「た、なか?」
丸く見開かれた瞳には確かな動揺と、不安と。
なんだかいろんな感情がぐちゃぐちゃにされてぎゅうぎゅう無理やり詰め込まれたみたいな瞳だった。
泣きそう、にも見えた。
ただ、その原因は確かに俺で、泣いてほしくはないけど、俺のせいで、泣く、という事にやけに気持ちが揺れた。
「無防備すぎる」
そう、無防備すぎるんだ。
「お前は女で、俺は男だ」
「そんなこと、わかっ」
「わかってない」
わかってないよ、全然。
こうも簡単に俺の部屋で二人きりになって、そんなに無防備になって、俺は、男だ。
きっと俺のことを友達としか見てないだろう、知ってる、そんなことは。
でも、それでも。
お前が俺を友達としか見てなくても俺は違うんだ。
「ね、田中退いてよ」
「いやだ」
「田中」
惨めでもなんでもいい、縋るみたいに抱きついた。
力の加減もせずにただ心のままに抱きしめる。
「好きなんだよ、本当に」
苦しいんだ、もう二人きりになったら衝動を、自分を抑えきれなくなるくらいに、盲目的に、好きだ。
「わ、たし」
「いい、知ってる、分かってる、ごめん。でも今だけ、何も言わずにこうさせてくれ、ごめん、ごめん」
知ってる、分かってる、何度も聞いてる、お前が飛鷹のことが好きってこと。
「 」
名前を、呼んだ、初めて。
「 」
最後にするから、だから許して。
「はる」
「っ、」
初めて、呼ばれた、名前を。
なんで、なんでお前は。
「な、で…なん、おま、」
「ごめん」
「…いや、ごめん、ほんと」
諦めたいのに、諦めるべきなのに。
無くすべきなのに、無くさなくてはいけないのに、この想いは。
「ーっ」
なんで、こんなにも溢れるのか。
「好きだ、好き、ごめん本当に。でも好き、だ」
「う、ん」
「あいつじゃなくて俺を見て、よ」
「ごめんね」
「いい、ごめん、俺、止まらなくなって、ごめん帰った方が、ほんと、このまま俺無理矢理いろいろしそう、だし、ごめんほんと」
「わかった、帰るね」
「ごめん」
「ううん、あのね、私田中のこと友達として大好きだよ、今も変わらないよ」
「ありがとう、ごめん」
愛しい、辛い、愛しい。
静かに離れていく、あいつの手をはなしたくはなかった。
でもはなさなければいけなかった。
一人になった部屋で、少しだけ泣いた。
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いまさらですが田中の名前は春です、田中春。