目を覚ますといい匂いがしてわたしは起き上がった、山口さんがおはようと笑った。

「おはようございます」
「朝ご飯できたよ」

机にはみそ汁と焼き魚とご飯が二人分おいてあった、顔洗っておいで、タオルを渡されたわたしは急いで洗面所まで走った。
顔を洗って帰ってきたら布団はしまわれていた、わたしはすみませんと謝って机にむかって座る。

「大丈夫だよ、じゃあ食べよう、いただきます」
「いただきます…」

焼き魚を一人で食べるのははじめてだな、そう思いながらせっせと骨をとる、山口さんは上手だね、と褒めてくれた、嬉しくてわたしはありがとうございますと笑った。
食事が終わって洗い物も終わると山口さんは歯を磨こうね、とわたしに歯ブラシをくれた。
終始ニコニコと笑っている山口さんにつられてわたしも終始笑っていた気がする。

「今日は何をしようか」
「なんでもいいです」
「うーん、春希ちゃん好きな遊びとかはなに?」
「特にありません」
「そっか」

困ったように笑う山口さん、わたしは申し訳なくて俯く、山口さんは動物は好きかと聞いてきた。
わたしが好きだと答えると山口さんはじゃあ動物園に行こうと立ち上がった。

「動物、園」
「嫌い?」
「行ったことないです」
「楽しいよ、僕はすごく好きなんだ」

山口さんはわたしに着替えを手渡した、これも大家さんから支給されたらしい。
着替え終わると山口さんは可愛い可愛いとわたしの頭を撫でた。
動物園について一番はじめに山口さんおすすめのふれあいコーナーに行った。

「うさぎ…と」
「モルモットだよ、可愛いでしょ」
「か、わいい…」
「(あー春希ちゃん可愛い)」

山口さんがわたしの頭を撫でた、わたしはうさぎの頭を撫でる、うさぎのながい耳がぴくりと動いていた。
動物園は夢と希望でいっぱいだった、これは何日いても飽きないなとわたしは思った、帰る時間になったとき山口さんは帰ろうかとわたしの手をとった。
夕日をあびながらわたしと山口さんは歩く、親子って、こういうことするんだろうか、わたしのお父さんとお母さんはなんでわたしを。

「春希ちゃんついたよ」
「、はい」

いつの間にか、あした荘に戻っていた、山口さんと手が離れる、中田さんが部屋からでてきて山口さんと話をしている。
わたしは山口さんと繋いでいた手をちらりと見る、寂しそうにふらふらしてる。

「春希ちゃん」

中田さんの優しい声に振り向くと、中田さんと山口さんがニッコリ笑ってわたしのことを呼んだ。
駆け出す、中田さんは言った。

「託児所がみつかったから、あしたから昼間はそこにいてくれるかな」

はい、返事をしたつもりだけど、うまく返事ができたかはわからない。
嫌、なのだろうか、たくじしょ、という場所はどんな場所かはわからない、だけど、多分、わたしの直感だと、また、お父さんとお母さんみたいに、わたしを。

「金がもったいないだろ、託児所なんか別にいいと思うぜ」

後ろを振り返ると、わたしを嫌っていた高田さんがそう言ってバイクを押していた。
中田さんと山口さんは一回顔を見合わせてから高田さんを見て言った。

「でも先日みなさんで決めましたし、費用は大家さんが殆どだす予定ですし」
「そうですよ、託児所に預かってもらわなかったら昼間どうするんですか」

二人にそう言われると高田さんは煩い煩いと溜息をついた。

「一人いるだろ、朝も昼も夜も殆ど家にいる奴が」
「ああ…」
「そうでしたね、でも大丈夫かな」
「俺が言っとく、寝る時と朝食だけ全員で交代すりゃ文句ねーだろ」

どんどん話が続いていく、わたしは、どうなるのだろう、たくじしょ、には行かなくていいのだろうか。