短編 | ナノ

 あかいまるにばつだけつけて及川はぐっすり眠り込んでしまった。つかれているのだ。わかっている。
 規則正しい寝息の音を聞きながら、わたしは腕のばってんをなぞる。ふくらみに入れられた深くてながい溝に、あした及川の爪を切ってあげなくちゃいけないと思う。うすっぺらいブランケットをおなかだけにかけている。足下で首を振る扇風機は申し訳程度にそよそよと風を送る。及川にとっては微風もいいところだろう。だけれどあんまり冷やしすぎると次の日のむくみがひどいからと、クーラーのタイマー設定がいいと言う及川の要求を断固拒否したのだ。となりでねむる及川から、及川のからだでは処理しきれなかったのと思うくらいの熱がじっとりと忍び寄ってくる。若いということ。ひとつのアイス枕にふたり分のあたまを乗せているから距離は当然に近くて、及川の顔の造形のうつくしさも当然にながめることができる。すっとのびる鼻筋、くろぐろとしたまつげ、手入れのされた眉、にきびとかひとつも見当たらない張りつめる頬。蚊のいっぴきでもやってきて、その高い鼻とかつるりとした頬におおきなしるしをつくってやればいいのに。ベランダの花火の名残、野晒しにしているバケツのうつろに転がる音。時計の秒針の音。あたまで文字に起こしてしまう。ねむれない。ひとり置いていかれている気がする。ねむりたいのに目をつよくつむればつむるほど、あたまはよけいなおしゃべりをしたがる。腕のあかいまるぽちだって、これっぽちもかゆくなんてなかった。ばってんなんて、いやなやつ。わたしはあなたの歯形がほしい。




20150202 夏
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