短編 | ナノ

たっぷり蓄えられた、長くて艶のある美しい黒髪をさらさらと風に弄ばせながら、彼は、屋根の上を走っていた。お前さんは怪盗ルパンか何かですか、と彼の後を追うように起こる爆発を言葉を無くして見ていた。真撰組のかの有名な沖田総悟が何の気も無しにバズーカをバンバン撃ち鳴らし、人の家の屋根を次々に破壊していく様は、追う側追われる側、どちらが攘夷派なのか分からないものである。とても、その様子を見る限り、沖田総悟は国民を守る警察では無く、破壊活動を続ける高杉一派に属してます、と言った方がすんなり来ると私は思った。追われる男の方が、走るだけで、騒音はもたらしているかもしれないが、よっぽど、物を破壊してはいない。私は茶を啜りながら、しかし、その後に、男が懐から投げつけた物が大きな噴煙を上げたのを見て(恐らくんまい棒のそれ)、それでも騒音被害は堪らないな、とその下に住んでいる人達に同情した。どっちもどっちだった。賑やかな日曜日の朝である。




「貴様は……一体何をしていたんだ」

ドリフ爆発後ヘアーになった私に、依然サラサラヘアーの桂は呆れ顔をしてそう言った。何をしていたか、茶を楽しんでいた。私はそれだけで、間違っても台所でばーん、なんて爆発擬きのことを起こしたりなんかしていない。私は何もしていない、ただバズーカが私の家に撃ち込まれただけである。あれを流れ弾と言うのかしらね?兎に角この惨劇を見ろ。お前に話し掛けられるまで私がずっとしゃがみ込んで向き合っていたこの惨劇を見ろ。

「私、家無しになっちゃったんだけど」
「だったら俺の隠れ家に来ればいい」

桂はしばらく考えた後、そう言った。今なら住み込みの永久就職のポストも空いてるぞ、ハッハッハッ。
人の不幸をそんなに笑う奴があるか!私はいっぱいの殺気を込めて桂を睨みつけた。しかし桂は尚も笑い続けながら私の肩を抱いて立ち上がらせてどこかに連れて行こうとする。

「ちょっと!」
「ん?」
「まずはてめぇ謝れ」
「それはあいつらが「は?」
「……ごめんなさい」
「……うん」

子供みたいにちびっと縮こまる。何だろうこの八つ当たりしてしまったような妙な怒りをぶつけたような決まり悪さ。けして間違った怒りではないのだけど!私はため息を吐いて、それから、どこに行くのと訊ねたら、「だから俺のアジトだと言ったろう」

「……誰も同意してないからねさっきの」
「えっ」

何故そんなに目を飛び出させてぎょっとした顔をつくる。

「じ、じゃあ貴様、このまま一生ダンボール生活を送るか多少鄙びてはいるがスリル満点な俺の家に永久住み込みの生活を送るのとどちらがいいと言うのだ!当然後者だろう!」
「……一応私、真撰組からの補償金は貰えるみたいだから、住み込みとかは別に」
「何!?貴様金に目が眩んで幕府に魂を売ったのか!」
「いや補償金貰うのは当たり前でしょ。家全壊なんだから。ていうか私元々攘夷派でも何でもないから」
「……」
「……」
「……」

・・・・・・。

「でも何日間かはお世話になれると有り難い、な……」

桂は満足げに頷いて私の手を取った。その横顔を見つめていたらまあそれも悪くないか、と思えてくる。そしてこれからの生活を思っていきなり緊張しだしてきたことを悟られないように、深く息をした。




20130701 遅くなったけど桂さんお誕生日おめでとう!
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