※擬人化


















彼の手を見て、私の手を見る、寂しそうな私の手、そっと彼の手を取るといやに暖かかった。
彼は一瞬びっくりしたようで、私を見てぱちりと瞬きした、けどすぐ笑って前を見た。
ずっと私だけ見てればいいのに。

「俺、浮気するよ」

知ってる、その言葉が私の口から出たことに自分でびっくりして、口元を押さえてクマ吉を見た、笑っていた。
私は少し眉をしかめた。

「でも、絶対きみのところに戻ってくるから、」

やすい言葉だ。
でもそれで安心してしまう私がいて、悔しかった。
うん、わかってるつもり、そう言えばクマ吉はよかった、と言った。
つもり、本当につもり。
わかりたい、クマ吉のことをもっと知りたい。
ねぇ、キスして、小さな声でクマ吉に縋った。

「…、だめ」

クマ吉は笑っていた、苦しそうに、悲しそうに、ねぇ、なんでそんな顔するの。

「やっぱり」

俺ときみじゃ釣り合わないよ、聞こえないふりして前を歩く、好きだよ、好きだけどきみにはもっといい人が、聞きたくない聞きたくない聞きたくない。
お願いもう言わないで、私壊れちゃう。
もう、だめになっちゃう。
お願い、言わないで。
私を壊さないで。

「私クマ吉がいいの」
「でも俺は」
「浮気されても何されても、クマ吉じゃなきゃだめなの」

ぽろぽろ零れる涙は、宝石にはならない。
集めてみても、どうにもならない。
私は両手で涙を拭って、ぐ、とクマ吉の目を見た。
クマ吉が視線を外す。
ねぇ、私じゃだめなの?静かに聞けば、クマ吉は、静かに答えた。

「きみにはもっといい人がいるはずだよ」

やだ。やだよクマ吉、そう言って抱き付くとクマ吉は困った顔した。
クマ吉がいいの、クマ吉じゃなきゃやだ、お願い、私を捨てないで、縋った。

「俺はきみを幸せにはできない」

そばにいるだけで幸せよ、そう言ったらクマ吉は笑ってそばにいることもできない、と言った。
でもクマ吉は今さっき言ったじゃない、私のところへ戻ってくるって、クマ吉は苦しそうな顔した。

「ごめん」

嘘つき、ばか、逮捕されちゃえ。そう言って私は涙を流した。
クマ吉がそっと私の涙を拭った。
ばか、もう優しくしないでよ、嫌いになれないじゃない。
クマ吉は悲しそうに笑った、ばか、そんな顔しないでよ。

「すきだよ」

やすい言葉ね、でもね、それでいいの、それ以上の言葉はいらない。
だから、お願い、私のそばにいてよ。
泣いても、クマ吉は去っていくってわかってる、だから、私はとびきり笑顔でいた。

「最後、きみの笑顔が見れてよかった」
「もう一生帰ってくるなよ変態野郎」
「ああ、」

その予定だ、静かなクマ吉の声に私は震えた。