電車に乗っている。電車はとても静かに走っている。走っているのかすら分からないよう。乗客は八人ばかりで、そのうち二人は子供で隣同士に並んで座っている。あとはスーツに身を包んだ大人で、彼らは長椅子に点々と散らばって座っている。大人は皆眠りこけている。二人の子供、わたしと幸村くんだけが息をしているという意識がある。
車窓には、真っ暗なお空に星が瞬いている、その眺めばかりが映っている。屑みたいにたくさんの星がちかちか見える。いつか、理科の先生が言っていた。都会からは目立つ星しか見ることができないんだよという言葉にわたしは今でも首を傾げ続けている。赤い星は年老いた星でもうじき消えてしまうらしい。だけれどわたしたちが見ている星は過去の星だから、その赤い星はもう消えてしまっているのかもしれない。人は死んだらお星さまになると言うけれど、そのお星さまも死んでしまったら、次は何になるのだろう。ブラックホールになって友を引いてそれだけじゃ足りなくて、足りないままにいなくなってしまうのだろうか。足りない足りない。何になっても満足することができないで、そのまま、泣きながら、消えていってしまうのだろうか。
「幸村くん」
わたしは幸村くんのYシャツの袖を引っ張る。
「今からどこにゆくの?」
幸村くんはわたしを見て微笑む。彼の瞳は凪いでいて、その目を見るだけでわたしは不思議と安心感を得る。幸村くんはやさしい手つきでわたしの頭を撫でながら言う。
「二人だけになれる場所に行きたいね」
冬に近づきつつある季節、電車の中はほんのりと温もっている。その温もりを拒絶しているかのようにひんやりと冷たい幸村くんの手を握る。でもわたしは知っている。わたしの熱も幸村くんは拒んでしまうことを。
「北海道に行きたいなあ」
「随分遠くの方だね」
「とても寒い場所に行きたいの」
窓の外に延々と広がる墓場からはどこに行っても逃げられないのだから、せめてあなたの手が冷たいだとか、そういう簡単なことが分からないような場所に行きたい。それなのに、幸村くんはそれなのに、家まで送るよとわたしに笑う。
20141017