「わたしこわいよ」

部屋に響くわたしの声、潮江の耳には届いているだろうか。
赤、赤、黒、地面にべったりとついた血の上にわたしと潮江がいる。
べたべたと足について離れない、手にも血はついている、体にも、すべてが血に染まっている。

「なにがだ」

くるり、潮江が振り向いて眉をしかめた。

「潮江が死んじゃったら、わたし…わたし」

血のついた手で顔を覆う、血の匂いがつんと鼻をつく、涙は不思議とでなかった。
潮江ははあ、と溜息をついた。

「ばかたれ、俺は死なん、現に俺は生きてる」

潮江の声は確かにわたしの耳まで届いている、わたしは静かに潮江を見つめる。

「でも」

そう言うと潮江は眉をもっとしかめた。
ごめんなさい、そう言ってわたしは頭を下げる。
潮江は別にいい、頭をあげろ、とだけ言って、奥へと進む。
待って、わたしは駆けた、潮江は進む。

「ひどいな」

潮江は奥の部屋を見て言った、わたしもそう思った。
人だった塊がごろごろと転げている赤や黒の部屋は、匂いもひどかった。
わたしは鼻を少し触る、潮江はずんずん進んでいく、潮江、もう危ないよ、学園へ帰ろう、そう言うと潮江は先に帰ってろ、と言った。
やけに素っ気無い。
わたしは頭にきたので帰らないわ、そう言った。
じゃあ少し目閉じてろ、そう言われてわたしはわけがわからなかった、でも、すぐにわけがわかった、敵が来たのだ。
わたしも、そう言えばばかたれ逃げろ、とだけ言って潮江は突っ込んでいった。
わたしだけ逃げるなんていやだ、わたしは潮江を見つめていた。
潮江、死んじゃだめ、わたしは呟いた。
潮江は目の前の敵を殺った。

「…っ」

吐き気がいきなりきた。
きっと、目の前で人が血と肉の塊になるのを見たからだろう。

「だから目を閉じてろと言ったんだ」

潮江はそう言ってわたしの背中を擦った。
でも、そう言えば潮江は眉をしかめた。

「ごめ、んなさい…」
「いい、学園に帰るぞ」

そう言って潮江はわたしを背負った、わたしは下ろしてと暴れた、潮江は煩いとだけ言ってそのまま学園へと戻った。
潮江、名前を呼ぶと彼はなんだ、と愛想のない返事がかえってきた、なんだか、そんな当たり前なことが嬉しくて、わたしは笑った。
頭がやられたか、潮江はそう言った。

「嬉しいのよ、潮江が死ななくて」

縁起でもないこと言わないでくれ、潮江も笑った。
潮江の背中は暖かかった。