Ring!∞
*10万打リクエストの付き合ってる音翔。ほのぼの甘。
晴れた休日、暑い暑い日。突然ふるえる携帯。液晶ディスプレイに浮かぶ名前は、俺の相棒。
一十木音也は、俺の相棒だ。そういうと、あとで二人きりになったとき、音也は決まって恨みごとを言ってくる。「俺は翔の恋人でしょ」と、拗ねたようにそっぽを向く。音也だって、俺たちの関係は表で堂々と公言していいようなものじゃないってことは痛いほどにわかっているから、これは拗ねたフリをしているだけだ。相棒、っていう表現は俺にとってはけっこう意味のある言葉なんだけどなと思いながら、「当たり前だろ」と背中を叩いてやるとすぐに機嫌をなおす。こういう時は子どもみたいだと思って笑うけれど、時たま音也が驚くほど格好良く見えてしまうことがあるから堪らない。たまらなく悔しいけど、どうしようもなく胸の鼓動が速くなるんだ。
太陽が誇らしげに輝く、暑い夏の日。でも、身体がドロドロに溶けだしてしまうんじゃないかと思うような蒸した感じはなく、むしろ空気がカラッとしていて少し気持ちがいい、そんな日。俺が何度片づけても同室の那月が散らかす部屋を、溜息をつきながら掃除していたら、ふいに携帯が鳴った。画面には、「一十木音也」の文字。
「今、森林公園にいるんだけど、これからデートしよう!」
なんていう用件の電話。意味がわからなくて、しばらく考え込んでしまう。音也とは何度も休日を共に過ごしたことはあるが、お互いの部屋でゲームをするとか、買い物に行くとか、「デート」なんて言葉、そういえば一度だって使ったことがないことに気が付く。そもそも、同じ寮に住んでいるのに、音也だけ先に向こうに着いているなんて、おかしくないか?とか、色々な疑問がぐるぐると頭を回った。
だから、「デート」という言葉に少しドキッとしたのは、ただ単にそれがいきなりだったからで、この暑いなか行ってもいいと思ったのは、部屋の掃除に飽きてきたからで、と動揺している自分に考えうる限りの理由を与えて、こう答えた。
「しょうがないから行ってやる」
なんていう無愛想な返事。「一時間はかかるかもな」、なんていう照れ隠しの憎まれ口。でも、口と体は裏腹で、電話を切った途端にねじを巻いたように動きだす足。歩けば30分の公園が目的地。走れば20分の目的地。
服を着替えて、髪を整えて、お気に入りの帽子とスニーカーをひっかけて。片づけの途中だったから、那月のぬいぐるみたちが無造作に床に転がっているけど、それは見ないフリをする。いつも音也と遊ぶときは、もっと気楽に準備をするくせに、妙に張り切って妙に焦っている自分にまた動揺する。だから、あいつが「デート」なんて言うから。
慌てて部屋を出て、何故かうんと走っている自分。別にあいつのためとかじゃなくて、走った方が涼しいし!走った方が体力つくし!自分に言い訳をしながら携帯だけ握りしめて、曲がり角だってスピードはゆるめない。電話のベルみたいに鳴っている鼓動は、走っているせいだ!
公園の手前の角でピタリと止まって、息を整える。音也に会ったらまず何て言おう、なんてことを考えてしまう。そういえば、待ち合わせなんて今までしたことがなかったから、どういう顔でどういう科白で行けばいいのか全然わからない。頭の中は整理がついていないのに、こんなところに一人で立ち止まっていたらただの怪しい人間だということに先に気が付いてしまう。公園に入ったら、正面のベンチに座っているのは、太陽みたいに熱そうな赤い髪。
「思ったより早くついた」
案の定、言葉が迷子になった俺を見て、嬉しそうに笑うこいつ。いつも通りの、子犬が笑ったみたいなくしゃったとした笑顔のはずなのに、なぜかそう見えない。太陽の光を一身に浴びて輝く音也の顔が、変に大人びて見えるような気がする。
「……やっぱり、翔って可愛いよね」
「……は?」
「可愛い」と言われるのには条件反射で噛みついてしまう俺だ、「一体何がだ」、と反論しようとして、斜め前にある鏡のようになっている遊具にうつる自分を見て愕然とする。おでこは全開、髪はぐちゃぐちゃ。
(急いで来たこと、完全にバレてるじゃねーか!)
「やっぱり、こうやって待ち合わせにしてみて良かった」
と笑うこいつに、息を整えて来たはずなのに跳ねる鼓動。いつもと違うのは音也なのか、それとも自分なのか。考えてみても答えなんて見つからない。もしかしたら両方なのかもしれない、とふと思う。
「また、こうやってデートしようね」
なんて約束されて。赤い顔も、ドキドキも、喉がカラカラなのも、やっぱり全部全部全部音也のせいで、絶対絶対絶対、俺のせいじゃない!
晴れた休日、暑い暑い日。突然ふるえる携帯。液晶ディスプレイに浮かんでほしい名前は、俺の恋人。
(翔、顔赤いよ?熱中症かも!)
(馬鹿!お前のせいだ!)
(えっ、俺!?)
* * *
ものすごく久しぶりに音翔を書きました。イケメン音也を目指したのですが、ただ翔ちゃんが乙女なだけのでは……という疑惑。でもいつもと違う格好いい音也にドキドキする翔ちゃんが書きたかったので満足です。話の構想はドリカムさんの曲からもらいました。すごく可愛らしい曲なので、大好きです。
りょーさま、リクエストありがとうございました!ご自由にお持ち帰りください。
20140806
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