※大学生、同棲
わけあってサッカーしてない















「ゆ、うと」

部屋でゆうととへらへら笑いあっていたら、ゆうとが急に真剣な顔して、突然、抱き締められた。
私は何が起こっているのか全然分からなくて、ゆうとの名前を呼んだ。
ゆうとは何も言わない。
私はするりとゆうとの背中に手をまわして、どうしたの?と言った。
ゆうとは静かに口を開いた。
サッカーがやりたいんだ、小さな声でゆうとは言った。
私はニッコリ笑って、やりなよ、言った。

「だが、俺は鬼道家を継がなければ」

そう言って、ゆうとは、こてんと私の肩に頭を預けた。
そっか、私の声が壁に吸い込まれた。

「もう、これ以上わがままは言えない」

そうだね、静かに返す、私と同棲するのも、だいぶ反対された。
でも最終的にゆうとのお父さんは仕方がないと笑って送り出してくれた。
それがどんなに嬉しかったか。
私は泣いた、ゆうとも泣きそうな顔していた。
反対を押し切って同棲しているのにゆうとのお父さんは毎月仕送りをくれる、それは2年たった今でもだ、何度かもういりません、これ以上迷惑はかけられません、と電話をしたが、私が勝手にやっていることだ、気にしないでくれ、と返されてしまう。
本当にゆうとのお父さんはいい人だ。
おい、名前を呼ばれて私はハッとした、ゆうとの顔が目の前にある、わっ、私は後ろに跳ねた。
ゆうとはそこまで驚くか、と呆れていた。

「なに?」

ゆうとは、黙り込んだ。
私はゆるゆるとゆうとの背中に手をまわしてぎゅうとした。
名前を呼ばれて、私は、ん、と返事をした。
しばらく見つめあう。

「ゆうと」

だんだん顔が近付いて、唇と唇がくっつきそうになったとき、電話がなった。
二人して苦笑いして、私が電話に出た。

「もしもし」

電話の相手は、ゆうとのお父さんだった。
ゆうとにかわってくれ、そう言われて、ゆうとに電話をかわる。
静かに座って待っているとゆうとが電話を終えて私の隣りに座った。
私がなんだって?と聞けばゆうとは元気かどうか聞かれたんだ、と答えた。

「そう、優しい人ね」
「ああ、そうだな、」

ゆうとの口数がいつもより少なかった、なんだかあやしい。

「他にはなんて言ってた?」
「…なにも」

ゆうとはそっぽを向いた、私は首を傾げて、ゆうとに、嘘つき、と言う。
ゆうとは深呼吸をして、私に言った。

「サッカーを、やりたいなら、やれ、と」
「え」
「テレパシーでもあるのだろうか」
「そうだね」

くすくす笑いながら言うとゆうともなんだか微笑んでいた。
サッカー、やりたいんでしょ?聞けばゆうとは勿論だ、と言った。
やっぱりね。
私知ってるよ、ゆうとが空いてる時間に外に出てボール蹴ってること、今でも筋トレしてること。
ゆうとの手をとる。

「やりなよ、サッカー」
「…だが」
「思い切り甘えさせてもらいなよ」

私がそう言うとゆうとはなんだか、複雑そうな顔をした。
あの人にとって、ゆうとは、きっと、まだ、可愛い子供なんだから。
私が笑うとゆうとは、静かに頷いた。
ゆうとが何か言いたげな顔をしている。

「なに?」
「キス、していいか」
「…、うん」

ちゅう、ゆうとにキスされた、嬉しくてニッと笑うとゆうとも笑った。