短編 | ナノ


▼神は全てを知っている(20100828)


丸井から最近仁王と会ったかと電話が掛かってきた。取らなきゃよかったと後悔するのは8分後。

夏休みに入ってから会ってないと答えると(だって私帰宅部だから学校行く必要ないし)、同じテニス部で必然的に毎日会ってるはずの丸井が俺もこの二週間会ってないと言った。電話もメールも繋がらないらしい。でもそんなの仁王ならいつものことじゃん。前にも1ヶ月くらい引きこもってたことあるし。

「俺すっげぇ不安なんだけど」
「何でよ。どうせまた引きこもってんでしょ」
「お前に友達を心配する優しさはねぇの」
「だって仁王だから」
「前は幸村くんの電話とかメールには応えてたけど今はそれもスルーらしいぜ。だから最近幸村くん怖いんだって。赤也の次ぜってー俺じゃん」

へー、切原くんもう被害遭ってるんだ。ご愁傷様。つかお前の心配してるとこそこかよ。

「だから今から仁王ん家行こうぜ」
「何で、だるい」
「そこを頼むよ」
「ゆ、幸村くん!?」
「仁王の家の扉ぶっ壊してもよかったんだけど、何で俺が仁王の為にこのくそ熱い中余計な労力を使わなきゃいけないんだろって思って」
「私も仁王の為にこのくそ熱い中労力使いたくありません」
「もしかしたら仁王熱中症で死んでるかもしれないよ」
「家から出るのだるいです」
「お前仁王の彼女だろ?彼氏の心配しないの?」

後ろの方で丸井がアイツと仁王って付き合ってんの!?嘘だろぃ!とか何とかうるさい。
え、てか何で幸村、わたしと仁王が付き合ってること知ってんの。

「あ、ごめん。つい口が滑っちゃった。あとお前ってコスプレ似合うよね。こないだのうさ耳には興奮しちゃった」
「……」
「ああ、さっきからすまない。つい口元が緩んで」
「今すぐ仁王の家に向かいます」
「そうしてくれると助かるよ。ありがとう」

幸村怖い。さすが神の子。うさ耳付けたの家の中だけなんだけど。いつ見たし。





▼隠れファン(20100829)


仁王がもしかしたら死んでるかもしれないという結論に至ったのは10分前のことである。そして仁王宅門前なう。私の家から仁王のアパートまで普通だったらチャリでも20分のところを10分で着けた私偉い。お巡りさんに会わなくて本当によかった。

「おせーよ」
「あれ丸井だけ?幸村くんは」

家の前にいたのは丸井だけだった。私幸村がなるべく早く来てね、って言ったからマッハで来たのに。

「アイス買いに行った。それよりも中入ろうぜぇ、あちぃ」
「ああ、うん」


「……」
「……」
「え、何この異常なまでの冷たい空気。エアコン効き過ぎじゃない?」
「涼しい通り越してっな」
「電気代で死にそう」
「それで死んでんじゃね」
「何かあそこに変なのいるんだけど丸井見てきてよ」
「何で俺が。ジャッカル見て来いよ」
「ジャッカル今いないよ」

部屋の中央に毛布にくるまれている謎の物体が丸く丸くそこにあった。微妙に覗くきらきら光る銀色の糸。じゃんけんしてあれが何か確かめようぜぃ、と言った丸井のせいで私がその物体の正体を確かめなくてはならなくなった。違う。じゃんけんで勝ったのは私だったのだけど「こういう時はやりたいって強く思った方が勝つんだよ。だから頑張って」なんて人を脅しときながらマイペースにアイスを買いに行ってた幸村が、いつの間にか背後に立ってそう言い放ったからである。でも今の幸村には逆らえないから仕方ない。今だけじゃないけど。いつもだけど。とりあえず次何言われるか分かんないし。

「ねー、生きてる?」

近くに落ちていたアイスの木の棒でつんつんつつくと、もぞりと動く白い物体。

「な、ん。……おまんか」
「アンタ何してたの」
「冬眠ごっこ」
「は?」
「暑いき、寝続けよ思うたんじゃ……それより彼氏の扱い酷いぜよ。普通死んでそうな雰囲気があったら抱き締めるとか」
「やだよ気持ち悪い」
「……」

まぁ仁王は生きてたことだし、よかったよかった。一応私の任務は遂行した。じゃあ幸村くんこれでいいかな、と尋ねようと振り返った先で見たのは「見た目は可愛いよな」と落ち着いたピンク色のアルバムを開いてニヤニヤする二人だった。白い小さなハートが規則正しく一面に並んでいて黒のリボンが真ん中に描いてあって、あれ、確かあのアルバム……。さっと仁王の方を見ると首を傾げてさあ何のことか、といかにも俺は何も知らんよといった雰囲気を放たれる。

「フフ、今度の海原祭で俺たちのクラスはメイド喫茶をやることにしようかな」

ああ、やっぱりあれはこないだバイト先で発売になった……。丸井の電話なんか取らなきゃよかった。この白髪ミイラ化してたらよかったのに。つか幸村くんまさかそのアルバム目当てで丸井に電話を掛けさせたのかな。

「だって俺がメイド喫茶の写真集の発売の列に並んでたらおかしいだろ?」

つーか私メイドの時の顔と普通の時の顔かなり違うんだけど、いつバレたし。え、ていうかそのアルバムを仁王が持ってるってことは、あれ、確かそれって平日の午前発売でもう売り切れたやつじゃなかったっけ……そういや仁王、発売日の時学校にいなかったけど……うわ、何か色々考えたら頭痛くなってきた。気持ち悪、つーかエアコン温度もうちょっと誰か上げろ。さぶいぼ半端ねぇ。


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