先輩が泣いてたなんて聞いてない。
俺は部室を飛び出した。
職員室前につく、先輩は、いない。
先輩の教室へと走る。

「先輩!」

びくり、教室の自分の椅子に座って先輩の肩が跳ねる。
俺は教室に入っていって先輩の目の前で止まった。

「ひ、よちゃ、」

先輩は泣いていた、小さくなって、泣いていた。
罪悪感に襲われる、俺の言葉でこの人は、どれだけ傷ついたか、俺の言葉で。
ああ、くそ。その場に蹲ると先輩がガタリと音をたてて立ち上がった、そして俺のそばまできて言った。

「ひよちゃん大丈夫?頭でも痛いの?大丈夫?」

そして俺の頭を撫でた。
ばかか、この人は。
俺に泣かされてるのに、俺の心配してるなんて。
じわり、涙がでてきた。

「ひよちゃ、」

がばり、先輩を包んでしまう。
抱き締めたのはいいがそれからどうしたらいいのかわからなくなった。
頭が真っ白だ。

「ひ、よちゃん、ど、うした、の?な、泣いてる、の?」

先輩は変なところで勘が働く、くそ、俺は泣いてませんよ、と答える。
先輩はそっか、と答えて俺の頭をまた撫でた。

「ごめんね、ひよちゃん、て呼んで、馴々しいよね」

ぎこちなく笑う先輩の顔が容易に想像できた。
俺は何も言えなかった、今喋ったら涙が溢れて止まらなくなりそうだった。

「私ね、日吉ともっと仲良くなりたかった、でも、もういいの。ごめんね、日吉、嫌な思い沢山させて」

ごめんなさい、と先輩は言って、俺から離れた。
離れないでいて下さい、と言えたらどんなに楽なんだろう。
床に俺の涙が一粒、零れ落ちた。

「今までありがとう、日吉」