短編 | ナノ


 白く細い少女の首に掛かる、同じように白く長い少年の指。掛ける甲にうっすら筋が浮かび、掛けられた瞳は大きく見開かれる。小さな手が空を掴むように泳ぐ。ゆらゆら、ぱくぱく、泳ぐ。少女が着ている真白なワンピースがゆらりゆらり真白な部屋に融けるように消えていく。どちらのものと分からない薄められた瞳からぽろりと雫が落ちて、真白な床に黒い染みをつくる。ぶわりカーテンが風にはためいた次の時には彼らの姿は跡形も無く消えていた。少女に似た面影の、少女よりやや年上らしき少年がその最後の一瞬、テレビを見ているかのような感覚で傍観していたわたしにむかってわらった。

 ◆

 幸村くんに嫌われることを他の何よりも恐れていて、いっそのこと見放された方が楽になれるのにその手を必死になって振り払われないよう掴む私は、彼からすればきっと滑稽で暗愚で、とても哀れな女なのでしょう。まるで唯一神を崇め他の何物をもその瞳に映さない盲目の信者の様だと自分でも了解している。我に帰れと諭されようとも端から我を忘れているつもりは無くだから手に負えない。私には幸村くんだけがいればよかった。彼の存在だけで世界の全てが事足りていた。いつからそうなってしまったのかは分からないから、多分、初めて会ったその時からそうなのだろう。

「俺は君に何か依存させるようなものを残した覚えは無いよ」

 幸村くんはいつも困ったように笑う。興味を通り越して、最近ではもはや呆れられている。だから私は彼の気を留めておかなければと奔走、あの手この手を使ってでも隣に置いてもらえるよう躍起になっている。

 幸村くんは知らない。私しか知らない。夢のお話。私は幸村くんに話すつもりはない。だから私が夢で見たことを幸村くんは知らないままだけれど、幸村くんはその光景をもう直ぐ見ることになる。幸村くんのかわいい妹が冷凍庫の中で水に還っていくのを私は見てしまったから。きらきらに輝いていた白いワンピースを彼が家にいない間に燃やしてしまったから。


 藍と白と赤。全部が混ざり合った色の濁流、出口が消えた箱の中、時計の針は四時過ぎを指していた。あと十分も無く、あの綺麗な顔が無感動に私の首を絞めるのだ。




20130325 夢で死んだ

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