短編 | ナノ

口から吐き出された水蒸気は白く色付けされて凍てつく空気に溶け込んだ。手を口元に持って行って同じように息を吹きかけるとぼんやりとした温もりが微かに広がる。ゴミ箱の近くに転がっていた空き缶を蹴る。缶は乾いた音を立てて跳ねた。その行為を相変わらず子供っぽいね、と笑うアイツはいない。冷え切った指先をけして自分も温かくはないのに包み込んで温めようとする手を持つアイツは、病室で一人手をグーパー握って開いてを繰り返している。つまらないの。

すっかり通い慣れてしまった病院へと続く道をのろのろ歩く。びっしり犇めきあう寒さは私の肌を突き刺して晒された肌は赤くなる。ポケットに忍ばせたカイロを取り出してもすぐにぬるくなってしまった。それから、これはもうすぐ有効時間が切れるのだったと思い出す。
ちらちら降る小雪は確かに私の温度を奪うのに私が熱を失うことはない。



「雪が降ってるんだね」

幸村の蒼髪はこの無機質な白い空間にはとても寒々しい。病室は乾燥しすぎず寒すぎずの適温になっていて肉体的にはだいぶ居心地の良い場所だった。遊んできたりしたの、という問い掛けに首を振ってからパイプイスを窓際に寄せて座る。窓から冷たい空気が伝わってくる。

「一人ではしゃいでたらただの馬鹿じゃん」
「あれ、ずっと馬鹿だと思ってたんだけど」

幸村は真顔で言った。それをキッと睨むとごめんごめん、と笑う。

「寒いね」

私がそう言うと幸村は眉を寄せた。風邪なの、という問いに首を振る。

「……」

幸村は私から視線を外さず、私は幸村に視線を戻さなかった。無機質の真っ白な床に焦点を落として寒いんだよ、と繰り返す。幸村は何が、なんて質問は寄越さずに深い息を吐き出しただけだった。ちらと視線を上げてそれを確認しても、白く色付いたりなどしてはいない。
指先がじわりじわりと痺れながら熱を持っていくのが分かる。指をちゃんと動かせるまで感覚が戻ってしまうのが何だか惜しいなと思った。幸村の手にそっと触れると、彼の手は私の手とそう変わらぬ温かさで、ああつまらない。私の指先は温まらないし、私の手が幸村の指先を温めることもないのだ。




20110221

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