その後向日くんと鞄を取りに屋上に行った、気まずくて、たまらなかった。

「(授業疲れた)」

ふと窓の外を見れば向日くんのクラスが体育の授業でサッカーをやっているようだった。
あ、向日くんがシュートを決めた。
みんなとハイタッチしてる、いいな。
チャイムがなる、ふわあ、と欠伸をしてノートと教科書を片付けて机に突っ伏した。
今日、部活見に来いよ、向日くんと鞄を取りに屋上へ行った時に言われた言葉が頭の中で繰り返される。

「(部活…確かジローと同じテニス部だった気がする)」

溜息をついて目を閉じた。
ふ、と目を開けたら目の前に向日くんの顔があった。

「「わっ」」

二人して驚いて向日くんは後ろへ跳ね、私は椅子ごとひっくり返った。

「悪い、大丈夫か」
「あ、うん」

そう言って差し出された手を掴む、そして起こしてもらう、向日くん、力持ちだな。

「な、んでここに?」
「ああ、だってなかなか部活見にこねぇからさ」

向日くんはニッと笑った。
なかなかって私1分くらいしか目を閉じてない、と時計を見ればもう30分もたっていた。
私、寝てたんだ。

「ご、ごめんなさい」
「あ、ああ、大丈夫大丈夫!じゃあ早く行こうぜ、跡部に怒られちまう」

そう言って向日くんは歩きだした、私も鞄を持ってあとを追う。
少しすると部室についたらしく、向日くんは部室の前で待ってろと言って部室に入っていってしまった。
私はうん、と返事をして部室の前で待っていた。
すると忍足くんがこっちに向かってもう一人きのこみたいな頭の子とへらへらしながら歩いてきた。

「なんやがっくん待ちか?」
「あ…はい…多分」
「多分て」

忍足くんは苦笑いする、私もつられて苦笑いする。

「ああ、この人が向日さんの彼女ですか」

隣りにいたきのこ頭の人が眉をしかめて私を品定めするようにジロジロと上から下まで見る。

「そうや、がっくんいい趣味しとるよな」
「…普通ですね」
「日吉の普通は褒め言葉やからな、勘違いせんといてな」
「あ…はい、」

なんだか向日くんといる時より気まずくて、困った。
向日くん早く来ますように。
目をぎゅうと瞑って、我慢する、早く、早く終われ。
二人とも部室に入れ。
そんなこと願っていたら、なにやってるんだC、とジローの声がした。
助け船だ。
助け船ジロー号だ。

「おめぇ泣いてねぇな?」

たったった、と走ってきて私の顔を覗き込むジロー、私はニッコリ笑って大丈夫!と答える。
ジローもニッコリ笑った。

「なんや俺が女の子泣かすような奴やと思っとったんかジロー、日吉は泣かすけどな」
「俺だって泣かしませんよ」

二人して口喧嘩をはじめた、私は気まずくて溜息をつく、すると部室から誰かでてきた。

「向日く……」

振り向いて声をかけようとしたら、そこに居たのは、向日くんではなく跡部くんだった。

「ご、ごめんなさい」
「は?」

頭を思い切り下げると跡部くんは不思議そうに私を見つめた。
そして私が、向日くんと間違えちゃって、す、すみませんと言えば頭をがりがりかいて言った。

「そんなに謝られてもこっちが困る」
「そ、そうですよね、ごめんなさい」
「だから謝るなって」
「ごめ……はい」

そう言って俯くと跡部くんは困ったように溜息をついた。
ああ、私今跡部くんに嫌な思いさせてる、どうしよう、呆れられてる、絶対。
するとジローが頭を撫でてきた、私はジローにありがとうと言って笑う、ジローもニッコリ笑って頭を撫でるのをやめた。

「なにニヤニヤしながら見つめあってんだよ」

気がつけば向日くんがいて、なんだか怒ってるみたいだった。

「がっくん嫉妬?」

ジローが笑うと向日くんはかあっと顔を真っ赤にして叫んだ。

「っ…そうだよ!悪いか!」

忍足くんも跡部くんもジローも日吉くんも笑った。
すると向日くんは地団駄を踏んで、くそくそ、笑うなよ!とみんなに言っていた。
みんな、仲良し、なんだな。
いいな、私もこうやって笑ったりしたいな、高望み、だけど。

「練習はじめるぞ」

跡部くんがそう言って、みんなコートへと歩き出した、向日くんも私に行こうぜ、と笑った。
うん、と返事して、みんなのあとを追いかけた。