ドラマはたちまち話題となり、最近のドラマの中では群を抜いた視聴率を誇っている。そんな中、今日で撮影はクランクアップを迎える。たくさんの人間の力が合わさって映画が作りあげられるこの撮影現場で、神宮寺と俺が2人きりになったのは、まったくの偶然であった。

「おつかれさま、リューヤさん」
「……おつかれ」

撮影の間中、同じ現場にいたはずなのに、神宮寺と話をすること自体がひどく久しぶりなことのような錯覚に陥る。喉に何かがひっかかっているような息苦しさを覚える。「水を飲みたい」と思った。ついさっきまで、喉の渇きなど感じていなかったのに。

「ものすごい反響だな……主演を張る日も遠くないかもしれないぞ?」

何とかして、神宮寺を褒めたかった。いつでも自信に満ちあふれていそうで、本当は驚くほど自己評価が低い奴だということを、俺は知っていた。学園時代に神宮寺をあまり褒めてやれなかったことを思い出した。別に俺はその罪滅ぼしのために神宮寺を褒めたいわけではないのに。

「やめてよ、リューヤさんに褒められるほどじゃないんだからさ」

数年経っても、やはり神宮寺は俺の知っている神宮寺のままだ。そのことがやるせないのに、どこか安心している自分もいて戸惑う。(俺は、神宮寺にどうなってほしいんだ?)そもそも、俺が神宮寺をどうこうできる立場にはないというのに、これからの神宮寺について思いを馳せる自分は可笑しいのではないか。

「ここまでお前の演技がすごいとは思ってなかったんだ。素直に受け取っとけ」
「……実は演技じゃないかもしれないよ?」

捉えようとした手が、むなしく空を切るような感覚。捉えたいと思っている自分には、気付かない振りをする。

「演技じゃない、って、」
「もしかしたら、この役柄が、俺という人間の本質にピタリと当てはまっているのかもしれないでしょ」

どうしてそんなに、おまえはかなしい目をするんだろうか。

「……というのは冗談だから、やっぱり俺には演技の才能があるのかもね?」

そう言って美しく笑う神宮寺は、画面の中で見るのと同じ顔をしていた。



(あのね、リューヤさん)
(俺にはきっと、生まれながらにして、演じる自分が中に存在しているんだよ)



* * *

大変長らくお待たせしてしまいました。リクエストを頂いていた龍レンで「2人が共演するお話」でした。実は、書いている当初はもっとドラマ名の「シンデレラ・ガール」が生きてくる話になる予定だったのですが、書いているうちに別の場所に着地してしまいました(よくあること)
私が龍→レンな感じを書くのは珍しいのですが、書いてみたら意外と食べられました。結論、龍レンは何でも美味しい。もぐもぐ。
夜宵さま、リクエストありがとうございました!ご自由にお持ち帰りください。
20141010
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