初恋、始めました。4


*翔レンでレン♀でパラレルなので、色々お気をつけください。今回で完結です。










自分って何なんだろう、と思っていた。何のために生きているのだろう、と。育ての親と言っても過言ではないジョージに何度この質問をしたか知れないが、いつでも「その答えは自分で見つけろ」という言葉しか返ってこなかった。
答えなど見つかるはずがない。だって自分は誰にも必要とされていないのだから。母は私を生んだせいで死んだ。父は、母と瓜二つの私を受け入れてくれることのないまま、母と同じ場所へいってしまった。兄2人は、私のせいで母が死んだと思っているし、ジョージだって面倒こそ見てはくれるが、私がいなくたって生きられる。(むしろ、いないほうが彼の負担が減っていいくらいだろう)友だちすら、まともにできたことがない。幼い頃は父親に認めてもらうことに必死で、勉強や習い事に躍起になっていたし、年頃になってからは、女子はみんな私を遠巻きに眺めるようになっていた。男子は変な色目を使って自尊心を満たすための道具として私を使おうとするだけ。友だちらしい友だちなど、私の人生の中で一度もできた試しがない。
自分で言うのも何だが、何て哀しい人生なのだろうと思う。誰からも必要とされない私は、自分で自分を必要だとも思えない。私の顔と身体しか見ていない人たちと仮初めの関係を築いて、ペラペラなくせに誰にも壊せない防御壁を作って自分を守ることしかできない。私って、本当に何なんだろう。いつまでたっても、私は私自身を見つけられない。

「ひどい顔してるぞ、恋」
「……そんなことを言われたのは生まれて初めて」
「悩んでんのか?俺のせい?」
「……自意識過剰」

休日の朝っぱらから、人の家のインターホンを凶悪的な程鳴らしたオチビちゃんは、私がそう呟くと真っ白な頬を朱く染めた。今までそんなことを思ったことはなかったのだが、彼の肌の白さを少しうらやましく思う。雪のような、とまではいかないが、雪原を走る回る真っ白でふわふわした雪うさぎのような。(どうしたって彼の印象はいつも小動物系だ)もともと肌が浅黒い自分と比べてしまうので、何だか腹が立つ。
目の前で赤面したまま固まってしまった彼は、3日前に私に愛の告白をしてきた張本人で、でも私がグダグダと思い悩んで、彼曰く「ひどい顔」になっているのは、決して彼のせいではない。悩んでも苦しんでも何も見つけられない自分自身のせいだ。

「で、何?」

わざわざ人を朝早く起こしに来たのだ、それ相応の理由がなければ承知しない。(私が朝に弱いということを、オチビちゃんは知っていたっけ?)

「遊園地、行こう!」
「……は?」
「目指すは早乙女ランドだ!」

……年下の男の子の考えることって、よくわからない。結局、眠い頭と身体を強引に急き立てられて、「それならそれで準備があるのよ、女には!」と怒って、彼をシュンとさせたりして、この私が車ではなく電車に乗って移動をしたりして。なんだかんだで到着したのは、うちの学園の校長がかなりの額を融資したらしいと噂の早乙女ランド。可愛いのかブサイクなのかよくわからない3頭身のキャラクターが来場者に手を振っている。

「それで、何でいきなり遊園地なの?」

ため息はもう出なくなった。驚きと戸惑いというものは割と早く消えてしまうものらしい。

「何でって……遊園地といえば、デートの定番だろ!」
「……遊園地って、子どもが家族連れで遊びに来るところじゃないの?」

私のその返事に一瞬言葉を失ったオチビちゃんは、私が遊園地というものに初めて来たことを知ったらもっと絶句した。だって、小さい頃にはそんなテレビドラマの中みたいな理想の家族団欒なんてありっこなかったし、男の子たちが私をデートに連れて行ってくれるのは、ショッピングか、食事か、ホテルに直行かくらいしかなかったし。(そんなことはオチビちゃんには絶対に言わないけれど)
その後、いっそ不自然なほどの元気の良さで、「お前に遊園地の楽しみ方を教えてやる!」と息巻いた彼によって、私は文字通り「連れ回された」。初めはあまり気乗りしなかったけれど、初めて乗ったジェットコースターは最高に刺激的で3回も乗ったし、オチビちゃんが全力で抵抗したホラーハウスでの彼の怖がり方も面白かった。(思わず手をつないであげちゃったくらい。出てきた時は赤いのか青いのかよくわからない顔になってた)ベンチに座って食べるソフトクリームが存外美味しいことも知ったし、夕暮れになってから最後に乗るのは観覧車なんだってことも知った。観覧車がどういうアトラクションかはもちろん知っていたけれど、その中がこんなにも気まずく、沈黙が訪れるものだとは知らなかった。
その時、目の前に座ったオチビちゃんは3日前のあの時と同じ顔をしていて、私がどこを見て、どういう顔をしていればいいのか途端にわからなくなった。

「あのさ、何回もしつこいかもしれないけど、ホントに恋のこと好きだから」

彼は私のことを好きだという。それを告げられたあの日から、自分の中で何度もその言葉を反駁してはみたものの、言葉の意味はぼんやりとしか理解できなかった。ちっちゃくて、子どもで、それなのに世話焼き体質で、よく懐いてくるペットくらいにしか思っていなかった男の子が、私のことを好きだという。一人の男として見てくれという。そこで初めて、そういえば彼と私はたったの2つしか歳が違わなかったことに思い当たる。こんな私を好きだという、一人の男の子。そこまで考えたって、答えは一向に現れやしない。

「きっとさ。オチビちゃんも高校に入ったら、他にもっともっと好きな子ができるよ」
「……お前の言いたいことがよく理解できねー」
「身近に少し大人っぽいお姉さんがいて、何だか少しフラフラしてたから、仕方なく世話焼いてるだけだって」

言葉は、自分の意志とは裏腹に流れるように出てきた。本当は、こんなに真剣な顔をした彼に、何と返したらいいかわからずにいるっていうのに。

「バーーーーーーッカ!」
「……は?」
「お前が何かに悩んでるのとか、寂しそうな顔してるのとか、それを見て守りたいとかそばにいたいって思ったのは俺自身の気持ちだ。それを仕方なくとか絶対言うな。あんな泣き出しそうなお前を見つけたのは俺自身だし、好きだって思ったのも俺だ!」

雪ウサギのようだと思った白い頬は、観覧車の陳腐なプラスチックの窓から差し込むオレンジの光に染まっていた。白って、なんて純粋な色なんだろう、と小説の中のようなことをぼんやりと思った。
これが愛されるということなんだろうか。これが人に必要とされるということなのだろうか。経験したことがないからわからないが、もしかしたらそうなのかもしれない。想像していたそれは、もっと炎のように胸を熱くするものだったのだが、実際はくすぐったいような、ほのあたたかいものなのかもしれない。もしくは、まだこの気持ちは大きく花開いていないせいなのかもしれない。ペラペラのくせにやけに堅い壁に、ヒビが入ったような心地がした。あくまで、ヒビだけ、なんだけど。

「好きに、」
「……え?」
「好きに、なるとか、そういうのはわからない。だから、私を好きだってこと、たくさん見せてよ。そしたら」
「そしたら?」
「……そしたら、その時、考えるよ」

「はあ?」と素っ頓狂な声をあげて肩を落とす彼は、いつも通りのオチビちゃんで、すごく安心してつい声を上げて笑ってしまった。そしたら、彼も同じように安心したような顔をして笑って、そのことが何故か嬉しかった。その時ちょうど観覧車は一周を回り終わったところで、降りたあとに彼の手をそっと握ると、彼はあからさまに情けない声をあげた。

「ちょっ、な、え」
「今どき、付き合ってなくても手くらいつなぐよ?オチビちゃん」
「……オチビちゃんって言うな」
「それは付き合うことになってからね」
「……よくわかんねぇ」
「女の子ってそういうもんだよ」



(いつになるかわからないけど、付き合うことになったら伝えたいと思った)
(「私を見つけてくれて、ありがとう」と)



* * *

やっと終わった感が半端ないです。もう少し長いことグダグダさせていたかったような、早くくっつかせてあげたいような気もしたりとか。でも何となく、この二人には簡単に付き合ってほしくなかったので、こんな終わり方になりました。長いこと続きを待っていてくださった方、(いるんでしょうか?)お待たせいたしました。
20140131
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