「すき、なのかな」

この気持ちを、好きっていうのかな。
私にはわからなかった。
でも、向日くんがそばにいないと、辛くて、辛くて、涙が零れそうになる。

「今日一日考えて、それでも答えがでなかったらもう一日考えて、どうしても助けてほしい時は、俺を呼んで」
「ジロー、ありがとう」

ジローはそれだけ言って、帰っていった。
ジローに言われたとおりに、考えなくちゃ。
私は、向日くんのことが、好き、なのか。
向日くんがそばで、笑ってくれると、私も笑顔になれる。
向日くんと手を繋ぐと、どきどきして、息ができなくなる。
向日くんがそばにいないと、寂しい。
ジローがそばにいてくれるのに、頭では向日くんのことばかり考えてしまう。
簡単に言えば、向日くんのことで頭がいっぱい、だ。
これを、好き、というのかな。
向日くんのことを考えると胸がぎゅうと締め付けられる。
向日くんが私をどう思っているのかがすごく気になる。
向日くんに嫌われるのを極端に嫌がる。
これって、好きなの?
でも、嫌いな人のことならこんなに悩まないし、胸がぎゅうと締め付けられる思いなんてしない、よね。
でも私向日くんみたいなキラキラした人苦手だし、でも向日くんは気になるし。
それって好きなんじゃない。

「すき、私向日くんのことが、好き」

ここまでくるのに、時間がかかりすぎた気がした、けど、決して無駄な時間はなかったと思う。
最初はあんなに苦手だったけど、今は違う、好き、だ。
向日くんの優しさが、好きだ。
立ち上がって、ジローに報告しようと携帯を持ったらもう12時まわってて、やめた。
お風呂にはいって、寝ることにした。
ジローには明日報告しよう。
寝ようと思って布団にはいる、疲れてるからすぐ寝れると思ってたけど全然寝れなかった。
眠いはずなのに寝れない、おかしい、どうしよう。
起き上がって、体育座りする、携帯がなった。
びくり、誰、だろう、こんな時間に電話なんて。
携帯をとって、画面を見るとジローと表示されていた。
私は急いで通話ボタンを押して携帯を耳に押し当てた。

「寝てた?」

ジローの優しい声が携帯ごしに聞こえた。

「ううん、」
「そっか」
「ジロー」

向日くんのこと、言わなくちゃ、どきどきしながら、私が話そうとするとジローが好き、なんだろ、と言ってきた。

「…、よくわかったね」
「何年一緒にいると思ってんだ、しかもおめぇわかりやすいC」
「わかりやすい、かな」

頬をぽりぽりと掻く、ジローは続けた。

「がっくんといる時、すごく、幸せそうだ…俺といる時なんかより」
「え?」

何を言ったのか、よく、聞こえなかった、ジローは、なんでもない、と言った。
私は首を傾げた、ジローは言った。

「明日にでもがっくんに伝えたら?」

びくり、肩が跳ねた。
向日くんに伝えても、向日さんは私を嫌っていて、避けてて、一体伝えて何になるの?

「伝える、の?でも、向日くんはもう」

また、涙がじわりと滲んできた。

「がっくんは、そんな簡単におめぇを嫌いになったりしないと俺は思う」
「え」
「ただ、今は、苦手だって言われて、ショックで、おめぇを避けてるんだと思う」
「でも」
「ちゃんといいな、あの時、言いたかった言葉」

あの時言いたかった言葉。

『わっ、私、は、向日くんのこと、に、にが、て、です、でも、気になる、んです、こんなの初めて、で、わからなくて、ただ、向日、くんのこと、少しでも知りたいと思うんです』

あの時言えなかった言葉。
ジロー、小さな声で呼ぶ、なに、ジローの優しい声が私まで、届いてる。

「私、伝えるよ」

小さな小さな声で、言った。
ジローは、そうか、と静かに言った。
私の小さな声を、聞き取ってくれたのは、ジローと、向日くんだけだった。
他の子、も、お父さんもお母さんも、聞き取ってくれなかったのに。
嬉しかった、本当に。