たまにわたしのいる施設に来ていたおじさんとおばさんに連れられてわたしは歩いていた。

「春希ちゃん、今日からここに住むんだよ」

ニッコリ笑うおじさんとおばさん、わたしは引き取られたのか、もう、施設のみんなとは会えないのか、なんだか悲しくなって、泣いた。

「あらあら」
「あ、大家さん、こんにちは」

知らない男の人がおじさんとおばさんに声をかけた。

「中田さん」
「この子ですか、預かってほしい子っていうのは」

預かる、わたしはこの人と今後を過ごすのか、怖い、涙は止まらない。
ポロポロと涙は零れる。

「ええ、でも泣いちゃって、春希ちゃんっていうの」
「そうですか、春希ちゃん、こんにちは」
「っ、…こ、にちは」

挨拶をきちんとしなさい、施設にいた時よく言われた、わたしは涙をふいて挨拶をした。

「春希ちゃんはちゃんと挨拶ができるんだね、偉いね」

頭をそっと撫でられた、この人は、いい人なのだろうか、わたしにはまだわからない。
涙はいつの間にか止まっていた。

「では、僕が責任をもって預からせていただきます」
「よろしくお願いします」

おじさんとおばさんの背中がどんどん小さくなっていく、隣りでニコニコと笑いながらおじさんとおばさんの背中を見つめている中田さんは、しばらくしてからじゃあ行こうか、とわたしの手をとった。
手をひかれて部屋に行くのかと思ったら部屋には行かずに庭のようなところへ連れていかれた、庭のようなところには人がたくさんいた。

「ここに住んでる人達だよ、自己紹介をしようね、僕は中田孝、よろしく」
「はいはーい!私は村中舞!お菓子大好き祭大好き!今日はぱーっとやろうぜ」
「私は坂下優子、よろしくね」
「高田だ…こっちを見るな、餓鬼なんか嫌いだ」
「高田さんの下の名前は勇二だよ!ちなみに私は結城光子、高田さんのことなら私に聞いて」
「お前気持ち悪い」
「褒め言葉ッスハアハア」
「町野尊、よろしく」
「みんなのアイドルふじここと藤琴海よ、よろしくね」
「高見佳孝…」
「俺は山口一だよ、わあ可愛いなあ可愛いっこっちむいて、ああ可愛い」

どんどんどんどん息をする暇もないくらい早く自己紹介された、名前、覚えられるかな、わたしは俯いたまま小さな声で春希、と言った。
すると聞こえねえもう一回言え、と言われた、まわりの人達がばか高田とか高田さんパネェッスとかいろいろ言っていた。
わたしは大きく息をすって、今まで生きてきたなかで一番大きな声をだした。

「春希です!」

顔をあげればみんな笑っていて、恥ずかしくてまた俯いた。
頭をぽんぽんとみんなから叩くように撫でられた。

「ようこそあした荘へ」

わたしは今日はじめて笑った。