短編 | ナノ


ちょっとした出来心だった。友人たちに「一度尾行してみた方がいいよ」と言われたのも手伝った。「アイツが他に女の子を作らないわけないじゃん」「今までそれで何人泣かしてきたと思ってんの」口々にそう言う友人たちにそんなことなかったよと言いたかった。「私は他の子とは違う」という思い上がりが確かにあったのだった。




付き合って三ヶ月記念のデートをして笑顔で別れた後、こっそり彼の後を付けてみると彼はまっすぐ家路に歩みを進めた。

私はそれに安堵して友人たちに明日学校で話す内容を組み立てていた。「やっぱり浮気なんかしてなかったよ」私は特別だから。他の、顔だけで選ばれた女の子たちとは私は違うんだから。そう得意気に話す私を想像してある種の優越感に浸っていた。

もう家がすぐそこだという所で、私は意気揚々に踵を返した。この先に誰かと待ち合わせするような場所が無いことを知っていたからだ。けれどその時だった。「キーヨッ!」知らない女の甲高い声が彼の名前を呼んだのは。驚いて振り返るとギャルっぽい女が頬を緩めて清純に抱きついていて、清純もその女を抱き締め返している。「今日も咲ちゃんは可愛いね!」「ね、ね、デート行こ!ずうっと待ってたんだから!」「うん!」それから2人は手を繋いで仲睦まじげにどこかに歩いて行く。端から見ればカップルにしか見えなかった。

確かに清純は女たらしではあったけれど、まさか、浮気していたなんて。周りに危惧されていたことが起こってしまったとは。「私は大丈夫」だとヘラヘラ笑って、清純に告白してOKを貰ったのが私だけだということに、浮かれていた。清純は自分から告白することは多いけれど告白されてもいつも断っていたから、私は唯一受け入れられたのだと思っていた。




「ねぇどうだった?」
「やっぱり浮気なんかしてなかったよ」
「へー、じゃあアイツも変わったんだ」
「そっかーよかったじゃん!」
「うん、」
「おーはようっ!何の話してるの?」
「おーおー千石。この子のこと泣かしたらあたしが許さないからね」
「え、いきなり何だよ。それに俺がこの子を泣かす訳ないよ」

ね、と清純が笑う。私はそれにちゃんと笑って返せただろうか。首に回された腕がひどく汚く思えた。




20110111 浮気する千石
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
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