次の日の放課後、教室へ忘れ物した私は、教室へと走った。
途中、誰もいないはずの教室から、声がした。
私は咄嗟に息を潜めた。

「頼む」
「困るって」

ジローと向日くんの声、だ。
私は、ドアの後ろに隠れる。

「一度だけ話を聞いてあげて」
「なんでだよ」

ジロー、向日くんに、頼んで、くれてる。

「あいつ、苦手だって言ったあと、言おうとした言葉があるんだって」
「そんなの…嫌い、だろ」
「違う、違うよ」
「じゃあ…なんだよ」

ジローの声が、なんだか泣きそうだ。
こんなジロー、初めて。

「あいつから聞いて」
「もう…いやだよ…なんだよ、ジロー、そんな必死になって、あいつのこと」
「好きだよ!だから幸せになってほしいの!」

ジローが、私のこと好き?

「親にも無視され続けて、友人の前でも自分殺して、あいつには、がっくんしかいないんだよ、俺じゃ、だめ、なん、だよ」

ジローがいつもいつも私に優しかったのは、好き、だから?
そうだとしたら、私、ジローを何度も何度も傷つけた。
ずっとずっとジローを傷つけてた。
涙が止まらない、私、ジローになんてことしてきたんだろ、優しさに甘えて、なんてことしてきたんだろう。
私は堪えきれなくて、飛び出した。

「ジロー」
「…おめぇ、いつから」

ジローのそばまで駆けていって、ジローを抱き締めた。
そして、私は謝った。

「ごめんね、ジローごめん、もう、いいから、」

謝っても、もう取り返しのつかないことだってわかってる、でも、謝ることしかできないから。
涙がぽろぽろ零れてきて、ジローの顔は見えなかったけど、ジローは笑ってた気がする。

「お前ら、だけ、悲しいと思うなよ、泣きたいのは、俺、だって」

向日くんが、泣きそうな顔した、言わなくちゃ。
好きって、言わなくちゃ。