忘れられない味


*10万打リクエストのカミュレン。カミュ←レンな感じです。









自分に冷たい人が好み、というと決まって怪訝な顔をされる。いちばん仲の良いオチビちゃんにさえ、「レンってМだったのか?」とあまりにも酷い直球で返されて、その後フォローをするのがそれはそれは大変だったことはまだ記憶に新しい。だから、そういう自分の嗜好は決して他人には話さないようにすることにした。

自分にそういう嗜好がある、と気が付いたのは早乙女学園に入学したくらいの時だった。その頃の自分は毎日のように不特定多数のレディと交流していたのだが、それは単なる心の隙間を埋めるための行為に過ぎなかった。彼女たちと甘く濃密な時間を何度重ねても、胸が高まることはなかったし、独占したいとか、構ってほしいという気持ちになることは一度だってなかった。つまりは、彼女たちは俺にとってそこまでの存在だったということだ。こんなことを言うのは忍びないが、俺が笑いかけさえすれば、レディたちはみんな俺に夢中になった。不特定多数のレディに好意を向けられるたびに、俺の心はだんだんと冷えていった。(もちろん、そんな素振りを見せたことはないが)そのせいなのか、はたまた俺の本質のせいなのかは今となってはわからないが、自分には到底振り向いてくれなさそうな人に不意に優しくされることに弱いのだ。そんな嗜好に自分でも辟易することも多いほど。だから、あの何ということもない些末な出来事が、胸の内で燻ぶりつづけているのである。



(「飲め。そして寝てしまうといい」)

そう言って差し出されたのは、湯気を立てたホットミルク。あれは「シャイニング事務所冬の大合宿」などと銘打たれた北海道ロケの時で、ロケの中で宿の同室ペア決めを行ったのだった。俺と同室になったのはシャッフルユニットを組んだこともあるバロン。少しは付き合いがあるのでわかるが、彼は驚くほど他人に興味がない人間だ。その冷たさは絶対零度の如く、俺にとってはその冷たさが少し心地よくもあった。そんな相手が、差し出してくれたホットミルク。いまだ忘れえぬ、過去の闇を夢に見た俺に、差しのべられた救いの手。

(「……っ、甘っ……!こ、れっ、ものすごく甘いよ!バロン!」)
(「うるさい!文句を言わずに飲め!」)

いったいどれほど砂糖を入れたのかと想像することさえしたくなくなるほどの、舌にまとわりつく甘ったるさ。それが、二つの意味で忘れられない味になった。悪魔のように強烈な味。そして、俺の身を焦がした恋の味。



その瞬間から、それなりの時間が経っているが、この気持ちは報われていない。いつだって、俺の思いは報われない。当たり前だ、わざわざ自分から望みのない人物に思いを寄せてしまうのだから。それでいいのだ、とも思う。与えられないことには慣れている。どうせならこのまま、与えられずとも何も思わない心でいたい。期待する心を呼び覚ましてはならない。(そう思っていたのに)

「バロン、これもらってくれるかい?」
「……チョコレートか」
「そう。差し入れでよくもらうんだけど、苦手なんだ」

時たま、収録が重なって近くの楽屋になるとき。そのくらいしか自然な理由をつけて会えることはない。それでも、この冷たい氷の目が俺をとらえてくれること、ただそれだけで満足できる俺は、冷静に考えたら相当気持ち悪いのかもしれない。片思いには、楽しいものと辛いものがあるという。俺のこれはどちらなのだろう。自分自身では最早判断すらできない。

「……神宮寺」
「ん?」

それは本当に突然だった。思わずぞくりと背筋が震えるようなあの声で名前を呼ばれたのと、急に手首をつかまれたのがほぼ同時のこと。初めて触れた彼の手が、予想に反して少し汗ばんで熱かったことばかりに気を取られていたら、口内が甘ったるいチョコレートの味に侵されていた。バロンに口づけられているのだということに一拍遅れて気が付く。チョコレート味のキスなんて、小説やドラマのようにひどくロマンチックだ。

「……悪かった」

その一言を残して部屋を出てしまった彼を追うことなどできなかった。謝罪の言葉を述べられたということは、つまり今のキスは何も甘い意味など込められていないのだろう、と思う。確かめる必要などない。あの「悪かった」の言葉には、きっと俺に期待をもたせないための薬が含まれていたのだ。だからもちろん、浅はかに胸を高まらせたりしない。



(期待などしない)
(ただ、忘れられない味が、また増えてしまっただけのこと)



* * *

はじめてのカミュレンでした。全然カミュレンになってませんが!←
ちなみに、リクエストいただいた内容は「両片思いのすれ違いからの甘い話」だったのですが、神宮寺視点で書き始めたら、どうしてもカミュ側の葛藤が表現できないので、こんなものになってしまいました。なので、大変申し訳ないですが続きを書かせてください……!時間はかかるかもしれませんが、必ずや書きあげますので……!
アイジさま、リクエスト本当にありがとうございました!続きも気長に待っていてくださるとうれしいです。
20140828
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