「好きだ」

なんで私なんだろうって思った。
女の子なんて腐るくらいいるこの世の中で、なんで私なんかなんだろうって。
そんでもってわけわかんなくて、返事に困った私はいつもの友達との会話のように私も、と答えた。
言ったあとに気がついた、私、大変なこと言ったんだって。
ちらり、目の前で真剣な顔してる数回喋ったことのある程度の向日くんを見る。
今の言葉聞こえてなかったなんて奇跡、ないかな。
私は向日くんをじ、と見つめる、向日くんは少し照れくさそうに私の手をとった。
そしてこれからよろしくな、と言って笑った。
ばっちり聞こえていたようだ、私はうん、と小さな声で答えて笑った。
向日くんは手を離す、空気は冷たかった。
全部全部嘘って言ってくれたら、私泣いて喜ぶのに、向日くんはそんなこと言ってくれなかった。
その代わりに一緒に帰ろうぜ、と言った。
私はこくりと頷いてそのまま顔をあげなかった。
嗚呼、嘘じゃないんだ、私、向日くんと付き合うんだ。

「大丈夫か?」

向日くんが私の顔を覗き込んできて、私はこくこく頷きながら返事をした。
すると向日くんはニカッと笑って面白い奴だな、と言った。
なんだか恥ずかしくなって、また俯く、すると向日くんは私の手をばっととって帰ろうぜ、と言って歩き出した。
私は引っ張られて歩き出す。
む、かひくん。私の小さな声を向日くんはちゃんと聞き取って、くるりと振り向いた。
それだけなのになんだか嬉しくて泣きそうになった。

「私の声、聞こえるんだね」

呟くように言うと向日くんは聞こえるに決まってるだろ、と笑った。
向日くんは知らないんだよ、みんなが反応してくれるのがどんなに嬉しいことか。そうは言わずに私は笑った。
向日くんは不思議そうな顔しながらも納得したのかニッと笑って歩き出した。

「あの…手」
「あ…わ、わりぃっ嫌だったか?」

嫌、なのだろうか、私は首を傾げる。
向日くんのこと、嫌いなのだろうか、首を傾げて考える。
嫌いではない、好きでもないしでもはっきり言わせてもらうと苦手だ。
明るくて、元気で、みんなの太陽みたいな人は苦手なのだ。
私みたいのとは到底釣り合わない。

「ごめんな、」

向日くんは私に謝る、謝らなきゃいけないのは私の方だ。
好きでもないのに告白を断らなかった。
私はごめんなさいと言って頭を下げる、向日くんはなんでお前が謝るんだよと笑った。
相変わらずよく笑う人だな、なんて思いながらやっぱり私には眩しすぎる人だよ、そう思った。

「ねぇ向日くんやっぱり」

私達、付き合うなんて間違ってるよ、言えずに黙り込む。

「ん?」
「…早く、帰ろう」
「あ、ああそうだな」

ニカッと笑う向日くんに胸が痛くなった、嗚呼、私すごい弱虫だ。
人に嫌われるのなんか慣れてるはずなのに怖い。
駄目な人間だなあ、そう思いながら帰った。