日吉くんと鳳くんは帰っていった。

「じゃあ俺らも帰ろうぜ」

向日くんが私に言う、私がうんと返事するとジローもうんと返事した。

「「え」」
「俺も一緒に帰る」

ジローは欠伸をひとつしてじゃあ待っててね、と部室に入っていった。

「ああ!待ってるな(くそくそ!折角二人きりになれると思ったのに)」
「ジローはいいなあ」
「ん、なんでだよ」
「い、いや、な、なんでもない…です」

向日くんに声をかけられてびっくりして俯いた、向日くんは頭をがりがり掻いてあのさあ、と私にまた声をかけてきた。
私ははい、と返事をすると敬語やめてくれね?と向日くんは言った。

「わ、たし、敬語になってました…か?」
「今もな」

ええ!?と言って今言ったことを思い出す、あ、敬語だ。
ごめんなさい、頭を下げると向日くんは謝るなよ、と言ってきた、困る、よね。
気持ち悪いよね。

「う…」
「な、泣いてんのか?」

向日くんが私の顔をばっと覗き込む、びくっ、肩が跳ねる、向日くんは溜息をひとつついて鞄からタオルを出して私の流れ落ちかけた涙をふいた。

「ごめんなさい」
「だから、ああ、もう…別にいいから、さ、気にすんなよ」

そう言って優しく頭を撫でられた。
私は、また、涙が出そうになった、向日くん、そう言って向日くんの胸に飛び込む、うお、向日くんはびっくりしていた。
心臓がばくばくいう、口から飛び出そうなくらい。
でも、それは向日くんも一緒だった、私はなんだかおかしくなって、笑った。

「あ」
「なに?」
「やっぱさ、お前笑ってた方が可愛いよ」

さらりとすごく恥ずかしいことを向日くんは言った、日吉くんの言ってたように恥ずかしい人なのかもしれない。
でも、そんなキラキラした恥ずかしい向日くんに、私は、だんだん惹かれているのかもしれない。

「向日くんも、笑ってたらキラキラしてる」
「え」
「わ、笑ってなくてもキラキラしてるよ!」

そう言うと向日くんはさんきゅと笑った、ほら、キラキラしてる。
ガチャリ、ドアがあいてジローが戻ってきた、ジローは、私達を見て、青春だね、と笑った。
向日くんは煩い!とジローに殴りかかった。
ジローはするりと向日くんのパンチをかわして、私の肩にぽんと両手をおいた。

「さ、帰ろ、俺眠いC!」

そう言ってジローは歩き出した、私もジローのあとを追う、向日くんはくそくそ!と地団駄踏んで、それからたたた、と走ってきた。
そしてするりと私の手をとった。
びくり、肩が跳ねる。
その様子を見たジローが鞄を漁りだした。

「…やば、俺忘れ物した」

ジローは鞄をひっくり返して中身を全部出した。
私はジローの鞄から出てきた教科書やノートを拾ってあげる、ジローはそういうことだから、二人で帰って、と言ってきた。
ふたり、どきり心臓が高鳴る。

「ま、待って、るよ?」
「Eーの」

ジローは私から教科書とノートを受け取るとニッと笑った。
向日くんはほんとにいいのか?と聞いたらジローはうんと頷いた。
私はどきどきが止まらない。
向日くん、と二人、きり。

「じゃあ先行くから、追いつけよ」
「オッケー」

そう言って別れた、向日くんも私も一言も喋らないで歩く、どく、どく、心臓がリズムよく脈打つ、息がうまくできない。
繋いだ手から溢れる温度が心地よくて、私は、歩くことを忘れて立ち止まった。

「どうかしたか?」
「…あ、だ、大丈夫」

こくこく頷いて、返事をすると向日くんはくすりと笑った、そしてまわりをきょろきょろ見て、目の前の公園を指さした。

「あ、のさ、ここの公園ちょっと寄らね」

向日くんは目の前の公園を指さした。